《お月様はいつも雨降り》第二捨死目
<登場人>
シャン
『月影乙第七発展汎用型』の人型端末
市松
『月影乙第七発展汎用型』の人型端末
大椛マサハル (おおなぎまさはる)
アキツの小學校の同級生 カエデと活を共にする
上野カエデ (うえのかえで)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の男タイプの『月影人形』と共に行している
諏訪山マモル (すわやままもる)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』市松と共に行している
「構に殘っている乗客は?」
「駅舎外へのすべての乗客の避難導を終えました、転倒による軽傷者四人も自力で地上の救護施設に移済みです」
「まだいるかもしれないな、線路に取り殘されている可能はないか、検電狀況も再度確認するように?」
「検電、非常用発電機の稼働狀況も正常です」
ホームに急停車した乗客の避難を終えた地下鉄駅構の職員は、手にした管理マニュアルと照らし合わせながら安全確認チェックシートに記録している。
「上の狀況はそんなにひどいんですか?」
「ああ、部長の話だと、ぐみ坂あたりの建はめちゃめちゃらしいぞ」
「ここも仕掛けられてるんじゃないか?」
「そうなら、もう発してるだろ……お、おい、あれ、まだ人が殘っているんじゃないか?」
「駅間停車があったとは聞いていないけど」
確認作業のためホーム先端にいた二人の職員は、暗闇に延びる線路の照明燈が瞬いているように見えることに気付いた。
職員の一人は、すぐに無線で管理課へ連絡をれた。
「一、二……六名の避難者が歩いてこちらに向かってきているようです」
「分かった、全車両の運行停止は確認しているが萬が一もある、急いで導してやってくれ」
上司に命じられた職員は柵の扉を開錠し、線路上に降りると、大きくこちらに移してくる人影に呼び掛けた。
「う、うわぁ!」
改札付近で作業に従事る他の職員は悲鳴を上げ階段を駆け上ってくる二人の職員の姿に気付いた。
「どうした!何があった?」
「早く逃げろ!変なのが來る!」
「変なのって何だ?まったく奴らには責任ってものが……あ……」
年配の職員はあきれ顔をしながらホームに通じる階段を見下ろした瞬間、がかなくなった。
崩壊した複數の建から登る黒煙
地下鉄駅の地上出口付近には駅構から避難したり、屋外で負傷したりした人たちが歩道に力なく座り込み救助を待っている。
鳴りやまぬサイレンの音とマスコミがチャーターしたヘリコプターのプロペラ音とで辺りは戦場のように騒然としていた。
テレビ番組のワイドショーは蕓能人のゴシップネタを急遽切り替え、現場の張する雰囲気を伝えている。
「また、大きな被害が起きた模様です、現場には川田記者が行っております、川田さん、そちらの狀況を伝えてください」
「はい、こちら現場です、ここは霞が関二丁目差點にある地下鉄出口です、普段の日であれば、庁街ですので、多くの関係者が行きかうところですが、今日はその様子からは想像できない狀況となっています、ご覧ください、負傷者がこれからどのくらい増えるのか全く想像がつきません、警察や消防からもまだ何も発表されておりませんが、関係者の話ですと一連の連続破テロとの関連が疑われているとのことです」
マスコミのカメラクルーは、疲れ切って花壇脇に橫たわる人や、擔架で救急車へと運ばれようとしている頭部に白い布をあてがった人を、規制する警察に遮られるまで近付き、舐めるようにその姿を寫している。
「つい先ほど、都知事の要請により政府より自衛隊の災害派遣命令が下りたようです、尚、防衛大臣は未だ所在の安否の確認ができないため、閣総理大臣からの命令によるものです、また、初対処部隊『ファスト・フォース』も先行して既に人命救助活の支援にあたっているとのことです」
現地記者が説明する背景で、人が悲鳴を上げ、逃げう様子が映し出された。
「地下鉄出口付近で何か人のきが出たもようです、何かあったのでしょうか」
記者が後ろを振り返りながら放送を続けている。
「あ、何か出てきます、地下出口から何か……大きな人のようです、あっ!」
