《現実でレベル上げてどうすんだremix》夏のはじまり
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「う~み~だ~ぞ~~~ッ!!」
「見りゃわかる」
降車早々、目の前の景に向かってぶ古幸に、ついつっこみ。
現在俺がいるのは隣県L県、海沿い中ほどに位置するV町(舊V村)。その海岸を臨む駐車場で、二時間弱ぶりくらいに地に足をつけたところ。
われるがままついて來た海旅行、その當日である。
面子は言うまでもなく、喜連川、古幸、志條、賀集、大滝に俺。それから未年どもの引率として、志條の両親がそこに加わる。ここまでの足であるワゴン車を運転してくれたのも彼らで(道中休憩時に一度代していた)、今回はなにかと世話をかけそうで、恐しきり。
ちなみに夫妻共々俺より小柄で、印象は穏やか。どことなく地蔵のような雰囲気がある似たもの夫婦といえ、つまりその點娘とは趣というか、方向が違う。……けど我がを振り返れば久坂家(うち)も親子で格が似ているわけでもないし、すると案外皆そうなのか?
「も~相変わらずだなぁ久坂君は! 海だよ海! テンションアゲてこうよ!」
「いえー海いえー」
「投げやり!? いやでも、これが久坂君なりのハイテンションなのかも……?」
「なわけあるか」
「~~ッ微妙すぎてつっこみづらいよぅ!」
「おーい、はしゃぐのもいいが、荷持ってくの忘れないようにな」
通常比二割増しくらいにぎやかな古幸とごちゃやっていると、ワゴン後部からの大滝の聲。
見れば他の面子もそちらに集まっており、荷臺に積んだ各々の荷を持ち出しているところだった。「おっといけねえ!」などと言いつつそちらへ向かう古幸。そのあとに続きながら、彼ら彼らをなんとなく見やる。
當たり前だが、全員私服。そして以前休日に見たものより余所行きなじというか、要は皆、お灑落さんである。素の容姿も相まってなにやら眩しさを覚えるが、最近はそのあたりのきらきらにも慣れつつあるかもしれない。
連中に俺がじっている場違いも、近頃はだいぶ気にならなくなっている。たまにこうしてそれを自覚し、なんともいえない気分になりはすれども、まあ、それだけだ。
さておき、各々荷を手に駐車場を離れ、旅館の方向へ。
ゆるい上り坂と階段からなる敷地の歩道を行けば、さほどかからず玄関前までたどり著く。
そこをってすぐのロビーにて、一行を出迎えてくれたのは、
「よく來たねぇ。いらっしゃい」
ものすごい強面だった。
その筋の人かな?
「いらっしゃいましたー! 毎度お世話になりまーす!」
「ハハッ! 相変わらず元気だねぇ、柚ちゃんは」
「ひさしぶり、おじさん」
「おお。栞ちゃんも大きく、はなってないけど……」
「むう」
「けど皆大人っぽくなって。やぁ、子供の長ってのはほんと速いなぁ、ハハハッ!」
おお。古幸らが筋者(すじもん)とにこやかにやりあってる。姐と呼ばねばなるまいか。
冗談はさておき、この強面が旅館の主なのだろう。そもそも志條が「おじさん」と呼んでいるし。
「久坂君、驚いてる?」
「ああ。ここ最近では指折り」
「ふふっ、ちょっと迫力あるよね、しおちゃんの叔父さん。……初めて會った時は私も小さかったからちょっと、ううん、かなりびっくりしちゃって、困らせちゃったんだけど」
そばにいた喜連川が、そっと耳打ちしてくる。「びっくり」と婉曲気味に言っているが、たぶんはっきりと恐くて泣いたりしたんだろう。彼の格でさらに小さいころとあれば、それは容易に想像できる展開だ。
「お、初めて見る顔もいるねぇ。高校に上がってからの友達かい?」
「あ、はい。久坂厳児といいます。三日間、お世話になります」
「はいよろしく。ま、あんまカタく考えんと、ゆっくりくつろいでいったらいい。ちょっと手伝ってもらうこともあるが、それ以外ん時は自由にしてくれていいから」
「はい。よろしくお願いします」
志條叔父がこちらに気づいたので、とりあえず名乗ったりの挨拶などをわしておく。加えて握手などにも応じつつ……いやすげえごつい手だな。俺なんかよりもよっぽど人を毆り殺せそう。
この間のなんとかいう実習生の手駒もごつかったが、なんであれよりも旅館経営者の方が凄みがあるのだろう。というか腕とか顔とかにある古傷痕は、なんなのだ。そのへんれたら別の語が始まりそう。
ふと気づけば、なにやら妙な視線を注がれている。
「なんだお前ら、その顔は」
「いや、なんというか……」
「ああ。別になにもおかしなことはないはずなんだが……」
「うん。なーんか敬語使ってる久坂君って、なぜだかすっごい違和が……」
「日頃の態度のせい?」
「ちょっと、みんなして……っ」
なんとも、ずいぶんな想を抱かれていた。好き勝手言う連中を喜連川がいさめているが……お前もお前で「たしかに言われてみれば……」みたいな顔してんな。そうか、そうか。
とはいえそのへん、否定しがたくはある。
