著替え終わり、ぞろぞろみんなで教室にると、涼しい空気がを包んだ。

「はぁ、涼しいなぁ」

「まじ生き返るわー」

前を歩く藤崎と市川の聲が聞こえてくる。実際、教室にった瞬間のからっとした空気に、自分も育で疲れたを癒えるのをじた。

教室では既に子が著替え終えており、制服になっていた。次の授業の準備をしていたり、あるいはおしゃべりをしていたり。そんな姿がちらほら散見される。

自分の席に目を向けると、山田さんの姿が目にった。いつものようにぽつんと一人で席に座り、本を読んでいる。そこだけ靜かで、落ち著いた空気が漂っているみたいだ。

「……パパ活ってまじなん？」

自分の席へ歩く途中、小さなしゃべり聲が耳に屆いた。話し聲の主に目を向けると、そこには子三人組。クラスで一際目立つ容姿で、よく市川達と一緒にいる人達だ。

やっぱり噂は広まっているのか。

意識してクラスを見回してみると、不自然に山田さんに向いている視線の數が多い。中にはさっき噂を聞いたであろう男子もいる。

普段目立たない彼に注目が集まっている様子は違和しかない。まあ、興味が出るのも仕方ないか。

山田さんの隣、自分の席へと戻る。山田さんはこの視線が気にならないのだろうか。橫顔を盜み見たけど、正直分からない。

髪に隠れて見えにくいし、何より普段から表が乏しい。いまいち何を考えているのか分からない時もある。

表が読み取れず眺めていると、ちらっと山田さんの瞳がこっちを向いた。

「なに？」

「いや……」

レンズの奧の瞳と視線がわる。どう聞いたものか。直接あんな噂を口にするのは憚られる。

「……もしかして、噂、聞いたの？」

「……まあ。全然信じてはいないけどね」

「そう」

「大丈夫？」

「別に平気。ほっとけばそのうち収まるし」

「そっか」

素っ気ない聲。いつもより冷めた聲な気がしたのは気のせいだろうか。

「何かしようか？」

「余計なお世話。一人で平気。こういうのは慣れてる」

視線を俺から切って、本に戻した。また表が髪に隠れる。

山田さんにそう言われてしまえば、それ以上俺が出來ることは何もない。何も言えず俺は自分の作業に戻った。

機から次の授業の教科書とノートをを取り出す。綺麗に並べ終えて、椅子の背もたれに寄りかかる。ぎしっと木の音が耳に屆く。

教室の前の扉が開いた。先生が颯爽と指示棒と教科書を持ってってくる。

「ほらー、早く座れ。授業始めるぞー」

チャイムが教室に響いた。いつもの景。もう學してから2ヶ月が経ち、何度も聞いた掛け聲。妙な噂が流れても日常は変わらない。

俺の噂が消えたように、山田さんの噂も放っておけば消えるだろう。日常に溶けていくに違いない。

－－そう思っていたのだが。

「ねぇ、山田さん。パパ活してるって本當なの？」

緩くパーマのかかった明るい茶髪。し強気そうなアーモンド型の瞳が山田さんに問いかける。

さっき噂話をしていた子三人組。そして以前シャートンのことで一悶著があったあの中の1人、有馬雨は山田さんの機に片手をついて立っていた。