《【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖、お前に追って來られては困るのだが?》14.一方その頃、勇者ビビアたちは④~
14. ~閑話 一方その頃、勇者ビビアたちは④~
「なんでこんなことに、ですか・・・。そんなことは決まっています。あの人がいないからに決まっているでしょうに」
アリシアは靜かに口を開いた。その目はまるで俺たちを蟲か何かを見るかのように思えて、俺は思わず背筋をぞっとさせた。
「視界不良の中での気配察知。なるほど、確かに冷靜さを失わなければ大丈夫かもしれません。暗闇も恐れる必要はないのかも。ですが、ダンジョンでは常にトラブルと隣り合わせ。そんなところで常時冷靜でいられるような方は、まあ、あの人しかいないでしょうね」
「っ⁉」
「攻撃も防も機能しない理由。そしてその支援魔法すら効果が薄い理由。それもあの人の補助スキルがないからです」
「なんだって⁉」
「まさか、気づいていなかったのですか?」
聖は信じられないという顔をした。
「皆さんにはそれぞれ攻撃補助、防補助、魔法補助、敏速スキル、ダメージ軽減スキル、回避スキル、鉄壁スキル、回數付きダメージ無効スキル、クリティカル補助スキル、ターゲット作スキル、カウンタースキル・・・。モンスター相手には攻撃力低下、防力低下、鈍足、ダメージ低下、回避不可、必中スキル、貫通スキル、防不可、スリップダメージ、などなど。ありとあらゆる補助スキルの恩恵があったのですよ。それこそ、誰だってAランク冒険者になれるレベルの」
彼は淡々とそう言う。
「そ、そんなわけねえ! これは俺が修行して手にれた力だ! 俺が自分の才能でっ・・・!」
「アリアケさんが説明された時もそう言って、あの方を罵倒されましたよね。覚えてないと思いますけど・・・」
「⁉」
「まあ、あの方はそんな小さなことを気にする人ではありませんけどね♪」
聖はアリアケのことをそう言うと、一瞬だけ、誰にも見せたことのない夢見るのような表を浮かべた。
「おっと、さて」
コホンと咳払いし、次の瞬間には、いつものように冷靜な表に戻った。
「さ、みなさん、それよりも立ってください。何とか隊列をたてなおし、ダンジョンから出しましょう」
彼はそう言って踵を返す。
「アリアケさんがいない今、どこまで撤退戦がやれるのか保証はできませんが・・・このままだと死ぬだけですからね・・・」
そう呟きながら。
「ふう、ふう、ふう・・・」
俺たちは何とか15階層まで戻って來た。だが、それは命からがらだ。メンバー全員が大きなダメージをけてみどろの狀態であった。
ダンジョンでは負傷者がいると、モンスターが増加する。ダンジョンが探索者を狩りに來るからだ。
そのため、ここまで戻って來るだけでかなりのモンスターから襲撃をけ、また力と魔力を消費していた。イライラも限界だった。唯一、アリシアの回復魔法のおかげでギリギリ何とかもっているようなものだ。
「くそ、このままじゃ全滅するぞ! くそっ! くそっ!」
「ちょっと勇者様‼ そんな大聲を出したらモンスターに見つかっちゃうじゃん!?」
プララがまるで俺が悪いかのように聲を上げる。
「黙れ! この役立たずが‼ お前の魔法がヘボいから、俺がこんなに苦労してるんだろうが!」
「なっ⁉ そ、そんな!」
ああ、もう、面倒だ!
「いいから、お前の回復薬をよこせ。役立たずのお前が持っていても無駄だろう」
「だ、だめだよ。もう殘りないし、勇者様は自分の分つかえばいいじゃん。あ、あたしだってまだ魔法使わなくちゃいけないんだし」
「噓だな?」
「⁉」
俺の言葉にプララが顔面を蒼白にする。
「さっきの階層から全く魔法を使ってねえじゃねえか。それって、魔力が切れたってことじゃないのか? ええ?」
「な、なわけないじゃん! お、溫存だよ! 溫存! 私の魔力量は1萬を超えてるんだよ、そう簡単に・・・」
「本當なのか? おい、アリシア、同じ魔法使い同士、お前から見てどうなんだ?」
すると聖は、はぁ、とため息を吐いてから。
「戦力の確認は必要ですし、問われたので答えますが・・・。もうプララさんに魔力はほとんど殘っていません。証拠に、明かりの範囲が狹まってます」
「ちょっ⁉ アリシア! あんた何言ってんの⁉ 勝手なこと言ってんじゃねえぞコラ! 子供の頃みたいにいじめられてーの⁉ 最近は聖だか何とか言われて調子に乗ってるんじゃ・・・」
「事実を申し上げたまでです。それに調子に乗っているのはあなたですよ、プララさん。その魔力量1萬というのは、あの人の魔力貯蔵という補助スキルによる恩恵だったのですよ?」
「は?」
何を言われているのか分からない、といった様子でプララが呆然とした。そして、
「あ、あはははは! んな、わけ! んなわけ! んなわけねえだろうがああああああああああああ!」
「おい、こんな時にやめないか!」
絶して、アリシアに毆りかかろうとする。そこをエルガーがはがいじめにしておさえた。
「馬鹿が‼ そんな大聲を出したら!」
モンスターが集まって來る! そう注意しようとした時である。
「やかましいな。我が寢所の前で・・・」
腹の底にズンと響く様な聲が、辺り一帯に響いたのである。
そして、暗闇から、あまりにも巨大な、四つ足の獣が現れる。
「そ、そんな。噓・・・だろ?」
俺は目を疑う。こんなバカなことがあるものか。
こいつは、
「99階層にいるはずのフェンリルがなんでこんなところにいるんだよおおお⁉」
思わず絶の悲鳴を上げてしまったのである。
フェンリル。神々しき天界の守護獣。
地獄の番犬と言われるこの存在は、以前の俺たちならば戦えた相手だ。
だが、骸骨騎士にすら苦戦する俺たちが束になってもかなわないことは確実だった。
一撃も與えないうちに、殺されてしまうだろう。そもそもSランクの冒険者たちがやっと勝てるかどうかと言うモンスターなのだ。
「気まぐれに出てきてみれば、ただの蟲であったか。つまらぬ」
フェンリルは珍しいブルーのしい沢をした並みだった。俺たちを敵とすらみなしていないことが分かった。
ガタガタと震える。
だが期待もあった。もしかしたら見逃してもらえるかもと。
が、
「まあ、多腹の足しにはなるか。それにダンジョンに捕らわれし我の無聊のめにも」
フェンリルは俺たちを敵ではなく、餌として認識したことがありありと理解できたのである。
そして、俺はすぐに行に移った。
「おらぁ!」
ばきぃ!
「けひゅ⁉」
俺は間髪れずに、プララの鳩尾にボディーブローを叩きこむ。油斷していたプララは思いっきり腹のものをぶちまけながら地面に倒れこみ、ぴくぴくと痙攣した。
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