《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》45 『でんでんむしのかなしみ』

あるところに、でんでんむしがいました。

そのでんでんむしはある日突然、気付いたんです。

自分の背中の殻には悲しみが詰まっているのだ、と。

そのでんでんむしはその気付きに絶してしまい、生きる希を失いました。

そして、彼は友達にそのことを相談したんです。

「私の背中には悲しみが詰まっている。私はもう、生きていけない」

と。

するとその友達はこう言いました。

「悲しみを背負っているのはあなただけではありません。私の背中にも同様のものが詰まってあります」

でんでんむしはそうなのかと思って、さらに別の友達に相談しました。

するとやはり、別の友達のでんでんむしはこういったのです。

「それはあなたばかりじゃありませんよ。私の背中の殻にも悲しみはいっぱいです」

でんでんむしはそれから、いろんな友達に相談して回りました。

すると、どのでんでんむしも、みんな悲しみを背負ってるではありませんか。

最初のでんでんむしはここに至り、ようやく気付きました。

この世に悲しみを背負っていないものなどいないことに。

それから、でんでんむしは悲しむのをやめました。

自分はこの悲しみを背負って生きて行かなきゃいけないのだ、と。

……私はこのでんでんむしさんと同じでした。

どうして私ばかりいじめられるの。

どうして私ばかり大変な運命にさらされないと行けないの。

どうして、どうして。

どうしてなの。

そんな風に思ってたのは、きっと私が、自分しか見ていなかったからですね。

みんなは私みたいに、悲しいからと言って、悲しい悲しいと嘆いていないだけ。

はしたない自己憐憫に浸っていないだけ。

よく目を凝らして見てみれば、誰も彼もみんな背を丸めて耐えているんです。

私、この世界は救う価値が無いと思ってたけど――

どうやら違うみたい。

でも、気付くのがし遅かった。

もう私だけの力じゃ「侵食」を食い止められない。

本當はお兄ちゃんを巻き込みたくなかったけど……そうも行かなくなりました。

だから今日は、あなたに謝りに來たんです。

ごめんなさい。

お兄ちゃんの力を借ります。

でもきっと、いつかまた、お兄ちゃんは帰ってきます。

そして、ここでまた、嬉しそうに昔ばなしをします。

ええ、絶対です。

約束します。

だって、お兄ちゃんは――

マジでパネェ、バッキバキのヤンキーですもの。

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