「じゃんじゃん食べてね～」

立夏はテーブルに並べられた大量のおを前に、にっこりと満面の笑みを浮かべている。

小鳥遊家が用意してくれたというバーベキュー用のおはとてつもなく味くて、噛めば噛むほど溢れ出すジューシーでさらさらとした脂の甘みが最高だった。

俺達４人はテーブルを囲んで、星空の下のバーベキューを堪能している最中だ。率先してを焼いているのはユキと秋奈の二人、トングを上手に使い分けて絶妙な焼き加減でを皿に盛り付けていく――のは途中まで。

を食べ進めて行くうちに、バーベキューの様子に変化が現れ始めていた。

「ほら、晴くん。お焼けましたよ。はい、あーん」

ユキは網の上で焼けたをお皿に乗せた後に塩を振り、それを箸で摑んで俺の口元に寄せてくる。俺が口を開けるまでずっと待っているので大人しく口を開けて彼の摑んでいたおを食べる。俺の舌がどうなっているのか完璧に把握されているのか、ユキの振りかけた塩の量が好みのど真ん中過ぎるしょっぱさで高級の味を更に引き立てていた。

「晴、こっちも焼けたよ。タレの方で食べると良い、ほら。あーん」

ユキに続いて秋奈もちょうど良い合に焼けたおにタレを浸け、それを箸に摑んで俺の口へと運ぶ。それもぱくりと食べさせてもらうと、高級と伝のタレが口の中でとろけ合って夢のようなハーモニーを奏でていた。

――と、冷靜に食レポしている場合じゃなく。

初めは普通に食べていたバーベキューだったのだが、途中からユキと秋奈が俺にを食べさせるという不思議な景が広がっていた。

そんな景を見ながらにやにやと笑っている立夏。なんだかくすぐったくて、つい目を逸してしまう。

「あはは、本當にみんな仲良しだよねー。親鳥が雛に餌付けしてるみたいー」

「親鳥から雛への餌付けって……確かにそう見えるかもしれないけど」

「あたし達は晴くんに味しいおを食べてもらいたいなあって、ただそれだけですよ」

「うんうん。折角の機會だからね、立夏の用意してくれたおを最高の狀態で食べてもらいたいだけさ」

炭火で焼いたの良い匂いがまた漂ってきたと思うと、二人は再び俺にを食べさせようと箸をばす。

「次はこのカルビです。はい、あーん」

「今度はこのハラミだよ。ほら」

「あ、あーん」

１０人居れば１０人が振り向く程の可さなの子が目の前に二人いて、そんな達からおを食べさせてもらえるなんて贅沢極まりない狀況。同級生の男子達がこれを見たら嫉妬の嵐に飲まれてしまいそうだと思いながら、二人からのおを頬張っていた。

そして味しいおでお腹がいっぱいになり、用意されていたおも綺麗に食べ終える。そろそろ次の予定はどうするのかを聞いていた。

「なあバーベキューが終わった後の予定はどうなってるんだ？」

「白鳩さんのお話だと天観測をしたい、という事だったね」

「ですね。折角ですので、こんな綺麗な場所で皆さんと星空を楽しめたらと思って」

天観測というワードを聞いた立夏がキラキラと目を輝かせる。

「スマホのメッセージでも言ってたけど、みんなで天観測するのがすっごい楽しみでさー！　遠鏡も用意しておいたんだー！　ここって近くに明るいものがないからさ、星がすっごく綺麗に見れるからちょうど良いと思う！」

「天観測だけでなく他にも皆さんと々な事を出來たら良いですね」

「他にもか～、あ！　うちの別荘、浴室すごい広いからユキっちと一緒にお風呂はいりたいな！」

「あ、あたしとお風呂ですか？」

「そそ。こういう機會って他にないしお願いだよ～！」

「立夏だけだと白鳩さんに危ない事をしかねない。ボクも一緒にるよ」

「あ、秋奈っち！　大丈夫だよ、変な事なんてしないから～！」

「だーめ。白鳩さんにえっちな事をするつもりだって、立夏の顔に書いてあるからね」

「ちっ、ばれてたか～」

夜空の下に彼達の笑い聲が響く。

幸せな景だと思った。

ユキも今とても楽しんでくれている。

包帯を巻いていたあの頃は友達も出來なくて、辛い思いをしていた彼が、友達に囲まれて笑顔で居てくれる事が嬉しかった。

それからバーベキューを終えた俺達は、綺麗に片付けもやりきって、遠鏡を擔いで見晴らしの良い所で天観測しに向かった。

ユキと秋奈は俺の前に立って、小さな手を差し出した。

「それじゃあ晴くん。一緒に行きましょう、天観測に」

「だね、晴。みんなでたくさんの星を見よう」

二人は瞬く星のような笑顔を浮かべる。

その手を握りしめしい星空の下を共に歩き始めた。

ユキ、秋奈、立夏、そして俺。

楽しげな夜はまだまだ続いていく。