２月が終わりかけている。しかし、依然として寒さは継続したままで暖かくなる気配はない。

特に今日は、雪が降ってしまった。１月にも降ったことはあったが、今日はそのときよりも降雪量が多く見える。なにせ、踏んづけると靴のなかにってくるくらいに雪が積もっているからだ。

子供のときは好きだった雪だけど、大人になるとうっとうしいことこのうえない。雪で遊ぶよりもを溫めたいし、外に出て買いをするにしても転倒のおそれがある。大人になってから転倒すると、けをうまくとれず、怪我を負いやすくなる。

だから、なるべく外出せずに大人しくしているに限る。

俺は、暖房をガンガンにれたうえでベッドに寢転がっていた。手には漫畫の本。まだ読みきれていないものがあるので、消費するだけで一日を終えられそうだった。もしも今日が平日だったならば、雪にまみれながら會社に行かなければならなかったから、休日であることを心の底から謝したい気持ちだった。

しかし、そんな日でも姉妹はやってくる。

インターホンが鳴ったので家に招きれたら、晴香が言った。

「今夜、鍋にしませんか？」

質問しているくせに、すでに土鍋とカセットコンロを運びれていた。俺の家に土鍋がないことはリサーチ済みだったらしい。

「寒いから、鍋にするのは悪くないアイデアだ。ただ、一つ問題がある」

「なんですか？」

「鍋に必要な材料がない」

俺の部屋に野菜なんかない。そもそもろくに自炊もしてこなかったから、野菜を買う習慣がない。最近に至っては晴香に頼りっぱなしで、自分で食料を用意するという発想がなかった。

「では、買いに行きませんか？」

「この雪のなかを？」

「そんなに遠くないじゃないですか。せっかくなので、スーパーでなにをれるか相談しながら買いましょう」

歳下相手に「行きたくない」と駄々をこねつづけるわけにもいかず、押し切られる形でスーパーに向かうことになった。しかも、俺が用していたま〇ば〇けっとではなく、もうし離れた大き目のスーパーじゃないと嫌らしい。

普段であれば、１０分かからずに行ける距離だが、今日は２０分近くかかってしまった。

傘を閉じて、口付近でコートについた雪を払う。

「すごい雪ですねー。傘があってもとうてい防ぎきれないです」

晴香が傘の雪を落としながら言う。いつぞやに俺があげたビニール傘のようだった。

スーパーのなかは暖房がきちんと効いていて暖かい。まずは、目の前にある野菜コーナーに向かって行った。

「尼子さん、苦手な野菜はありますか？」

もしかしたら、野菜コーナーに立ち寄るのは久しぶりかもしれない。俺は言った。

「そうだな、野菜は全部苦手だな」

「……そういう意見は卻下です」

聞いても無駄だと思ったのか、白菜、ねぎ、ニラなどをカゴに放り込む。

「晴香。野菜よりものほうが大事だよ？」

「姉さんの意見も卻下。子供じゃないんだから自重して」

とはいえ、野菜のない鍋はのないテレビくらい味気ないのも理解している。食べられないものはなかったので、抵抗はしないでおいた。

「野菜をなんとなく選びましたが、鍋の種類を決めないことには始まらないですね。希はありますか？」

こういうときになんでもいいと言ったら怒られるらしい。

「そうだな。特に思い浮かばないけど、楽なやつでいいよ。どんな種類があるっけ？」

「シンプルなものなら、出で味をとる水炊き。辛いやつがいいならキムチ鍋がメジャーです」

「辛いのは好きなんだよなぁ」

最近、食堂以外では辛いを食べていない。二人とも、苦手意識はないようなので、すぐにキムチ鍋に決まった。

豆腐やシイタケもあわせてカゴにれ、コーナーにやってきた。

「キムチ鍋だったらやっぱり豚ですかね。どれくらい買いますか？」

「てきとうでいいよ。余ったら余ったで、翌日以降に食えばいいし」

「じゃあ、ちょっと多めにれますね」

ほかにも、キムチ鍋の素や足りない調味料などを購して、スーパーから出た。荷は俺が持つことにしたが、思ったよりも重くて腕が悲鳴を上げる。家に著いたころには、指先の覚がほとんどなくなってしまった。

「尼子さん、お疲れさまでした。でも、冷蔵庫にはらないですね」

うちには、ビジネスホテルにあるような小さな冷蔵庫しかない。基本的に、ビールや余りものくらいしか冷やさないので、それで事足りてしまうのだ。仕方なく、野菜は平川家の冷蔵庫にれることにした。

袋を持ったまま、姉妹が暮らす部屋のなかにる。

いつも、俺の部屋に姉妹が押しかける形だったので、姉妹の部屋にるのは初めてだった。俺なんかがっていいのかと思ったが、今さら意識するのも変なのでそのまま足を踏みれた。

角部屋で、間取りはうちよりもしだけ広い。のない俺の部屋よりも、生活にあふれている。夜逃げした両親も含めてここで生活していたわけだ。夜逃げの際、家はほとんど手をつけなかったのか、隙間なく家が床を埋め盡くしていた。

――ここから忽然と二人が姿を消したのか……。

もしかしたら、姉妹の両親の私がまだ殘っているのかもしれないな、と思った。