記者の背後の道路上に首の骨が折れた狀態の犠牲者のが次々と転がっていく。それは遊びに飽きた児が新しい玩を拾っては捨てているような作だった。
「ひっ!」
警察による連続する威嚇発砲の乾いた音が中継する記者の聲に混じる。
「近くの人が次々と空中に投げられています……こんなひどいことが……やばい……こっちに……逃げ……」
記者の悲鳴とも近い聲で中継が途絶え、テレビの映像は一瞬言葉に詰まるスタジオの男司會アナウンサーの顔に切り替わった。
多局の中継もほぼ同時刻に何らかの原因により突然遮斷された。
「六……いったい、どこにこれだけの數を潛ませていたんだ」
「あそこの駅の地下空間には舊海軍省防空壕の一部がコンクリート壁越しにまだ広く殘っております、いつ頃かは分かりませんが、そこに『客人』たちは用意していたのでしょう、ですから今回のこの地下からの襲撃では『天使のラッパ』が鳴らなかったのです」
「てっきり、マサハルたちがしくじったのかと思っていた」
「マサハル様もカエデ様も頭上からの『客人』はラッパが鳴る前に始末したようですが、さすがにそこまでの探索は不可能と存じます」
「あの二人は、昔から目の前のことだけで一杯だったからな」
國會議事堂を見下ろすように建つタワービルの屋上
無ひげを顎に蓄え浪人のように長い髪を後ろに一本に縛った青年の手には対ライフルが抱えられ、その橫には和服姿の小さな型フィギアが寄り添っている。
「通信の遮斷は?」
「はい、他の月影人形たちにも協力をいただいてます」
「日常の便利さゆえに、通信が遮斷されると何もできなくなるのは文明社會の皮だな、この場所は風が強くて寒い、早く終わらせてみんなのところへ帰ろう」
「承知しました」
青年はライフルの二腳(バイポッド)を屋上の床に固定した。
「これ使うと照準がぶれるんだよね」
「筋の微細運による照準補正はこちらで行います、何よりそのライフルはただの狙撃銃ではありません、対客人兵用のモノですから、計算上では衝撃を吸収しないと簡単にマモル様の肩の骨が外れてしまいます」
「わがままは言えずか」
「そうとも理解できます、それではマモル様と同期いたします」
「ああ、頼む」
フィギアは両手を広げライフルを構える青年の背中にもたれかかった。
青年のスコープには、ゆうに長が三メートルを超えるマネキンのような人形がよりはっきりと映し出されていく。その顔には眉やまつなどがなく、ただ、走った瞳だけが人間という獲を捕らえようとギョロギョロといていた。
「一目……」
青年が引鉄を引いたその時、失神するの片足を摑み、今にも引き裂こうとするマネキン人形の頭部が破砕された。
「二目……」
青年が五目を始末した時、最後の一が消えた。
「死角にられた、『市松』!どこに消えたか分かるか」
青年はスコープを覗いたまま、植え込みや車両の後ろなど隠れていそうな場所を必死になって探した。
「ただいま補足中です……補足完了……真後ろです」
青年がスコープからすぐに目を離し後ろを振り向くと、整然と並ぶ空調設備の機械の上にマネキン人形が立っていた。
「気付かれていたのか」
マネキン人形が跳躍し、青年のすぐ目の前に移してくるのに三秒もかからなかった。
「図がでかい割には、ずいぶんと機敏な奴だ、惚れ惚れするね」
「マモル様!」
マネキン人形が青年を摑もうとする腕がのような赤いをまき散らしながら吹き飛んだ。
「目の前のことで一杯なのはマモル、お前もだった……」
マサハルが『レイジングブル』という稱のベルギー製の拳銃を構えていた。マサハルは手慣れたじで、銃弾をマネキン人形に次々と叩き込んでいく。
マサハルはわざと四肢から破壊し、頭部を最後に殘した。
「消えろ」
マサハルはコンクリートの床でかなくなったマネキン人形の頭部を自分の足で潰した。
「ヒロトが戻ってきた……イツキが俺たちを部屋に呼んでいる」
そう言い殘してマサハルは階下へつながる非常口に消えていった。
「いいな……俺もあのハンドガンをイツキからもらうかな」
マモルと呼ばれた青年は自分のライフルの銃口で、潰れたマネキン人形の頭部を引っ掛け、コンクリートの床をゴルフボールのように転がした。
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