《包帯の下の君は誰よりも可い 〜いじめられてた包帯を助けたら包帯の下はで、そんな彼からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜》第6話、ホワイトデー⑩
「ユキさん、これけ取ってください!」
放課後、ユキにいつプレゼントを渡そうかと悩みながら鞄の中のクッキーを眺めていた時、そんな聲が隣の席から聞こえてきて俺は顔を上げた。
別のクラスから來た男子がユキのすぐ近くに立っていて、彼は大事そうに何かを持っている。それが黒い革製のショルダーバッグで誰もが知るブランドのロゴが裝飾された高級品だと気付いた時には思わず変な聲をらしてしまった。
バレンタインのお返しだとしても、どうしてそんなものをプレゼントに? と疑問に思ったのと同時に、まだ教室の殘っていた他の生徒達もそれに気付いたのか注目が集まる。渡す容がとんでもないものなので驚きの聲が上がり、中には自分のあげたものとのあまりの違いに溜息をつく生徒までいた。
ユキの方はどう反応すればいいのか分からない様子で戸っているのは見て分かった。
「あ、あの……これって?」
「おれからのバレンタインのお返しです!」
「えっと……その、あたしがあげたバレンタインのって……小さなチョコレートで」
「ですね! ホワイトデーは3倍返しがどうのって言うじゃないですか、それで!」
それはもう3倍返しなんてレベルじゃないと思うが……と男子生徒の話を聞きながら思っていた。というか常識の範囲では無いと思う。ユキがたくさんの男子生徒達に配ったチョコレートのお返しに、あのブランドのバッグが果たしていくらするのか――數萬、いや十數萬? なくとも高校生が扱って良いものではない代なのは確かだ。
そしてそんな高いものを返されても喜ぶどころか逆に困してしまうのは當然とも言えた。しかし男子生徒はユキがどう思っているのかを無視して、必死の形相で詰め寄っている。
その男子生徒の様子を見てユキは一歩後ずさるが彼もまた同じ分だけ距離をめる。ユキへの好意ゆえの行だというのは分かっているけれど、さすがにちょっとやり過ぎじゃないかと思った。
「どうぞ! もらってください!」
「あ、あの……そんな高いもの、け取るだなんて……」
「大丈夫ですよ、お金の方は気にしないください!」
「いえ、そういう問題ではなくて……」
「とにかくけ取ってくださいよー!」
「あの……それでしたら、気持ちだけ……」
「け取ってくれないんですか!?」
「……っ」
ユキもきっとその気持ちは嬉しいはずだ。けれどいくらなんでもその気持ちが大きすぎた、ユキを喜ばせたいという気持ちは俺にも分かるがこれではただただ彼を困らせるだけでしかない。まぬ押し付けなんて誰も喜ばないんだ。
そしてユキはこういう事に慣れていない。初めて周りからチョコをねだられるようになって初めてたくさんの人からホワイトデーのお返しをもらって、初めてだらけだからその斷り方を知らなくて、誠実過ぎるゆえに全部抱え込んでしまった。
きっとこのまま押され続けられたらあのブランドのバッグをけ取ってしまうだろう。そしたらしばらく――いや、け取ったバッグの事でずっと悩み続けるかもしれない。
ならばここは、ユキの為にも俺が悪役になって解決しようではないか。
男子生徒がユキの手に無理矢理バッグを押し込もうとした瞬間、それを遮るようにして橫から割り込んだ。
「――はいそこまで」
俺は強引にユキの手を引いて後ろへ下がるように引っ張った。突然の事に驚いた男子生徒は俺の顔を見ながら、呆然とした様子で固まっている。
いきなり割ってった俺に驚いているのか、それともまさか俺が邪魔をするとは思ってなかったのか、どちらにせよ俺の登場に彼は言葉を失っていた。
「そんな高級品を用意するのは凄い事だと思うけどさ、困らせてるぞユキを」
「……え?」
俺の言葉にようやく我に返った男子生徒だったが、それでもまだ信じられないという顔つきだった。
「お前……確か、ユキさんの馴染だっていう雛倉、だっけ? 馴染だからって邪魔すんなよ、今大事なとこなんだ!」
「見てればわかるだろ? 小さなチョコレート4つくらいのお返しに、流石にヤバすぎるってそのプレゼントは」
「なんだよ、文句あんのかよ!」
「……あのな、相手の事も考えてくれ。こんな高いもん貰っても逆に迷だって事もあるんだから。それにこんな高いじゃなくてもユキは喜んだはずだ」
男子生徒の目を見據えながらそう言い切ると、彼は何かを言い返そうと口を開いたがすぐに閉じてしまった。
「出直した方が良い。本當にユキを喜ばせたいって思ってるなら、もっと別のやり方があるだろ?」
しきつい言い方になったかと思ったけれど、言わずにはいられなかった。
ユキの為を思うのであれば、あんなものは渡さない方がいい。親しい関係ならまだしも彼のように知り合いとも言えないような狀態で、そんな相手から高価なプレゼントを渡されても困らせてしまうだけなのだ。
男子生徒はしばらく黙っていたが、やがて小さく舌打ちをして教室から出ていった。
彼が教室から出て行くと、それまで黙っていた周りの生徒達が一斉に騒ぎ出す。しばらくクラスの話題はこれ一になりそうだなと、小さく息を吐きながらユキの方へと振り向いていた。
「大丈夫だったか?」
「……ありがとうございます、晴くん」
「ああいう時は遠慮なく斷れって――まあ、難しいか。悪い」
「その、やっぱり申し訳なくて……どうしたらいいのか分からなくて……」
俯くユキの表は窺えないが、その聲からは困のが読み取れた。
とりあえず今日はユキを連れて早めに帰ろう。教室の殘っている生徒達からもずっと視線をじるし、このままじゃユキだって落ち著かないはずだ。話を聞くのはマンションに戻ってからでも遅くはないはず。
「ユキ、帰ろう。雨も強くなってるしさ」
「は、はい。あの、支度をするので待っていてくださいね」
ユキは慌てるように自分の荷をまとめて上著を羽織る。彼が帰り支度を終えるのを確認した後、その手を取って急いで教室を後にした。
そして廊下を歩きながら、俺の後ろをついてくるユキがぽつりと呟く。
「さっきは本當にありがとうございました……」
「気にするなって。困っているユキを放っておけないのが相変わらずなだけだからさ」
「晴くん……」
そう言った直後、ユキの握る手がぎゅっと強まったのをじた。しかし彼は何も言うことなく、無言のまま俺の隣に並ぶ。その頬がほんのりと赤く染まっていたのは、きっと寒さのせいじゃないと俺は思う。
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