《現実でレベル上げてどうすんだremix》暇神
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〔収納〕というmagic。
これまで何度か便利に使ってきた力だが、じつはこれにも【マッパー】や〔結界〕のように、専用のボード表示機能がある。
――item――
槍男の槍
HP回復薬468
HP回復薬450
〔治癒〕薬
〔雷鳴〕薬
MP回復薬205
〔賦活〕薬
SP上昇薬75%
ボールペン
〔蘇生〕薬
〔錬魔:魔玉〕
石ころ〔注:氷結〕
棒切れ〔注:睡眠〕
表示されるのは見てのとおり、〔収納〕した品の目録。どこともつかない謎の空間へとしまわれてしまう〔収納〕は、鞄を開けるような中の確認が出來ない。あれ、なにしまったんだったか? ……などという事態が避けられるこの表示機能、存外ありがたいものかもしれない。
やたら目につく“薬”のことは一旦置いて、
〔収納〕自の機能について、あらためておさらい。
まず消費MPは1。なかなかの低燃費だが、消費は出しれごとに逐一。その代わりというか、しまう品の大小で消費MPに変わりはない。一抱えの荷だろうが貨一枚だろうが、一個は一個。
〔収納〕可能な品の數は二十が上限で、これも個々の大きさは無関係。
上限いっぱいの狀態だと、しまう目的での〔収納〕の発は出來なくなる。
また、しまえる品の大きさにも限度がある。ざっくりいえば“無理なく把持できる大きさの”というじか。たとえば今の俺なら乗用車程度なら持ち上げられるが、持てるからといって〔収納〕できるとも限らないらしい。
それとたとえ大きさが手頃でも、地面などに固定されたりしていたら無理。
あとは“生きもの”も〔収納〕不可。ただしたとえば、観葉植の鉢植えは駄目だったが、冷蔵庫にあった野菜は可能。なんとなくだがそのへん、俺の認識によるような気はする。俺が“である”と思うものなら〔収納〕可、とか。
ついでにひとつ気づいた裏技的用法。
どうも“複數の荷がった鞄”などは、一つの品と見なされるようだ。しかしおそらくこれも、あまり大きすぎると駄目な気がする。旅行鞄くらいならば、たぶん大丈夫。
〔収納〕の能はこのくらいにして、
続いて上記にもある、現在〔収納〕している中について。
まずは一番上の、これも何度か使わせてもらった“槍男の槍”。いつぞやの槍男を殺した時に殘ったもので、なかなか丈夫で切れ味もいい。
ところで、以前狀態異常系のmagicを試した折、例によって槍男にも実験臺になってもらったが、その際、奴が反撃のためか槍を出すと、こちらが所持している槍は消滅した。どうもこれ、一度にひとつだけしか存在できないらしい。
その下、いくつか見られる“薬”について。
これらは〔製薬〕――“様々な効果を込めた薬を生する”magicの産。
薬には“HPかMPかSP”または“任意のmagicの効果”を込めることができる。
つまり表示にある各薬は、その名稱どおりの魔法効果を持つ。
〔製薬〕の発には、これ自の消費MP8に加え、込める分のHPやmagicの消費MP分も追加で必要になる。魔法の場合は當該のMP分だけなのでまだましだが、ボードの二番目の“HP回復薬468”……HP1殘しでこれを作った際は、正直言って死ぬかと思った。後日作った次のやつは450と加減したがこれでもわりとしんどく、つまり無理は。
ちなみにMPやSPについては、全消費してもとくに疲労や変調などはじず。
ついでに“SP上昇薬”だが、これは“75%”とあるように、なぜか25%刻みでしか生できない仕様らしい。
できあがる薬はどれもで、掌大のつき半明な瓶り。
瓶といってもガラスよりはプラ的な質で、と形狀は薬の種類によって決まる。
薬は飲むか浴びるかすれば効果を発揮し、その後殘った瓶や破片はほどなく消滅する。
なおその味もまた、込めた効果によって決まるものらしい。“回復薬”であれば無味無臭の、しかし水とは明らかに違うという不思議な覚を味わえる。〔火炎〕等の攻撃的な魔法を込めた薬は……飲まない方がのためである。
