《現実でレベル上げてどうすんだremix》オバケなんて……?
■
翌朝。
登校し校舎が近づいてきたあたりで、
「おおーい!」
「……、……」
「ンだから気づいてから無視しないでって! 天丼か!」
繰り返されるのは昨日の放課後と似たようなやりとり。つっこみつつ小走りで近づいてきた古幸が、隣に並んで一息つく。やや上気したと制汗剤っぽいにおいからして、朝練上がりなのだろう。
「前からちょびっと思ってたけど、やっぱり久坂君てアタシのこと嫌い?」
「嫌いではない」
「お、おぉう。――そ、そーあらためて言われるとテレちゃうねなんかっ」
「好きでもない」
「無関心?! 地味に一番酷いッ!」
相変わらずの賑やかさと馴れ馴れしさ。とはいえ言葉どおり、俺はそれに対して強く思うところはない。古幸の方も怯んだり堪えたりはしていないようなので、こちらの対応もこのまま、素っ気ないもので構わないだろう。
ふと、わずかな間が空く。こいつが黙るのも珍しいなと思いなんとなく隣を見やれば、
「あ……」
先にこちらを窺っていたらしい古幸と目が合う。
なぜだか決まり悪そうに視線をさまよわせ、
「……えっとさ、昨日はゴメンね?」
ややあってから彼は、そんなことを言う。
「なんの詫びだ? そりゃ」
「え? なんのって、キミの都合も考えずに部活にったこととか、あと、アタシが呼び止めたからその……先輩たちにも絡まれるハメになっちゃったわけだし」
謝罪の理由を問えば、返ってきたのはこれまた珍しくしおらしい調子。しかし部活の勧はいざ知らず、先輩方に関してはこいつが責任をじることでもないと思うが。
そういえば昨日は古幸、というかあの場にいた全員に【威圧】をかけて退散したわけだが、見たところその影響はもう殘っていないようだ。時間が経ったからか、あるいは俺が離れた時點ですでに無効とでもなっていたのか、そのへんはわからないが、聞くわけにもいかない。
「とにかく迷かけちゃって、それで怒らせちゃったかもしんないけどさッ、」
「いや別に怒っちゃいねえぞ?」
「え? けどだって、なんかすごーい怒気をじたっていうか、妙な迫力あったし……」
ひとまずは、とくに気にしていない旨だけ伝えておく。
そうか。なにも知らない奴からすれば、【威圧】の効果はそうじられるのか。けど違和を覚える奴もいるかもしれないし、みだりにspecialを使用するのも、やはり考えものか。
「とにかく腹立てたわけじゃねえから、そこは気にすんな」
「そ、そう」
ひとまずは重ねて言う俺。
それで安心でもしたのか、
「だったらその、もう無理にはわないけど、さ? この先もし気が向いたんなら、部はいつでも歓迎だからッ」
懲りずに、しかし今度は気持ち控えめに、再び勧してくる古幸。
なんというか、部活熱心な奴だ。というか仮に俺が部したら、喜連川の送迎役が一人減ることになりそうだが、そのへんこいつはどう考えているのか。
と、
「とう」
「?」
「!」
かすかな【警戒】の反応に従いをかわしつつ、
ふり返れば、そこには腕を突き出した格好の志條が。
いやなに意外そうな顔してんだ。しかもなんだ、そのやけに堂にった姿勢の掌底は。
「うわあしおりんッ?! もぉ~気配消して近づくのはやめてって!」
「……おかしい。完璧に死角だったはず」
「ま、待って、急に走ってしおちゃん、どうし――って久坂君! と、さっちゃんも?」
驚き大袈裟に跳び上がる古幸。それを余所に、合點がいかない様子で己の掌を見つめぽつりと呟く志條。そこへ彼と一緒に登校してきたのであろう喜連川もやって來て、俺と古幸を互に見て目をぱちくりさせている。
というか古幸の言い草からすると、志條が気配を消すのは常套の手口なんだろうか。
つかそもそも気配ってなんだよ。忍者か。
ひとまず俺が向き直るのは、志條の方。
「いきなりなんの真似だ、志條」
「久坂って、後ろに目でもついてる?」
「……ねえよ。たまたま気づいただけだ」
「……」
