《現実でレベル上げてどうすんだremix》夜はおとなしく寢よう
真夜中にふと、目が覚める。
端末で時間を確認すれば、〇時し過ぎ。
妙に目が冴えて寢つけそうにないのは、晝寢をし過ぎたせいか。
を起こし左を向けば、並べて敷かれた布団に寢った賀集と大滝の姿。
風呂から戻ってしばしだべったあとは、明日に備えようということで皆早めの就寢についていた。
「……」
そちらを起こさないよう靜かに布団を抜け、そのままなんとなく窓の方へ。
手前の、旅館にありがちな謎空間を通り、窓を開けた先はベランダ。
外へ出て、靜かに窓を閉める。
流れてくるのは溫めの海風と、のにおいと波の音。
「……」
それらをじるともなしにしつつ、夜天に浮かぶ月を見上げ、
ふと、やはりなんとなく、俺は手すりの向こうへとそのを投げ出す。
一瞬の浮遊。のち、著地。
「――あやべ足だ」
遅れて気づく迂闊。まあいいかと思いつつ、衝撃を和らげるために曲げていた膝をばす。
もはや當たり前のように、怪我などはしていない。とはいえ二階分の高さでは、レベルが無くともたぶんそうそう大事にはならないだろうが。
旅館の敷地を出て、海辺の夜道を駆けだす。
人も車も通っていないのをいいことに、徐々に速度を上げ、最終的には全速全開。
(なんだこれ恐(こわ))
的には高速に乗った車よりも速い自分の足に、軽く引く。
つくづく人間離れしたなあとも、しみじみ思ったり。
道路は海沿いにゆるくくねっているが、その中でも比較的まっすぐびる箇所に差しかかる。
そこでふと思い立ち、踏みこみ、思い切り跳躍。
浮遊――著地、の勢いを殺しきれず、つんのめりそうになるのを、なんとか堪え、
それから何十メートルかかけて減速し、一旦停止。
「……ははっ」
乾いた、失笑のような息が出る。
どうだろう、高さで十メートルほど、距離では百メートル近くは跳んだんじゃなかろうか。
人間離れ、ここに至りか。振り返ると踏みこみと著地のあたり、あれし路面が削れていやしないだろうか。月明かりの加減でそう見えるだけと思いたいが、いやはや。
そんなアスファルト切りつけるような走りと跳躍をしたにもかかわらず、足の足裏はとくに痛いということもなく。見れば怪我なども……まあ、ちょっと汚れたか。部屋戻る時どうすっかな。
「人間の皮の丈夫さじゃあねえよな」
一人呟く。いろいろやりすぎなくらい仕上がっている俺のだが、実のところ、見た目や筋の合なんかは“Lv:10”のころから、あまり変わってはいない。
だからそれ以降の異様な膂力は、おそらくによるものではないのだろう。それこそmagicやspecialに類する、不明な原理の異常な強化の賜、みたいな。
引き続き道沿いを、先程よりはちんたらと、それでも自転車以上の速度で走る。
ほどなく行くと、展臺か駐車場か、よくわからないが開けた場所が見えてくる。
そこで減速し、柵の設えられた縁の方まで行き、立ち止まる。
「……」
その先に見える景を、ぼんやり眺める。
月明かりを反する海面。その手前に晝間遊んだ砂浜が広がり、さらに手前は草木の生える斜面が、今立っている場所まで続く。
ふと、自分がこの場所にいる不思議を、あらためて認識。
それはとりもなおさず喜連川らにくっついてきたからで、そうなったのは俺が連中に憎からず思われているからで、その事の起こりは、やはりあの不審者の一件で。
そしてあの件に首を突っ込もうと思ったのは、レベルに関する事柄があったからこそ。
晝間も似たようなことを考えたが、つくづくなんとも、おかしな因果だ。
誰とも深く関わることなく終わると思っていた高校生活で、
よりにもよって最も接點を見いだせない、なんかきらきらした連中と近しくなり、
あまつさえ一緒に旅行にまで。それも夏の海に。
人殺しの分際で。
おかしいついでに、もう一つ。
これも以前同じように考えたことだが、
やはり俺の力は、どうにも“強すぎる”気がしてならない。
比較対象はもちろん、これまで俺が殺してきた“レベル持ち”達。
晝間も含め、殺した奴らの過半數は、その時點での俺よりもレベルが上だった。
