運命的とは？

やっぱり碌なことではなかった、と健太は頭を抱えてため息を吐いた。どうやって斷りをれるかを考えたものの、酒を飲んだ禮子の了解を得るのは、中々に難題であることもまもなく悟った。

「俺、演技だとかそういうの、全然駄目なんですよね」

「大丈夫です。あたしも最初は全然だったので。々な人の演技指導。経験を踏むことでこなせるようになるはずです」

「それは、演技を志す人に言ってあげてください。俺、今の仕事に満足していますので」

「えー、巖瀬さん。きっといい役者さんになれますよー」

「本気で言ってます？」

「あたし、噓はつきません！」

楽しそうに微笑む禮子を見ていると、噓ではなくても適當に言っている気が健太はしていた。

ふう、と健太はため息を吐いた。やはり、禮子からやっぱいいや、と言う言葉をもらうのは、中々難題そうだった。

今更ながら、酔っ払い相手に遠回しな言い方をしてもしょうがない、と健太は思った。

「すみません。俺、演技したくないです。本當、恥ずかしいので」

だから健太は、きっぱりと斷りの言葉を言ったのだが、

「そんなぁ。お願いです。あたしにはこんなこと頼れるの巖瀬さんしかいないんですぅ」

軽い雰囲気で話していた禮子が涙目になり、健太は困した。酒の場の冗談で言っていると思っていたのだが、禮子はどうやら本気で演技について悩んでいたらしい。

思えば、ロボットのを演じる、というのは、普通では中々ないことだし、イメージを摑むのは確かに難しそうだ。

「……マネージャーさんにお願いするとか」

「あの子は、その……ちょっと怖いんです」

あの子、とは……年下か、はたまただろうか。それにしても、健太は言い振りからして、禮子がマネージャーと距離を取っていることを知った。

何が怖いのか。そう聞こうと思った健太だったが、今の禮子は主題以外の話に応じてくれる気配はなかった。

再び、健太はため息を吐いた。

「わかりましたよ。付き合います。でも、しだけですよ？」

パァッ、とまるで快晴の空に晴れ渡る太のように、眩い笑みを禮子は浮かべていた。

微笑むだけで、相手にまあいっかと思わせられるの、ズルいよなあ、と思いながら、照れて健太は顔を逸らしていた。

それから健太は、禮子に渡された臺本片手に、禮子の演技練習のお手伝いを始めた。

「臺本、大丈夫なんですか？」

「大丈夫です。もう全て頭にっているので」

「全て、ですか……」

「はい。ヒロインのロボット以外の臺詞も、全部れてますっ」

そう言って快活に微笑む禮子に、健太は嘆の聲を上げた。

「主人公が今、どんなことを思っているのか。それを考えながら演技するのも大切だと思っているので。ストーリーの流れも読めますし」

「なるほど。勉強になります」

素直に思ったが、役者を目指すわけでもない健太に、その報は無意味だった。

「……それで、どの辺を読めばいいんですか？」

「はい」

一旦、禮子は健太から臺本をけ取って、パラパラとページをめくり、健太に差し出した。

「ここの……市長さんが殘された人間に當てたビデオで、他の人間はもう皆自殺したって謝罪するところですね」

「なんかえぐいこと言ってません？」

言いながら、思わず健太は前後のページをめくりストーリーを把握しようと考えた。

そこに書かれていた容は、要約すれば……ロボット技が繁栄した先の未來の話で、その世界で人間がどうなるかが書かれていた。この話では、人間が全ての仕事をロボットに任せるようになった結果、人間は悠久の時間を過ごすための娯楽に飢え、最大級の娯楽として自殺が流行ったと考察に近いストーリーが綴られていた。

「そんなことってあるんでしょうかね」

臺本を読む健太に、そう言ったのは苦笑する禮子だった。

「……仮に人が、全てのを手軽に何度も手にるようになったとしたら、まああり得るのではないでしょうか。生まれることと死ぬことは、人生たった一度きりですし」

「ううん。お酒に酔っていて深く考えたくないですね」

ストーリーに共を示した健太だったが、しょうもない理由で思考停止した禮子に、何かを言う気にはならなかった。

「それで、吉田さんがわからないのは、この話を聞いて取りす主人公を捉えたヒロインがどんな中なのかってところですか」

「はい。相手はロボットなので、早々気持ちは摑めないと思いますが……事前にやって置いて、摑めるものもあるかと思って」

酒がってる癖に、真剣な眼差しで禮子は言った。

仕事のことを考える真剣な禮子の顔に、健太はし気圧されていた。

「まあ、やりますか」

「そうですね」

とにかく、さっさと演技練習を終わらせてしまおう。そう思った健太は、片言に市長の臺詞を読んでいく。

取りす主人公役は、生憎と不在だった。そこまでやれと言われるのではとしヒヤヒヤしていた健太だったが、ロボットのように無表をり付けた靜かな禮子がそれを要求してくることはなかった。

それにしても、役にりきる禮子と、さっきまでの我儘勝手な禮子は、まるで別人だな、と健太は思った。

ただ、酒を飲んだせいで火照った顔が、鉄仮面とは似合わずに、健太はしおかしいなと笑いそうになっていた。

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