というか俺の敬語に一番違和を抱いているのは、俺自とさえいえるかもしれない。
各々客間へ(割り當ては男、、志條夫妻の三部屋)案されたり、荷を置いたり著替えたりの、なんやかんやののち――
「イエィピーカンッ! 海も空もあおーーーいっ!!」
砂浜にて、両手広げて大聲上げる古幸。
さっそくとばかりに、海へとくり出す一同だった。
現在、午後一時を回るかあたり。一學期終了とほぼ同時に梅雨も明け、本日は朝から気持ちのよい晴天。それはQ県からL県(ここ)まで移する間も変わらず、さらにいえば、旅行期間の明日明後日までずっと、地方一帯は晴れの予報だった。
「ゆずちゃん、さすが」
「ねー? さっちゃんが一緒だと心強いよっ」
「なんで古幸がさすがなんだ?」
「アタシ晴れだからッ!!」
ついもらした疑問に、古幸がそう言って振り向きVサインを突きつけてくる。
まあたしかに、すげえそれっぽくはある。
「運會も修學旅行も、天気悪くなったこと一度もないよな」
「はあ、そりゃまた」
「久坂のところはどうだった? 二中出でその前は……」
「Oヶ小。別に、まちまちだったな。雨に降られた覚えはねえけど」
男三人で適當に駄弁りながらも、どうしても視界にるのは前を歩く三人。
當たり前だが皆、水著である。
浜辺が目と鼻の先ということで、著替えだのは旅館ですませて出てきた一行。さすがに道中はパーカーだのなんだのを羽織っての移だったが、今は皆いでパラソルの下へ置いてきている。ちなみにそれら荷は志條夫妻が見ていてくれるようだ。
まあつまりあらためていえば、皆水著である。
「同級生の水著姿ってなんかやらしいな」
「お前のその率直さの方がなんかいやらしいよ、久坂」
「とか言いつつ、なんだかんだ自分もそういう目で馴染を見てしまうカゲなんだが」
「そっ、そういうスグはヒトのこと言えるのかっ?」
「まあ、皆、長してるよな……日増しに……」
「だよな……そうなんだよ……」
気づけば並んで阿呆な話をしている男三人。
左右の賀集と大滝がなにやら味のある表になっているが、つまりそれは、思春期男子の(サガ)、なのだ。
「おーい、なーに並んで黃昏れてんのー男子しょくーん?」
そんな阿呆どもへくるりと振り向き、駆け寄り戻って呼びかけてくるのは古幸。
その出で立ちは、黒を基調としたスポーティな意匠のビキニ。それでも実用というよりはやはりお灑落寄りのじで、総じていえばまあはい、よいと思います。健康。
「行かないの? 海。……あ、準備運とかかな? した方がいいよね、やっぱり」
古幸の行に気づいて、喜連川もまたこちらへと寄って來る。
彼もまたビキニ。白一が目に眩しく、あしらわれたフリルが華やかなじでらしいといえばらしいのだが……その格を鑑みるとやや攻め気味のような気もする。旅館を出た時はパーカーと、あと腰に布みたいなのも巻いていて、だからそれらが取っ払われた先程は、水著の意匠になからず驚いたりもした。
「ん。軽くストレッチくらいはすべき。この辺は穏やかだけど、油斷は大敵」
そしてやはりというのか、いつの間にか志條も來ている。
こちらもビキニだが、他二人と比べるとややおとなしめで、加えて意外にといっていいのか、わりと可らしい系。とはいえ似合っていないわけではなく、むしろ恐ろしく嵌っているとさえいえる。
と、子の水著の品評はさておき、準備運はするべきか。レベルによるすさまじ過ぎる能力があっても、溺れれば普通に死ぬだろうし。
それならまずは屈でもと屈もうとしたところで、
なにやら喜連川と古幸が、妙にぼうっとしているような。
「なんだ?」
「っ!?」
「――や、やーそのっ、さっきから思ってたけど、結構鍛えてるんだねぇ久坂君! な~んてっ、あはは……」
どうも俺の型が気になったらしい。そういえばさっき上著をいで置いた時にも、妙な間があったか。しかしいくら意外だからって、そこまで揺せんでも。とくに喜連川、息を呑むのは俺もどうかと思うんだ。
「そうなんだよな……著替えてた時も思ったけど」
「以前育の時にも、ちょっとその話になったよな」
「ふむ」
「『ふむ』じゃねえろうとすんな志條」
古幸の指摘から、話の流れは完全に俺ののことに。やけに真剣に頷く賀集と大滝とは、たしかに言うように以前育の著替えの時にも言及された。バスケ部に來ないか? とも言われたな賀集からは。例によって斷ったが。古幸の方の勧熱も再発しやしないかと、志條の魔の手から逃れつつ思い、
「てか鍛えてるっつたら、お前らも大概だろ」
「俺は一応、運部だからな。スグは……前からこうだし」
「そ、そう! 久坂君の場合、意外だから驚いたっていうか、うんッ」
「賀集と大滝は見慣れてるから、意外でいえばたしかにない」
話の先を賀集らへ逸らそうとするが、すぐにまた俺の方へ戻ってきてしまう。
てか今ふと思ったが、運部でもない大滝がやたら格がいいのも、謎じゃねえか? 質?
