「なんてことを！」

思わず聲をあげてしまうと、船上の者たちがこちらを振り返った。

しまった、と心の中で舌打ちをする。あちらが飛び道を持っていれば、セイランを救う前に私がやられてしまう。今彼を救えるのは自分しかいない。

攻撃魔法は神に仕える者には許されていないが、ここは戦うしかない。

知識程度にしかない攻撃魔法を詠唱して反撃に出るが、付け焼き刃でを守りつつセイランを救出しに行けるのかと不安が頭をよぎる。この時初めて己が聖職者の道を選んだことを激しく後悔した。

その時、空を切り裂くようなと共に轟音が鳴り響き、稲妻が貨船に直撃した。

『ドオオオン！』

まるで大砲に打たれたような音を立てて、雷に打たれた船は真っ二つに裂けた。

突然の、あまりの出來事に現実がなく、荒れ狂う波に小舟の縁に摑まっているのがいっぱいだった。だがすぐに我に返り、セイランの名を大聲で呼んだ。

だが何度呼んでも聲が返ってくるとはなく、それに先ほどの衝撃で水しぶきが上がり、川は荒れ、彼の姿はどこにも見えなかった。

雷が落ちた川に自分も飛び込んでしまっては、共倒れしてしまうかもと頭では分かっていたが、銛を打たれたセイランの姿が蘇ってきて、私は矢も楯もたまらず荒れ狂う水の中へ飛び込んでいった。

泥が舞い上がって川の中は視界が悪い。探索魔法を駆使し周囲を探索すると、泥の向こうにる何かが見えた。

に導かれるように泳ぎ進むと、気を失い流されるセイランが居た。

急いで彼を抱き水面に上がるが、顔を出した瞬間、裂けた船が倒れるようにして沈み始め、川は津波のように荒れ狂った。

その衝撃で泳ぐことも葉わず、私とセイランはなすすべもなく川を押し流されてしまった。

荒れ狂う水に、必死に彼を離さぬよう抱きしめるだけでどうにもできずただ翻弄されていると、急にが水面に押し出された。

水の圧力が無くなり、ようやく呼吸ができるようになった時には、私たちは川べりに打ち上げられていた。

顔をあげ周りを確認するが、どこまで流されたのか全く見當もつかない。

セイランを見ると、肩のあたりから出していて顔は真っ青だった。

急いで水から引き上げ、乾いた巖の影に寢かせ濡れた服をがせる。

傷は思ったよりも深くなかったが、水の中にいたせいか出が多い。服を破り傷口をきつく縛る。

冷え切って意識のないセイランの姿を見て、彼を失ってしまうかもしれないという考えが頭をよぎり、けないことに手が震える。

とにかく溫めないと、と思い固く絞った布で濡れたを拭いていく。

さすがに著までがせるのはためらわれたので、水気だけでも取ろうと布で拭いていた時、彼のの側になにかがチラリと見えた。

素をなるべく見ないようすぐに目をそらしたのだが、一瞬見えたものに見覚えがある気がして、どうしても確認しなくてはならないと頭の中で警鐘が鳴った。

「…………まさか」

意識のない彼の足を持ち上げて、の側を見る。

足の付けに近い部分には、聖のしるしがあった。

本の聖の足裏にあったものなど比べにならないくらい、完璧でしい形のしるし。一目でこれが聖の証だと分かるほどの神的な造形だった。

「なんてことだ……セイランが……本の……」

まさかこんなところにしるしがあるとは……今まで誰にも気づかれなかったわけだ。

こんなタイミングで知ってしまって、どうすればいいのか。

私は彼のしいあざを見つめながら、必死に考えをめぐらせていた。