「わっ、冷たいっ！　晴くん、お返しですよ！」

「うわっぷ！？　やってくれるな、ユキ……！」

俺達は今、淺瀬で水浴びをしている最中だった。

膝下くらいまで海に浸かって遊んでいる。

お互いにばしゃばしゃと水をかけ合って、満面の笑みを浮かべているユキ。

包帯を巻いていたあの頃のユキは、海やプールなどは厳だった。小學校の授業であった水泳の授業なんかはもちろん見學で、プールサイドで小さくなって育座りをしていたユキの姿を俺はよく覚えている。

ずっと止されていた水遊び。包帯を外した今のユキならそれを心行くまで遊べるのだ。心に帰った様子で夏の海を堪能するユキの姿はとても楽しそうだった。

ユキが水をかけようと腕を振り上げる度にたぷんたぷんと大きなが揺れ、その姿につい見惚れていた俺の顔にばしゃりと海水が降りかかる。

その様子をおかしそうに笑うユキ。何がそんなにおかしいのかと思ったら、俺の頭の上に海藻が乗っていて、まるでかつらを被っているようになっていた。

「ユキ、これはわざとだな？」

「ちょうど流れてきたので。似合ってますよ、晴くん」

くすくすと笑いながら俺を見るユキ。

笑っている彼の様子があまりに可らしくて、いたずらされても怒る気が全くしない。楽しすぎて今日は何をされても許せそうな、そんな気がしてくる。

俺は一旦海から上がると、砂浜に置いていた大きな浮きに近寄った。それを拾い上げてまたユキの方へと戻る。

「ユキ、淺瀬で遊ぶのも良いけどさ。もうし深い所に行かないか？」

「深い所ですか？　でも晴くん、実はあたし泳いだ事がなくて……」

「知ってるよ。だから今日は俺がユキを海の旅に案してやるから。ほら、この浮きを使ってさ」

包帯を巻いていた事もあってユキは泳いだ事がない。いくら運神経抜群のユキでも、初めてる海で泳ぐというのは難しいはず。だから今日は俺がユキに海の楽しさを教える為にエスコートしてあげるのだ。

「大丈夫。深い所って言ってもユキのの高さくらいまでさ。流れも弱いからぷかぷかって浮かべて楽しいと思うよ」

「わ、分かりました。晴くん、お願いします」

「海の上では俺に任せてな。泳ぐのは得意な方なんだ」

俺とユキは一緒に海の向こうへと歩き出す。

浮きをくぐって中へとり、ユキは準備萬端の様子だ。

し顔が強張っているが浮きがあれば溺れる事はないだろう。

ユキの手を引いて青い海の中へとった。

照り著く太の日差しが噓みたいだ。夏の暑さを忘れさせてくれる。海水浴って素晴らしい。

「どうだ？　ユキ」

「すっごく気持ちいいです、晴くん。海ってこんなに素敵な場所だったんですね。ぷかぷか浮いているだけでこんなに楽しいだなんて」

ユキは浮きでぷかぷかと浮かびながら、隣に居る俺に向けて微笑んだ。

「いつかはあたしも晴くんみたいに泳げるようになって、そしたらもっと々な事をしてみたいです」

「ユキなら泳げるようになるさ。でも今は無理しないようにな、溺れちゃったら大変だし」

「はい、今は晴くんと一緒に波をじながらゆっくりしますね」

今はまだ浮きの上で揺られているだけだが、ユキの運神経なら泳げるようになるのはそう遠くない。ユキが華麗に泳ぐ姿はまるで人魚のように思える程にしいだろう、俺はその景を想像しながら浮きの上で揺られるユキを眺めた。

ユキと一緒の海の時間はあっという間に過ぎていく。

海の上を楽しんだ後は二人で一緒に砂山崩しで遊んでみたり、本気を出したユキの砂城作りには驚かされた。立派な宮殿が出來上がった時は周りから歓聲が聞こえた程だ。

それから海の家で一緒にかき氷を食べながら波打つ海の様子を眺めたり。二人で波打ち際で追いかけっ子に、ビーチボールを借りてボール遊びをしたりと海を堪能し盡くした。そして最後に海の家に併設されたシャワールームで綺麗にを洗い流して、晝の３時くらいには家へと帰る事にした。

バスに乗った頃には二人でぐったりとしていて、遊び疲れたのかユキは俺の隣ですやすやと眠っている。肩にもたれかかる姿はとてもらしくて、俺は起こさないようにそっとユキを抱き寄せて優しく頭をでる。幸せな時間だ、ユキが帰ってきてから、彼との生活が始まってから毎日が楽しい。小學生の頃の輝かしい毎日を思い出す。

これからもユキとたくさんの思い出を作っていこう。