《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第6話、ホワイトデー⑧
3月はまだ寒いし今日は雨も降っているので、屋上へは行かずユキも教室で待っていた。俺が戻ってきたのを見るとユキは優しく微笑んで、自分の機を俺の機にくっつける。前の席に座っていた秋奈も弁當箱を取り出して俺の方へと振り向いた。
どうやら二人共、俺が戻ってくるのを待っていたらしい。
「珍しいね、晴一人でお晝休みに何処か行っちゃうなんて」
「ああ、ちょっと野暮用をな」
「晴くん、ほらみんなでお弁當食べましょう」
「待っててくれてありがとうな、ユキ」
ユキから作ってもらった弁當を鞄から出して、3人での晝食をし始める。ユキの機を見ると大きな手提げ袋の中に男子生徒達からのプレゼントが詰まっていて、ようやくみんな渡し終えたのかと安心する。
ただ教室には他の子にプレゼントを渡す男子生徒の姿がまだあって、その景を微笑ましく眺めているとユキと秋奈の二人がじっと俺の顔を見ている事に気が付いた。
「あれ……二人とも、どうした?」
「い、いえ……なんでもないですよ」
「う、うんうん。何もないから気にしないで」
「そう? ならいいんだけど……」
どうして俺を見ているのか、その理由は分かっていた。二人してお晝ごはんそっちのけで俺からホワイトデーのプレゼントがいつ渡されるのかとそわそわしている。しかし、こうして他の生徒達が居る前でプレゼントを渡すのは恥ずかしいもので今渡すのは躊躇ってしまう。
ユキと秋奈の二人もバレンタインの時は同じ気持ちだったんだろうなと、今になって學校でプレゼントを渡すハードルの高さと、それを乗り越える勇気の凄さを理解して俺も頑張らなければと、厚焼き玉子を頬張りながらそう思った。
「ねえ晴、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「ん?」
唐突に切り出したのは秋奈だ。箸を止めて彼に目を向けると、いつも以上に真剣な眼差しをしていた。
「あのさ、立夏と何かあった?」
「立夏と?」
立夏と何かあったかと言えば、ホワイトデーの為のクッキー作りの事しか思い浮かばない。そして立夏には『一緒にクッキー作ったのはプレゼントあげるまでは緒ねー』と念を押されているので上手に誤魔化さなければならないのだが、秋奈のこのじだと既に々と察しているような気がしてならなかった。
「立夏がさ……晴の事を『晴っち』って呼んでたんだよ」
「え? 俺の事はいつも苗字で、くんを付けて呼んでたと思うけど?」
「ボクの記憶でもそうなんだよ。それがさ、つい最近になって急に晴っちって呼んでたから」
「えええ……本當に俺までそんな呼ばれ方されてたのか?」
「凄い珍しい事でさ、子で仲良くなった子を変な呼び方するのは小學生の頃から何度かあったんだけど、男子を相手にして『晴っち』だなんて呼んでたから」
その會話を聞いていたユキも箸を止めて顔を上げた。
「あたしの場合は、先にあだ名を付けて呼んでも良いかって聞かれましたね。晴くんはそういった事なかったですか?」
「いや……晴っちと呼ばれてるのは初耳というか」
「なるほど。では立夏さんの気紛れでしょうか?」
「そうだろうな、多分……」
多分だけど一緒にクッキーを作った時に、俺を友達だと認めてくれて『晴っち』という呼び方をし始めてくれたのかもしれない。けれどそれを伝えればホワイトデーのプレゼントの容がバレてしまうわけで……サプライズが臺無しになってしまうのは避けたい。
ここをどう切り抜けるか悩んでいたタイミングで教室の扉が開いて元気な聲が聞こえてきた。
「やほやほー! 暇だから遊びに來ちゃった―!」
元気良く教室に飛び込んできたのは立夏で、彼は笑顔を浮かべながら俺たち三人の元へと駆け寄ってきた。
「こんにちは、立夏さん」
「やあ立夏。ちょうどキミの話をしていた所なんだよ」
「え、わたしのー? どおりでさっきからクシャミがいっぱい出ると思った―」
そう言ってポケットティッシュを取り出してわざとらしい様子で鼻をかみ始める。
まさかこのタイミングで立夏が來るとは思って無くて、これでは俺への晴っち呼びが更に言及してしまう。どうするべきか分からないまま、秋奈が早速その話題にれていた。
「ねえ、昨日聞きそびれちゃったんだけど。立夏ってどうして晴の事を突然晴っちって呼び始めたんだい?」
「んー? それはねー。この前、一緒に喫茶店へ行った時の話なんだけど」
「立夏が晴と喫茶店?」
「そそ。わたしって小説読むの好きでしょー、その話を晴っちにした時の反応が面白くてさー」
「面白かったって?」
「ほらー、みんなさ。わたしが小説好きって言うとびっくりするでしょ。でも晴っちはさー、全然そうじゃなくて。いつも秋奈っちやユキっちが言ってるみたいに、本當に人の中を見て話すのが伝わってきたんだー」
「なるほどね。それでか……じゃあもしかして立夏もボクら側に?」
「そっちまでは行かないよ~。わたしはこれからも見守る側が良いし。でもでも晴っちが良い人だってのはよく分かったから、ねー晴っち!」
「あ、ああ。立夏っち」
「あは! わたしの事はいつも通り立夏で良いのにー。本當に晴っち面白ーい!」
立夏は満面の笑みを浮かべて俺を見る。
こうして晴っちと呼ばれるのは初めての事で照れくさい。けれどそれが彼が心を許した証拠だと言うのなら素直に喜んだ方が良いのだろう。それに今ので俺が立夏とクッキー作りをした話をする必要もなくなったし、これでユキと秋奈にプレゼントの容を悟られる事無くサプライズ計畫を続けられる。
それからしの間だけ雑談をして四人でお晝ご飯を食べて午後になり――ついにホワイトデーのプレゼントを渡すタイミングがやってきた。
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