《人に別れを告げられた次の日の朝、ホテルで大人気優と寢ていた》衝撃的な疲労
靜かなエレベーターの中で、健太は下座に立ちながらこの後、優に何を話すのかを考えていた。言い訳の句は次々に浮かんできた。でも、どれを話しても怒られることには違いない、とは覚悟していた。
先日、優が健太の家に押しかけて來た時、健太はあくまで禮子との関係は親なそれではないと斷言していた。
無論、禮子との関係は初日に大やらかしがあったわけだが、それは一旦置いておいて。それさえ除けば二人の関係は、至って健全な友人関係に違いなかった。
二人の関係はあくまで……ただの晩酌仲間。それ以上でもそれ以下でもなかった。
だから健太は、それくらいならば、と禮子の意思を尊重するよう優に取り計らったのだ。優の言い分も勿論わかっていたが、それでも禮子の不安解消を優先するべきだと思ったのだ。
先日のカラオケでの一件も、言ってしまえば禮子の不安解消を優先した結果に過ぎない。ただ、いつかの優の発言よろしく、端から見たらあれは……ただの異間のデートと見て、何ら差支えはなかった。
本當はそれを誰にも……優にもばらすべきではないと思っていた。でも、健太はそれを禮子にキツく言いつけることはしなかった。彼も大概、自らの立場はわかっていたから、きっと他言なんて間違ってもしないだろうと高を括っていたのだ。
その結果がこのザマだった。
「お茶でいいかい?」
「お構いなく」
「合悪そうだし、まあ飲みなさい」
実際、優の顔は良くなかった。多忙を極める禮子のマネージャーである優は、禮子の付き添いから実務まで幅広い仕事をこなしているはず。恐らく、その大変さは禮子の比ではないだろう。
ただ健太がお茶を振舞おうと思ったのは、そんな優の調に乗じてでも、自分の手元にも水分を置いておきたいからだった。
仕事のプレゼンでも、就活の時でも。
こんなに張しているのは、健太は生まれて初めてだった。
お茶を湯飲みにれて、優の前に置いた。お構いなくと言っていたが、優はお茶をすぐに口に含んだ。
「調、大丈夫か?」
先日の様子であれば部屋にれるまでもなく……何ならエレベーター前の會話で二、三度文句を頂戴していそうなものだったが、ここまでは大人しい優に、健太は思わず尋ねていた。
「お気になさらず」
ふうと一息ついて、優は続けた。
「それで早速ですが、あなた何をしているんですか?」
「……はい」
言い逃れは出來なかった。
ただの晩酌會仲間だから、禮子との関係は認めろと言っていたで、一緒の車でお出掛けし、カラオケに行くだなんて、協定破りも甚だしかった。
「言い訳しないんですか?」
「しようがない。先日の一件では噛み付いたが、そもそも俺はあんたの意見が間違っていただなんて思っていなかった」
「と、言うと?」
「……彼の將來を考えたら、俺との時間なんてリスクにしかならない」
だからこそ健太は、後日そのことで悩んでしまったのだから。
意外な人の意外な言葉に、優は目を丸くしていた。
「なら、どうしてあの場であたしに噛み付いたんです」
「抱え込むあの人は、とても見ていられないからだ」
不純な意図は込められていなかった。
はっきりと事実だ、と言うように述べる健太に、優もそれは理解した。
「……それじゃあカラオケに行ったのも、吉田さんが抱え込んでいたからと?」
「そうだ」
「吉田さんの出番までは見てきましたが、彼、歌に不安を持っている様子はありませんでしたよ?」
「そっか」
狀況も忘れて、健太は安堵のため息を吐いた。
「何を安堵しているんです」
呆れたように、優は続けた。怒ってはいるが、聲は疲弊していた。
「そんなことを言うなら、異が彼とカラオケに行って、周囲にそんなことがバレたら……あなた、どうなるかわかっていたんですよね?」
「ああ」
それは、健太も禮子に指摘したことだった。
「斷れなかった。すまなかった」
斷れなかったことが許されざることだと、健太はわかっていた。
「……斷れなかったからって。例えばあなたは、斷れなければ悪徳業者から高額の壺を買うんですか?」
そう言うことだ。
「普通、自分にメリットがないのなら、強引にでも斷るものでしょう? そういうことじゃないですか。あなたは結局、自分のために吉田さんとカラオケに行ったのよ。吉田さんの將來なんて、気にしていないのよ」
「すまない」
謝罪を繰り返したのは、自分の考えが甘いことなど、健太は遠の昔からわかっていたからだった。甘んじて、説教をけれるつもりだった。
ただそれでも、落としどころは見つけるつもりだった。
禮子と晩酌會は続けられる落としどころを、探すつもりだった。
「……今日は、もういいです」
腕時計をチラリと見て、優は気だるげに言った。
「後日、吉田さんと話して……今後のことは決めます」
「その時は、俺も一緒に出させてくれ」
「駄目です。當たり前でしょう」
「いいや、俺だって當事者だ。俺には責任を果たす必要がある。そうだろう?」
「……わかりました。もうそれでいいですよ」
何とか折れた優に、健太はバレないようにため息を吐いた。
「あたしは、これで失禮します」
「帰るのか?」
「スタジオにですがね」
「……なんでた? 明日の朝まで、自宅に帰っていいんだろう?」
優は痛いところを突かれたのか、閉口したままだった。
「休むべきだ。明らかに調が優れていないだろう?」
あくまで優の調のことを想って、健太は立ち上がってそう指摘した。休んで良い時は休むべきなのだ。調不良の人間に、こなせる仕事なんてない。
「あたしの自由でしょ?」
「あんたのはあんたのだけじゃない。吉田さんにも迷をかけるぞ?」
「……っ」
禮子の名前を前に、優はさっきとは比べにならない程鬼の形相を見せた。
健太は怯まなかった。怯むより何より、優の調が心配だった。
「あなたに指図される覚えは……」
まるで天井からつるされた糸が切れたようなじだった。
真っすぐこちらに歩み寄っていた優は、唐突に意識を失って、その場に崩れかけたのだ。
「危ないっ」
慌てて、健太は優を抱きかかえた。
心配気に、健太は優の様子を見た。病院へ運ぶべきか本気で悩んで、まもなく優から寢息が聞こえて安堵した。
「……まったく」
健太は、睡眠不足で意識を失い寢落ちした優に、ため息を吐いた。
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