問いかけ、逆に問われて一瞬だけ言葉に詰まる。おかしな力を持っていると、気づかれたわけではあるまいが……こいつのまっすぐな視線をけると、あるいはという思いがよぎるのがなんというか……
〈name:志條 栞 class:學生 cond:通常 Lv:0 HP:20〉
“レベル持ち”でないのは間違いない。それは【見る】からに明らかだが……
「今おっぱい見た?」
「見てねえ。いや目は行ったが、そうじゃねえ」
「気づいちゃったね……! しおりんはいだら意外と――」
「意外と」
「久坂君……」
「教室行くか」
「おおっ、久坂君があけみんに怯んだ!?」
余談だが、【見る】の表示はとくに指定がない場合、正面からだと対象の大元あたりに出る。
使用の際、目に見える変化の起きないspecial。
それでもやはり、みだりに使うのは控えるべきか、とあらためて思ったり。
昨日は“LUC:Worst”で散々だったが、今日現在のLUCは“Bad”。とくに明確な不幸が襲ってくることもなく、ならば平気かと思い、放課後は例の廃工場へ寄り道することにした。
そうして一通りいろいろと試したが、まず印象的だったのは能力の向上だろうか。
以前までの気のせい程度ではなく、今回の変化は目に見えるほどだった。
目に余る、ともいえるか。走ればこれまでじたことのない加速を得られ、跳べば助走なしで一メートルほどの高さまで到達し、素手でドラム缶を苦もなく凹ませるなど……
ともすれば日常生活に支障をきたしかねないくらいの変化だが、不思議と力の加減は利くようで。気張らなければ異常な能力は発揮されず、普通にしていれば、レベルが上がる前の力加減も可能。まあそうでなければ、昨日一昨日でなんらかの問題を起こしていただろうが。
magicについても、試せるものは試して大の能を把握した。どうも新しく覚えたものは、MP消費が一律2らしい。今後も魔法が増えるごとに、消費は上がっていくのだろうか。
あとは【見る】に関しても。
以前もしめしたが、このspecialは人だけでなくも対象に出來る。
よってたとえば、
〈人殺しの兇_ 元は建材の一部 人を毆るのにはうってつけ ARM:8〉
先輩方四人を殺したあれを【見る】と、こんな表示が出てくる。
――status――
name:久坂 厳児
age:15 sex:M
class:―
cond:通常
Lv:10
EXP:60 NXT:5
HP: 70/ 70
MP: 24/ 24
ATK:77 ARM:8
DEF:73
TEC:31
SOR:70
AGL:62
LUC:Bad
SP: 55/ 55
――equipment――
right:人殺しの兇
――magic――
〔治癒〕〔蛍〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕
〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕
――special――
【防】【回避】
【警戒】
【挑発】【威圧】
【見る】
さらにはそれを所持した狀態でボードを確認すると、こうなる。
この項目の変化、もしかしたら以前からなにかを持つたびに起きていたのかもしれないが、逐一ボードを確認しているわけでもないし、そこはよくわからない。
というか工じゃなかったんだな、あれ。兇でもないと思うが。
そんなこんなで、今日判明したことを振り返りながらの、廃工場からの帰り道。
ふと見上げた曇天に、妙なものが映った気がした。
〈name:雑霊 class:不死者 cond:死 Lv:0 HP:-13〉
「んあ?」
よくよく目を凝らせば、やはり気のせいではないようで。
知らず間抜けな聲を出した俺の視線の先、なにも無いはずの中空に浮かぶ表示。
それはまぎれもなく、人を【見る】時に出てくるもの。
てか“不死者”?
つまりはあそこに、幽霊でも居るということ、か?
「……」
出し抜けにどんと來た超常現象に、我ながらかんばしい反応が出てこない。
けどレベルだの魔法だのが実在すれば、幽霊がいるくらい不思議のうちにらない……か?
