雪化粧をした山々からは冷たく澄んだ空気が流れ、清々しいほどの風をじることが出來る。その風景は正に絶景と呼ぶに相応しいもので、俺は言葉を失ってしまうほど圧倒されていた。

天風呂の気持ち良い湯加減での疲れが洗い流されていくだけでなく、壯大な自然を前にしているだけで心まで洗われるような気がして、ついしてしまう。

けれどこうして落ち著きながら、目の前に広がる大自然と立派な天風呂を楽しめるのはここまでだった。

俺は手ぬぐいで汗を拭き取りつつ、ゆっくりと肩まで浸かる。しでも落ち著こうと思った。だって車の中でずっと想像していたあの景が近付いてきているのだから。

「まさか本當に一緒にるだなんて……」

ユキも深冬さんも車の中で話していた通り、俺と一緒に天風呂を満喫する気でいるようだ。

いくら家族同然の関係とはいえ、お風呂にる直前になれば『やっぱり恥ずかしいので別々に……』という話になるのかと思っていたのだが、どうやらそれは俺の勘違いだったようで――ユキからは「タオルでちゃんと隠すから大丈夫ですよ。晴くんは先に浴して待っていてください」と所に連れて行かれ、深冬さんからも同じように言われてしまった。

親子揃って楽しいものが目の前にあると、天然でゆるゆるで抜けてしまう事があるのは一緒だなと思いながら、ここまで來たらもう覚悟を決めようと、俺は一人で湯船に浸かり続けている。するとやがて二人の気配が近づいてくるのをじた。

ゆっくりと扉が開かれる音がした直後、俺は慌てて背を向ける。二人分の足音と共に視界の端にの何かが見えて必死に目を逸らす。

「えへへ、お待たせしました」

「晴ちゃん、りますね」

聞こえてくる二人の聲にが強ばる。ぺたぺたと床を歩く音が徐々に大きくなり、ついに俺のすぐ傍で止まった。

「お隣おじゃましますね、晴くん」

「は、はい……」

張のせいでぎこちない返事しかできない。心臓の鼓が激しくなる中、ユキと深冬さんは俺の隣で桶を使ってを清めた後、そっと湯船に足をばしたのが橫目で見えた。

俺はユキの深冬さんの二人に挾まれる形になっていて、肩にはらかなが當たっている。

すぐ隣に見えるのは真っ白なタオルに包まれたユキと深冬さんのだった。タオルで隠されているものの、俺にはハッキリと見えていた。

白い布地の奧にあるらかそうな太、しい曲線を描く背中、そして今にもこぼれてしまいそうなの膨らみがこの目に焼き付いてしまう。

湯船に浸かった事で白い布がけて二人の艶やかなまで見えていて、それは思わず目が離せないほど魅力的で、息をするのを忘れるほど綺麗な景だ。柵の向こうに広がる絶景よりも、もっとずっと魅的で俺の心を奪い去ろうとしていた。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ユキはいつも通りの屈託のない笑顔を浮かべる。深冬さんも優しげな笑みを浮かべていた。

「ふふ、晴ちゃん。張しちゃってますね。リラックスして雪見風呂を楽しみましょう」

俺の頭に深冬さんの手が優しく乗せられる。こうして頭をでてくれる彼の表はとても穏やかで、まるで我が子を見守るような優しい瞳をしていた。

一方、ユキの方は深冬さんにやきもちを妬いているのか、頭をでる手を見ながらぷくりと頬を膨らませる。

「むうっ……！ お母様ばっかり……！」

「あらあら、ごめんなさいね。それじゃあユキも一緒に晴ちゃんの頭をでてあげてください」

「わあ、やった～！」

嬉しそうに微笑んだユキは深冬さんから代わり、白くて細い手で俺の頭を優しくで始めた。その心地良さと湯船の暖かさが相まって、あまりの気持ち良さにされるがままになってしまう。

「晴くん、気持ちいいですか？」

「ああ……。すごく気持ち良い」

「良かった。えへへ、あたしも晴くんの髪、気持ち良くて好きですよ」

「……そ、それはどうも」

「ふふ、照れなくても大丈夫ですって。ね、お母様」

「そうですね。晴ちゃんの髪は本當にサラサラですから、羨ましいくらいです」

再び俺の頭に手をばす深冬さん。ユキと一緒におしそうに俺の頭をでてきて、恥ずかしさのあまり頭の中が沸騰しそうになっていた。

二人から同時に髪を弄られるなんて慣れなくて落ち著かない。けれどそれが嫌じゃないとじるのは、きっと相手がユキと深冬さんだからなのだろう。

しばらくなされるがままになっていると、俺の頭をでるのに満足したのかユキと深冬さんは手を離して湯船からゆっくりと立ち上がる。

濡れたタオルがぴっちりと張り付いたがあまりに魅的すぎて、そのしなやかにびる腳とか、細くくびれた腰回りに、たわわに実ったらかそうなが湯の中を歩く度にたぷんたぷんと揺れる様子を堪能してしまう。けれど深冬さんのいる狀況で獣になってはいけないと、慌てて目を逸らし、理を保とうと一杯だった。

「晴くん、見て下さい。凄い景ですね」

ユキの言葉につられて視線を上げる。湯気の中で真っ白な雪景に見惚れるユキ、そして隣で楽しげに笑う深冬さんの姿があった。

俺は二人にわれるように立ち上がり、彼達の元へと近付いていく。そのままこの先に広がる景を見つめた。

遠くに見える山々はどれも綺麗な形をしていて、青空と雪とのコントラストがしい。空に浮かぶ雲は綿飴のようにフワフワと流れていき、時折吹く風によってしずつ姿を変えていく。視界の端では雪に覆われた木々とその中に佇む一軒家。屋には雪が積もっていて、どこか幻想的な雰囲気をじさせる。

「ここに來れて本當に良かったです。そしてその一緒の相手が晴くんとお母様で、あたし今とっても幸せです」

ユキは目を細めて俺達に笑いかけた後、また景に目を向けた。ただひたすら無邪気に天風呂を楽しむユキの姿と、包帯を巻いていた頃の彼の姿が重なって見えてくる。彼は今までずっとこうして俺達と溫泉に來る日を心待ちにしていたのだろうなと、そんな事を考えながら俺は黙って彼達の傍で一緒に景を楽しんだ。