《【完結&謝】親に夜逃げされた姉妹を助けたら、やたらグイグイくる》第十三話 言い訳
俺は、二人のもとに戻ると、小聲で言った。
「まずい。厄介なやつが來た。今の狀況を見られたくないから、隠れてくれないか?」
「え? でも隠れてと言われても……」
唯一の出り口は、その人によって塞がれている。となれば、窓から出て行ってもらうしかない。あと、テーブルに置いてある食は片付けなければ。
そんなことを考えている間に、今度はノックと聲が聞こえてきた。
「おーい! 介いるんだろ? さっさと開けてくれ。外は寒いんだ」
「頼む。俺にはこの狀況を説明できない。靴を持ってくるから、窓から外に出て」
渋々といったじで、二人は窓際に寄る。窓の前にはベッドがあるから、そこを乗り越えていかないといけない。出る準備を始めた二人をよそに、俺はテーブルの食をすべて流しに運んでいく。
「悪い。あいつが出て行ったらすぐに呼び戻すから」
カーテンをほどき、窓を開けると冷気が飛び込んでくる。実里が窓枠に腰かけたところで、急に窓の奧からとある人がやってきた。
――最悪。塀を乗り越えてきやがった。
そして、よりにもよってこの狀況で鉢合わせてしまう。何食わぬ顔で不法侵してきたのは、一見優男のように見える眼鏡の男。そいつは、俺と姉妹の様子を見て、をのけぞらせていた。
「え!? どういう狀況!?」
終わった。俺はそう思った。
* * *
「ええと?」
顔に怒りマークを張りつけたような表で、男が俺の前に座っている。姉妹は、俺の両隣に正座しながら、困り果てている様子だった。
「介。おまえ、土曜の朝っぱらからなにやってるんだ?」
この男は、俺の兄――雄介である。どうやら、昨日の電話に腹を立ててわざわざ俺の家までやってきたらしい。まずいことになった。獨りの男が子高生二人と食卓を囲んでいるなんて言い訳のできない狀況だ。開き直るしかない。
「朝飯を食っていただけだ。朝飯を食べてはいけないのか?」
「そうじゃない。なんで若いの子をこんな部屋に連れ込んで、飯を食ってるんだ」
雄介の視線が姉妹に注がれる。二人は、きまずそうに目をそらしていた。
「別にな、どういう際をしようがかまわない。だが、いくらなんでも相手が若すぎないか? くわえて、こんな朝早くに一緒にいることについて、いろいろ穿って考えてしまうぞ」
朝に來たというよりも、夜からずっといると考えたほうが自然だろう。しかし、隣の住人と言ってしまうと、さらにややこしいことになりそうだ。
そこで、沈黙していた実里が顔をあげた。
「あの、ちょっといいですか?」
なにを言うつもりだろうか。雄介は、どうぞとつづきを促した。
「わたしたちは、ご飯を作ったり、一緒に食べながら話をするサービスを行っているんです」
別の意味で終わった。死にたい。
「最近、獨りの方にご好評のサービスとなっていまして、危険を考えて、必ず二人一組で行することになっているんです。また若く見えるのかもしれませんが、わたしたちはどちらも二十歳を超えています」
「サービス……。え? なにそれ……」
ドン引きしながら、俺の顔を見ている。そのとき、オープンラックの飼育ケースからがさごそという音がした。普段であれば寢ている時間だが、聲に驚いたのかミミが起きてしまった。
「獨り……。の子とご飯を食べるサービス……。家のなかにはハムスター……」
雄介の怒りが哀れみに移り変わっていくのを、俺は黙って見ていた。
「おまえ、こういうのいくらするんだ?」
「……さあ」
ごまかせてはいるが、大事なものを失っている。つい顔がひきつってしまう。
助け船のつもりか、実里が再び口をはさんできた。
「一回につき、およそ一萬円程度の料金をいただいています。わたしの認識する限り、尼子様からの依頼は、今回が初めてです」
「そうか。よくわかった」
悔しいことに、なんの反論もできない。雄介が肩をポンポン叩いてきてうっとうしい。
「タイミングが悪かったんだな。俺は、おまえの趣味にケチをつけるつもりはないし、おまえの金をどう使おうがおまえの勝手だ。ごめんな、問い詰めるようなことをして悪かった。だからといって、窓から逃がそうとするのは、よくなかったぞ」
もうどうにでもなれと思った。
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