さらに目をこらしてみても、やはりそこに表示以外はなにも見えない。要は俺が対象を認識できなくとも、【見る】は無関係にその効力を発揮するらしい。
しかしこれは、降って湧いた好機か。
「……〔浄化〕」
効くか否か、若干訝りながらなせいか、あえて聲に出して唱えたそのmagic。
直後、表示が出ている大住宅の二階の高さ、その空間に一瞬ばちっと白っぽいが走り――
「あ、った」
ややあって、ボードのEXPの値が1増える。
〔浄化〕はいわゆる攻撃魔法であり、その効果は“不死者の消滅”。
これまではその対象である“不死者”とやらがなんなのか、いまいち判然としなかった。
しかしやはりというか“不死者”は幽霊などのいわゆるオカルティックなもので、しかもそれが実在し、【見る】で判別できる存在だとわかった。
となると當然、これをレベル上げに活用したくもなり――
――status――
name:久坂 厳児
age:15 sex:M
class:―
cond:通常
Lv:15
EXP:125 NXT:10
HP: 88/ 88
MP: 39/ 39
ATK:111
DEF: 96
TEC: 41
SOR:104
AGL: 92
LUC:Normal
SP:120/120
――magic――
〔治癒〕〔蛍〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕
〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕
〔醫療〕〔守護〕〔障壁〕〔衝撃〕〔影無〕〔幻奏〕
――special――
【防】【回避】
【警戒】
【挑発】【威圧】
【見る】
一週間後、こんなじになった。
休みも挾んで市のあちこちを巡り、稼いだEXPは延べ66。といっても六十六もの霊を〔浄化〕したわけではなく、いっても々十五、六かそこらだったはず。
それでもここまで數値がびたのは、〔浄化〕した霊に“レベル持ち”がじっていたおかげ。たしか四ほど居て、レベルは大きい順に7、5、3、3……だったはず。
といっても、とくに危ない目に遭ったわけでもない。遭遇した幽霊はほぼ〔浄化〕一発で片がついてしまったからだ。例外は一番高いレベルの奴で、
『――あ゛あああああああああっ!!?!』
『おおう?!』
【見る】の表示の出現と同時にこんな絶がこだまして、々びびらされた。
ちなみにその時の表示は、こんな。
〈name:繧ェ繝舌こ縺?縺 class:不死者 cond:死 Lv:7 HP:-34〉
絶でびびらされただけでなく、こいつを滅するのには複數回の〔浄化〕を要した。“レベル持ち”の幽霊相手の場合だと、時々失敗するらしい。
今回幽霊狩りをして、ひとつ見えてきたことがあった。
それは取得EXPについて。〔浄化〕の都度ボードを確認したところによると、“Lv:7”霊の保有EXPが28。そして“Lv:5”霊は15、“Lv:3”霊は6が、それぞれの保有EXPだった。
ここからなにか法則を見出せないかと考えたが、気づいてみるとそれは単純で。
要は1から自レベルの合計が、“レベル持ち”の保有EXPなのだろう。わかりやすくていいとも思うし、そんなんでいいのかとも思う。俺も詳しいわけではないが、実際にこんな法則を採用するゲームというのは、まずないのではないか。企畫通らなそう。
ついでに気づいたこと、もう一つ。
パラメータの一番下の數値である“SP”。なんなのか気になりつつも捨て置いていたこの項目、これもわかってみれば単純で、どうもspecialに関わるものらしい。
的には、たとえば【見る】ならば一分持続するごとに1ずつ減っていく。
他は【警戒】ならば発した際に5、【挑発】と【威圧】は使用するごとに10、という合。
わからないのは、明らかに足りていない場合でも特殊能力が使用できていた點か。
たとえば最初のころの【警戒】などがそう。ぱっと思いつく可能は、割合消費とかだろうか。あとは普通に、消費は発の必要條件ではないとか。
ちなみにこのSP。MPとは違い、ほうっておいても回復するらしい。なんの力も使っていない狀態だと、回復量はおそらく一分ごとに1。
しかしMPといいSPといい、いったいなんのエネルギーなのやら。疲労や空腹とかと違い消費しても実が伴わないせいか、どうも“自分のもの”というじがしない。
わからないことは多い。
しかしだからこそ、こうして多でもわかることが増える覚は悪くない。
悪くない、か。
レベルに関してなんだかんだ楽しんでるのは、もう認めざるを得ないかもしれない。
趣味。
この間はでまかせだった臺詞。それもいよいよ否定できなくなってきたか。
どのみち、そろそろテスト期間。
なのでしばらくレベル上げとかそのへんは、ひとまず後回しになりそうではある。
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