學校では最近そわそわと落ち著きのない生徒が増えてきた。というのも、一年に一回の重大な青春イベント、２月１４日のバレンタインが近付いてきたのである。

男子生徒達は誰からチョコをもらえるのか期待に満ちた表で話しているし、子達もまた同じように誰にチョコを上げるのか、気になる相手にはどうやって渡すのかなどを楽しそうに話し合っている。

その景を眺めながらバレンタインというのは本當に大変なイベントだと、俺は苦笑を浮かべていた。何故なら俺のすぐ隣にいるユキと秋奈が、男子生徒からの猛烈なアピールをける姿を何度も見たからだ。

學校のアイドル的存在である二人の手作りチョコというのは、男子生徒にとってから手が出るほどしいものらしく、あの手この手で二人に取りろうとする者が多いのだ。ユキと秋奈からチョコがもらえるように多くの男子が詰めかけていた。

それもバレンタイン前日になると、しつこすぎるのも良くないという結論に男子達も至ったようで、そわそわとした様子を見せてはいるが二人が男子達から話しかけられるという事はなかった。けれど彼らの圧が無関係な俺ですらじ取れるレベルには、教室がいつもと違う雰囲気なのは確かだ。

「なんか……バレンタインって凄いもんなんだな」

ぽつり、と呟くと前に座っている秋奈が振り向く。

「おや、晴はバレンタインに興味ないのかい？」

「ま、まあ……程々にはな」

と秋奈には誤魔化してみるものの、バレンタインに期待する多くの生徒達の中で、実は俺が誰よりも浮ついているんじゃないかと思っていた。ユキや秋奈からチョコレートがもらえるかどうか、仲が良いからこそ期待も高まってしまうというものだ。

でもそれを周りに見せないように出來るだけ平靜を裝っていたはずなのに、俺と親しい秋奈にはまる分かりだったようだ。

「程々にねえ。それにしては落ち著きがないように見えるけど？」

「そ、そうか？　俺は至っていつも通りだぞ？」

「ふーん……じゃあさっきからずっと機の下でスマホをいじってるのは何なのかな？」

「え……これは――」

ひょいっと秋奈は用に俺からスマホを取って、まじまじと畫面を見るのだった。

「『必見！　子からバレンタインチョコをもらう方法特集！』とは、なかなかタイムリーな報じゃないか」

「うっ……」

ばっちり見られてしまった……。しかしこうなってしまっては言い逃れなんて出來ようもないわけで、これはもう観念するしかないようだ。

「そりゃまあ……俺だって子からチョコレートをもらえたら嬉しいし」

「晴も男の子だね。ふふ、可いじゃないか」

「か、可いって言うな」

「照れちゃって。ただちょっと意外だっただけさ」

「意外？」

「だってこんなの見なくても晴なら――」

秋奈は途中で口ごもる。どうしたんだろうと首を傾げると、彼は何だか頬を僅かに赤くして俺へとスマホを返してきた。そして秋奈はちらりと明日のバレンタインについて子達に囲まれて話をするユキの方へと視線を移す。

ユキが何かを言う度に子達から上がる黃い聲、相変わらず彼の周りだけはまるで別世界のように鮮やかで、眩しいを放っているようだった。

そんな景を眺めながら秋奈は言った。

「キミの周りに居るの子なら、きっと大丈夫だよ」――と。