しかし多危険な場面こそあれど、そこまで深刻な苦戦を強いられた印象は、正直いうとない。
それもひとえに、奴らが“class”に準じる力しか(・・)持たず、使わず、
逆に俺の方はmagicやらspecialやら、とにかくいろいろ使えたからに相違ない。
(……晝の鮫頭は、“大喰”っぽい力だったとは言いがたいが)
それでも俺がまったく想定も出來ないような、無茶苦茶な力を使ってきたわけでもなく。
裏を返せば、奴が視界を奪ったり姿を消したりなどの力を持っていたなら、
俺は相當の苦戦を強いられただろう。というか普通にぶっ殺された可能が高い。
とかく俺の力は強すぎるというか便利すぎるというか、
無駄に“いろいろなことが出來すぎる”印象。
いまだ“―”表記のままのclassといい、なぜ俺だけがこうなのだろうか。
そうはいっても、自分だけが特別だなどとはやはりどうしても思えず。
だからなんとなくだが、
いつか俺よりも“なんでも出來る”“レベル持ち”なんかが現れて、
そいつに狙われたら、俺は殺されるしかないのだろう、とか、
そんな風なことを、時折考えたりもする。
などと思えど、こうして生きている現狀が覆るわけでもなし。
だからなのか自分が死ぬ可能を、さほど深刻にも捉えられず。
否、それ以前に、
俺は“自分が死ぬことそれ自”すら、たいしたことともどうにも思えないままで。
「別に進んで死にたいわけでもねえけどな……と?」
そんななんとなく思春期的なよしなし事を考えたりしていると、
不意に遠くから、なにやら不快な羽蟲のような音。
見ればここへ來るまでに通ってきた道路に、徐々に近づいて來るヘッドライトの群れが。
暴走族、というやつだろうか。無駄に吹かしたエンジンで、調子っぱずれの音頭を奏でる珍集団。前元號ののようなその景には、いっそ心さえしてしまうほど。
などと皮めいたことを思いつつ見送ろうとしたら、どういうわけかその珍集団、そのまま通りすぎずに道路をそれ、俺のいる場所へと這って來る。
気づけば汚いかごめかごめ狀態。
バイクやオートバイで周囲をぐるぐる回る珍集団に、包囲される形になってしまう俺。
無駄に騒音を撒き散らしつつ、こちらを見てへらへら笑いを浮かべる珍集団。恐怖を煽るためだろうか、時折接近するようにタイヤを切り返してきたりもする。
(なんだかなあ)
知らず頭を掻いてしまう。まったくなにが楽しいのやら。いや、寢間著代わりのTシャツ短パン姿、おまけに足という俺の今の格好を、稽と言われれば返す言葉もないけども。
さておき、レベルが上がる以前であれば、さすがの俺もびびっただろう狀況ではある。
あるいはレベルを上げだした最初のころならば、癇に障って殺そうとしたかもしれない。
しかし現狀、恐怖も苛立ちも湧かない。強いていえば、し呆れているくらいか。
ざっと【見る】限り、珍集団は全員“Lv:0”。
ちょっと力をれてひとでするだけで、おそらくバイクごとぶっ飛ばし殺せるだろう奴らだ。
周囲に他の人の目もないし、だからそうするのは簡単。
しかし珍集団は十人もいない。加えて今の俺のNXTの値は、67。これでは殺す気も起きない。
まあそれはそれとして、
「うるせえよお前ら」
心を吐き捨て、特殊能力と魔法を発。
行使するのは、【広域化】と〔消音〕。
たちまち周囲に白い靄のような魔法効果が立ち現われ、
その範囲にいた珍集団の発する、一切の音が消え去る。
「――!?」
「……! ――!!」
「――、~~~!!?」
驚き混し、集団は一人、また一人とバイクを停めしきりに首をかす。口のきから仲間に呼びかけているらしいが、その聲が音をなすことはなく、誰にも屆きはしない。
【広域化】とは字面のまんま、SP消費で魔法の効果範囲を広げるspecialだ。
これを併用し放った魔法の著弾位置から、だいたい半徑八メートルほどの範囲にいる者が、まとめて効果対象となる。今狙ったのは自分の足元なので、効果範囲はそのまま自の周囲八メートルだ。
(……けど、なんか前試した時より範囲広がってねえ?)