他の〔収納〕品に話を移そう。
ボールペンは、その時手元にあった普通のやつ。〔錬魔:魔玉〕は見たまんま、〔錬魔〕した〔魔玉〕の魔法。なんの変哲のない品も、魔法で生み出した不思議現象も、どちらも等しく〔収納〕できるという証左。
その下、石ころや棒切れも廃工場で拾っただけのだが、
これらには〔注〕がかかっている。“任意のに指定した魔法を込める”magic。
込めた魔法は、持ち主の任意で発される。魔法を外部に保存できる、ともいえるだろうか。〔製薬〕で“magic薬”を作るのとさして変わらないようにも思えるが、そのへんは使い方次第か。
ちなみにこれも〔注〕自のMP8に、対象のmagic分のMPが追加で必要になる。
さて、〔収納〕にはここまで列挙した以外にも、あるが収められていた。
本日廃工場へ來て早々、目録ボードを開いてふと目についたそれ。
〈鮫歯刃_ ???の力の象 水の魔力をめる ARM:44 屬:水〉
今は取り出し、俺の手元にある“鮫歯刃”
海水浴の際、遭遇した鮫頭を殺したあとで拾ったものであり、
魚の骨と歯をより集めたような、前衛蕓めいた形狀のナイフ――武。
これも分類でいえば、槍男の槍と同じと思われる。
普通の質でない、おそらく“システム”の産とでも呼ぶべき存在。
特別な機能のない槍とは違い、こちらは“水の魔力をめる”とあるとおり、念じて振るうと水飛沫のような魔法攻撃が生じる。鮫頭が撃ってきたのと同質のものだろうが、威力はそこまで高そうではなく、あくまで追加効果という位置なのだろう。
期せずして手にれた、ゲーム的ドロップアイテム。
正直にいえば、必要というほどでもない代。
しかしせっかく拾ったのだし、〔収納〕のこやしのままというのも、どうか。
手元の鮫歯刃を眺めつつ考えていると、
ふと妙なじがして、その覚のままに視線を向ける。
「――や。久しぶり、久坂厳児くん」
はたしてそこにいたのは、いつか見た顔。
どこか上品だが大時代的な、全緑づくめの裝を纏った奇人。
「お前か。……ミコト、だったか」
「ん。仮名といえど、ちゃんと覚えていてくれてありがと」
否、奇神(・)か?
こいつが神として変わり者なのか、他の例を知らないので比べようがねえな……などと考えつつ呼びかければ、小さく笑みつつ歩み寄るそいつ。
「なんか用か?」
「んー、用ってほどの用はないかな。“キミの領域”が展開されてるのに気づいたから、ちょっと顔出してみただけっていうか」
「暇か。なんかの調査とかはどうした」
「やー、じつはそっちがちょっと手詰まりあってねぇ……しかたないから方針転換して、いっそ“待ち”に転じてみたり」
「待ち?」
「そ。ボクも思いつく限りの手は盡くしたし、あとは向こうが隙を見せるか、ヘマやらかすか……とにかくなんでもいいから、事態がく“なにか”待ち」
世間話のような乗りで、世界がどうのこうのな話になる。ある種超現実的なはずなのに、神やら張とかとはひたすら無縁な雰囲気なのもどうか、という気もしないでもない。
ふとミコトが、俺の手元に目を留める。
「ところで、それは?」
「かくかくしかじか」
「ふむふむなるなる。イデアの結晶化と似た事象かな? 起こりえなくはない、か」
冗談半分に“かくかくしかじか”としか返さなかったが、向こうはそこから意を汲んだらしく頷く。このへんやはり、曲がりなりにも神様か。
その神様、見ればおとがいに手を當て、し考えこむような仕草。
「――ね、よかったらボクが相手になろっか?」
「相手?」
「そ、練習臺。チャンチャンバラバラの」
それから不意に投げかけられたのは、そんな提案。
俺もまたし考え――
「ほっ――」
「――よっと」
ミコトの申し出をけることに。
互いに適當に距離をとり、そうしてどちらともなくき出し、手にした刃を打ち合わす。
俺は鮫歯刃。