さっきから妙に揺が見える古幸と、逆にやけに靜かな喜連川も気になるところだが……
「目下の問題は手前(てめえ)だ。ろうとすんなこっちもんぞ」
「セクハラ」
「男差の理不盡か……」
「む、じゃあるのは諦める。代わりに聞くけど、どうやってここまで仕上げたの? 生半可な鍛え方じゃ、こうはいかないはず」
執拗にじゃれつこうとする貓のような志條を、ひとまず止めることに功。しかし今度はそう詰め寄ってきて……なんなんだ、やっぱトレニーなのかこいつは。そういやなんか、武的な心得があるとかなんとか以前聞いたような。
なんにせよ、聞かれたところで正直には答えようがない。そもそも「人ぶっ殺してレベルとステータスが上がって、結果鍛えられました」は、事実だが意味不明すぎる。
加えて自のの狀態について、あまり他人にれられたくない事も。
以下、回想。
それはたしか半月ほど前、まだ梅雨の明けやらぬころの午後。
『――っはあ。ああ、冷てえ』
予報の降水確率が四十%だったので、なんとなく廃工場へとおもむいたら見事に雨に降られたのがその日の俺だった。季節のわりに低い気溫の中家へと駆け戻り、ひとまずシャワーでも浴びちまおうと所で濡れたシャツをぎ、そういや閉めてなかったと引き戸へ向かったところで、
『あ』
ちょうど廊下からこちらへろうとした彌と、目が合った。
変に固まった空気。
珍しく驚きに目をまん丸に開いた妹と、半の兄。
制服と前髪がし濡れているのを見るに、こいつも俺と同様、雨に降られて今帰ってきたところなのだろう。外の雨音は激しく、だから、玄関が開く音も足音も聞こえなかったんですね。
『ああ……先使うか?』
『……兄キも濡れてる、けど』
『俺は別に、あとでもいい。ほれ』
ひとまず所を明け渡そうと、バスタオルだけ引っ摑む。それからもう片手で所をしめしつつ、橫歩きに出て行こうとした俺。それを彌はどこか、ぼんやりとした目で追う。
その様子がやはり珍しく、つい訊ねてしまった。
『どうかしたか?』
『あ、や……なんか、鍛えてるなーって』
『ああ、まあ……変か?』
『変、というか、ちょっとキモい?』
『!?』
そうして返ってきた妹様の忌憚のない意見に、俺がけたのは思いの外の、衝撃。
若干よろめきつつ廊下へ出たところで、所への戸が閉まる。がらり。
以上、回想終了。
「……」
「なんか久坂君が、なんともいえない遠い目に――!」
「とりあえず……遊ぼうぜ? ……せっかくの、海なんだから……」
「今度は聞いたことないようなセンチメンタルな口調で――ッ!」
俺の唐突な変調に、戦慄する古幸以下。
そう、なんだよな。今の俺の格って、言ってしまえば不自然なんだよな。どことなく劇畫調というか、そのへんで野試合始めそうというか……ああ、おそらくは子に「キモい」とか言われないだろう、賀集や大滝の自然かつほどよい鍛えられ方が、無に羨まれる。
五人の生溫かい視線をじつつ、無言でストレッチを始める。
俺達の夏は、まだ始まったばかりなのだ――
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