「晴くん……その、うっかりしていた事があるのですが……」

暗闇の中でのお風呂を終えた後、先にユキの著替えを済ませてもらおうと思っていたのだが、所の方から弱々しい聲が聞こえたので顔を上げた。

「どうした？」

「え、えと……晴くん、バスタオルと著替えを用意するのを忘れてしまって……」

「あ……じゃあ、もしかして……」

「その、もしかして……です」

暗闇の中でユキは慌てている様子だった。いつもならお風呂にる時は忘れずに著替えを持ってきている彼だったが、今日は雷と停電に気を取られたせいか必要なものを持ってくるのを忘れたようだ。

「ユキ、いつもバスタオルを置いておく所には？」

「それが、大きいのも小さいのもリビングに畳んだまま……空っぽです」

タオルと著替えを忘れたという急事態。

を拭く事が出來ないので、雫がぽたりと床に落ちていく。

「ユキの著替えとバスタオルは俺が取ってくる、お風呂に浸かって待っててな」

仕方ないので俺は苦の策として、一人でリビングに著替えとタオルを取りに急ごうと思った。濡れたままでも走って行けば大丈夫。だが、ユキは離れようとする俺の腕をぎゅっと摑む。

「ま、待って下さい、一人だと心細くて……」

「でも、このままじゃ風邪ひいちゃうぞ？」

「それは分かっています……ですが、一緒に……お願いします……」

消えりそうな聲で呟いた。暗闇の中で表はよく見えないものの、きっと不安でいっぱいになっているのだろう。包帯を巻いていたあの頃、彼が周囲からいじめられた時のトラウマがあるというのなら、彼を守ってあげなければ。そう思った。

「お互い濡れてるし、一緒に行くなら急ごう。ほら、手を握ってやるから」

「はい……晴くん、ありがとう」

申し訳なさそうにしているユキの頭をぽんとでてから、彼の小さな手を取った。

お互いに足だったのでぺたぺたと音を鳴らしながら廊下へ出る。は濡れたままだし、湯冷めして風邪を引く前にユキの著替えとバスタオルを見つけようと、暗闇の中を二人で手を繋いだまま移する。

「あの……スマホのライトは使わないのですか？」

「いや大丈夫。部屋の構造は覚えてるし、目も慣れてるからうっすら見えるだろ」

スマホのライトを使わないのは俺なりの配慮のつもりだった。ライトを使えばが反して、隣に歩くユキのが見えてしまう。実際、ライトに頼らなくとも壁にぶつかってしまうという事はない。

ただ明かりが無くとも、狀況的にはかなり俺の本能を刺激するものだったと思う。

何も著ていないのユキを連れて室をうろつくというのは背徳があって、なんだかそれが妙な気分にさせる。暗闇の中とは言え既に目は慣れているので、俺の隣を歩くユキのぼんやりと浮かぶ白いがやけに艶めいて見えて、心臓はばくばくと激しく脈打っていた。

なるべく意識をしないように……これは急事態だから仕方ないのだと自分に言い聞かせて耐えていた。

そしてリビングに著いた俺達は、普段ユキが洗濯を畳んで置く場所に近付いて確認する。綺麗に畳まれたバスタオルと服があって、それを見てをで下ろす。

バスタオルを手に取って、それをユキに手渡そうと振り向いた時だった。

「よし、を拭いてすぐ――」

眩しいとじたのはその直後、視界が真っ白に染まった。

じんわりと部屋が暗闇から本來のを帯びていく。明るいを放つ照明で部屋が満たされて、同時に俺は見てしまうのだ。

艶やかなを、ほんのりとした桜の頬を、長いまつに覆われた寶石のような青い瞳――雫の伝う白くき通るような、たわわに実った２つの大きな膨らみが、彼の大切な場所の全てがわになって、俺は目の前に立つ無防備なユキの姿を見てしまう。暗闇の中で見た時よりも何倍ものしさで映る彼の姿に思わず息を飲む。

「あ……」

小さく聲を上げるユキ。彼も一瞬の事で何が起こったのか分からずにいたが、すぐに狀況を整理出來たのか慌てふためくように両手でを隠した。真っ赤に染まる頬と耳、瞼をぎゅっと閉じて小さく屈むユキの姿を見て、俺は咄嗟の判斷で手に持っていたバスタオルを彼に被せて、顔を逸しながら聲を上げた。

まさかこのタイミングで停電から復舊するとは思ってもいなかった。

「ほ、本當にごめん！　見るつもりじゃなかったんだ！」

「こ、これは……不可抗力ですから、晴くんは……謝らないでください。それに、お互い様……ですから」

「お互い様？」

「は、晴くん……あ、あの……」

「ん？」

「か、隠して……ください、あたしだけじゃなく、晴くんだって……その、見えちゃってます……」

ユキはを屈めたまま、目を開いて橫目で俺の方を見ると、また慌てて目をぎゅっと閉じて俯く。こんなに顔を真っ赤にしているのは初めて見る程に、彼は恥に震えているようだった。

そしてユキが何を言っているのかを、自分のに視線を落として気付くのだ。そう、ユキだけじゃなかった。俺も彼と同じ狀況だった。

顔から煙が出てしまうくらいの恥ずかしさをじて、慌ててバスタオルを取ってを隠す。明かりの下で互いにのままで、置かれている狀況を理解した俺は急いでリビングを後にする。

所に戻った後、床に座り込みながら混する頭を整理した。

嵐から始まった今日。それから停電して真っ暗になって、雷に怯えるユキを連れてお風呂にった事。そして電気が復舊した後も続いたハプニング、多分俺は一生今日の事を忘れないと思う。