ミコトの方は、攜えていた杖をこちらと同じような刃渡りのナイフへと変えて。石突きを地面にとんとん、とするだけで変化させた、手品のような手際。おそらくは、種も仕掛けもない手妻。
「しかもこなれてんな」
「?」
「なんつうか、手さばき?」
「あーまあ、神と世界って、イコールだから。かつてのボクの世界に存在したすべてが、すなわちボクの経験、みたいな」
打ち合いながらのやりとり。
要するに史上最強の剣士とか兵士とか、そういうのの技能をそのまま使えるみたいなことだろうか。それはまた、勝ち目は萬一にもなさそうな。いや別に、こいつを負かす必要などないが。
あるいは神を殺した場合、得られるEXPはどれほどか、などとも思うが、
そうする必要もまた、とくにじないわけで。
正味な話、
俺自もう、そこまでレベル上げにこだわっているわけでもない。
能力は人間生の限界をとっくに超えているし、
魔法も特殊能力も、多すぎるくらいに増えた。
目的も使い道もなく、普通の日常では持て余すことはなはだしい力。
なんでこんなことしてんだか。
これを作ってばら撒いたやつもまた、なにを思ってこんなことを。
「――あ」
気づけばミコトがかち上げた刃で、鮫歯刃が俺の手からすっぽ抜ける。
くるくると宙を舞い、ややあってかしゃん、と地に落ちる音。
「ぼーっとしてたね。考えごと?」
「ああ、……いや別に、言うとおりだ。ぼうっとしてた」
応えつつ、落ちた鮫歯刃を拾いあげる。
すると刃の中ほどに、小さな罅がっているのが目につく。
「あらら」
「あー、あららだねぇ。……ん、ちょっといい?」
とくに思いれもない品だし、とそれだけ呟く俺。
歩み寄り、覗きこんで気づいたミコトも真似るように呟くが、し考え手を差し出してくる。
貸して、というその意思表示に別段逆らう気もなく鮫歯刃を渡す。
「えい」
「おい」
け取るやいなや、亀裂に沿って板チョコのようにへし折ってしまうミコト。
さすがについ、非難めいた聲が出てしまう俺。
「まあ待って。ほら」
手で制すような仕草のあと、ミコトは鮫歯刃をこちらに差し出し、しめすように。
すると、ばきばき、と、
折れた刃を押しのけるように、柄の先から生え変わるように、別の刃が。
「なんとまあ」
「再生能力があるみたいだね、これ」
「……鮫の歯だけに、か?」
「たぶんね」
柄を向けて差し出された鮫歯刃を、再びけ取る。
見れば地面に落ちた方の刃は徐々にけていき、やがて狀に解けて消えていってしまう。
つくづく超自然的というか、ごみが出ないという點では自然に優しいともいえる。
「再生限度とか、あんのかね?」
「んー……あ、持ち主に魔力があれば、損失分のエネルギィは勝手に補充されるみたいだね」
「つまり?」
「厳児くんが持ってる限りは、まず無盡蔵だと思う」
また都合がいいというか、至れり盡くせりというか。至れり盡くせりはなんか違うか。
ともあれ元通りになった刃を構え、再びミコトとちゃんばらを継続――
「……んー」
と思いきや、向かい合うミコトはまたも思案げ。
それからまたこちらへ歩み寄り、
「ん、と……構えはもうし、こう、かな」
言いながら、手取り足取り俺の姿勢を調整していく。
ふと気づいたのは、至近距離のそのから溫も臭もじないこと。
なくとも生きものでないのは明らか、か。
「よし、おっけー」
「……なんか若干、窮屈なんだが」
「慣れれば前よりもきやすいはずだよ。それじゃ続けようか」
そうしてあらためて始まる模擬戦。
先程とは違い、今度は時折ミコトからの助言が、合間合間に挾まる。
腕の振り足の運び、切り方け方避け方などなど……
俺が空腹を覚えるまで、そんなちゃんちゃんばらばらは続いた。
「――なかなかいい気分転換になったよ。それじゃ、また」
そう言って去っていったミコト、妙に意的な指導だったが、
それを俺がきちんと會得できたかどうかは、正直よくわからない。
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