若干の疑問。目算なので確信はないが、なんとなくそうじた。以前【マッパー】の時も似たようなことがあったし、【広域化】もレベル上昇で効果範囲が広がるのかもしれない。
ちなみに【広域化】の範囲でも、魔法をかける対象はある程度任意に選別できる。だから現狀、かけるつもりのなかった俺自に〔消音〕の影響はない。
「!! !!!」
「~~、~~~!」
聲が出なくなったことに、目下恐慌中の珍集団。なんとか聲を出そうとしているのか、を押さえて必死の表の者。仲間と顔を見合わせ泣きそうになっている者。しきりにバイクを吹かしている者もいるが、そっちも〔消音〕対象に含めたのでやかましいエンジン音が響くこともなく。
それらの狼狽ぶりがちょっと面白かったので、もうし手を加えてみることに。
「【広域化】、〔曝〕」
あえて唱える、二度目の範囲魔法。
ぼばばっ、と広がる橙の煙のような効果と共に、
「――!!?」
珍集団全員の著が、すぱぱんとげ飛ぶ。
珍集団改め、全団の誕生か?
「そんでもひとつ駄目押しの、【広域放棄〕」
調子に乗って、さらに魔法を略稱しつつ追加。
ぶぼばっ、と今度は緑の煙が広がり、
「?!」
「~~!」
「――、――!?!」
乗っているバイクやオートバイから、次々転げ落ちる全達。
〔曝〕、そして〔放棄〕は対象にそれぞれ“飾”、“武”のcondを付與する魔法だ。
これらのcondにかかった者は“防ないし武が解除され、裝備できなくなる”。
武だの防だのいうとどうにも現実が薄いが、要は今の場合、“類”が“防”、そして“バイク等”が“武”と見なされたわけだ。服はともかく、乗りが武と見なされる確証はなかったが……
「~~~!?」
「?!?」
結果は目論見どおり、しっちゃかめっちゃか。〔消音〕のおかげで靜かなものだが。
“飾”、“武”の恐ろしさは、ただの武裝解除ではなく“裝備そのものもできなくなる”點にある。今も目の前で、服を著なおそうとして出來ない全やバイクに乗ろうとしてすっ転ぶ全が、まさに悪戦苦闘、右往左往している。しかし本當酷(ひで)えことすんな、我ながら。
「まあいいや。帰ろ」
さっと切り替え、旅館に戻ることに。力を行使した人間を生かしておくことについては……まあ大丈夫だろう。生活圏が違うし、この先またここに來る機會でもなければ、顔を合わせることもないだろうし。
ああ、あるいはこういう手もあるか。
思いつき、【広域化】、〔暗闇〕と、今度は無言で魔法を行使。
「!?」
瞬く間に闇に閉ざされる周囲。人や指定でない、元から範囲指定の魔法に【広域化】を適用すると、単純に効果範囲そのものが拡大される。
あとは自分に〔影無〕を使い、その場からこそっと離。視界の利かない狀況でも俺なら【マッパー】で他人の位置がわかるので、誰かにぶつかるようなこともなく。
ともあれこれで全団からは、俺がいつの間にか忽然と姿を消したと思われるだろう。
ついでに一連の出來事を人間の仕業でない、超常的ななんかだと思ってくれればよりありがたい。
気がかりがあるとすれば、“飾”などがいつ解けるものかわからない點か。
まあたぶん寢れば治ると思うから、なんというか、お大事に。
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