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待ち人――正確には、待ちキョンシーと言うのだろうか――は二時間後に現れた。

「エクセレント。ワタシのカ説が當たりマシタ。思っタヨりも早かったデスね」

「ちっ」

現れたのは一のキョンシーだった。見た目の年齢は十代後半。綺麗な顔立ちをした小柄なで、蘇生符から垣間見える眼は鋭く、きつい印象を與えた。

十中八九。このキョンシーが野良キョンシーだろう。

「あらマア、あナタもうボロボロじゃなイですか。良く立ってイラれますね」

「うるっさいわね。さっさとそこをどきなさい。わたしはジュースを買いに來ただけよ」

「他の自販機に行けば良いじゃナイですか？　あ、そレも無理でスネ。ここ以ガイの南區の自販キは全部撤去シましたから」

「ッ、お前か」

ウフフとヤマダは眼を細める。

「ワタシはふタつのデータを調ベました。一つはシカバネ町南部全ての監視カメラの稼働時カンデータです。逆転の発想デス。必ず(・・)映像に殘せなイのでアれば、サウンドノイズ以外の不合を殘しタ監視カメラをマッピングすレば潛伏場所の大マかな場所は摑めます。あなた達がセン伏しているのは南部のゴミ埋立地ですネ？」

必然として生まれるエラーは必ず消す事ができる。

「……」

野良キョンシーは何も答えない。ヤマダは構わず続けた。

「次にワタシが調べたノは食糧と飲料の自ドウ販売機の売り上げデーダでした。昨年比の売リ上げの三十倍もキ録したジ販キが幾つもありマした。後は簡単です。次に何処にアナたが買いに來るか。それだけを限定すレば良い」

ヤマダが出した指令は指定した自販売機以外を全て撤去する事というであった。

突然の指示に第一課と第三課の連中は冷や汗を流していたが、ちゃんと仕事をこなした様だ。

「さて、アナタ達ニは二つの選択肢が有リマす」

「……言ってみなさい」

野良キョンシーは唾棄する寸前の表でヤマダの言葉へ耳を傾けた。

――思っていたよりも理が出ていますね。

ヤマダは心で驚いていた。

なくとも対話する意思を見せるとは。

あの正義バカよりもよっぽど上等なキョンシーかもしれない。

「一つは、ここでワタシとセバスに壊される事。個人的にも遠リョしたいセン択肢です。服が汚れますシ、キョウカにも怒ラレます」

「わたしに勝てるって言いぶりね。ああ、むかつくわ。とってもむかつくわ。消し炭にしてやりたい」

そう言っておきながら野良キョンシーは話の続きをヤマダへと促した。

――これは、すごい、ですね。

マイケルが此処に居たら興のあまり過呼吸にるかもしれない。

ヤマダの脳裏にあのスキンヘッドが『マジかよ!?　え？　検査して良い!?　大丈夫大丈夫！　（メスの）先っぽしかれないから！』とぶ姿が過ぎった。

「もう一つは、このままワタシ達に投降スル事です。今の所あなたハ誰も殺していマセんし、ワタシの上司が取り計らってクレルかもしれまセン」

ヤマダは京香の姿を思い浮かべる。

京香は稀有な人間だ。この野良キョンシーを救い上げる可能はあった。

「仮にあなた達に投降したとして、わたし達は何をされるの？」

「まず検査でしょウ。蘇セイ符をカい析し、問題がアるバグは修正します。そしてアなた達が〝使える〟なら脳に安全裝チを埋め込みます。ワタシ達に逆らっタラいつでも壊せるように」

「〝使えない〟なら？」

「バラしてリサイクルでスよ」

瞬間、ヤマダの視界に強烈なゆ(・)ら(・)ぎ(・)が起きた。

「セバス！」

掛け聲と共にセバスがヤマダのを摑み、後方へと跳んだ。

剎那。

ゴウ！　火柱が一瞬前までヤマダが居た場所に上がった！

突如として上がった火柱は後方に跳ぶヤマダの髪のの先を焼いた。

セバスはヤマダに一切の衝撃を與える事無く、アスファルトへと著地する。

「危なイ危ナい。火傷するとこロでした」

「ちっ」

野良キョンシーは苛立たし気に舌打ちする。

今、ヤマダが見たゆらぎはＰＳＩ発力場である。両目に著けた特殊コンタクトレンズ（マイケル作）が通常ならば見えないＰＳＩ反応を検出しているのだ。

「大人しくしてれば火傷で済ませてあげる。退きなさい」

「それハ不可能でス。あなタは今ワタシに攻撃シました。ワタシはやられタらやリかえす主義ナのです」

そう言いながらヤマダはミニバックを開き、中から無骨な黒いゴーグルを取り出した。

ゴーグルの左右には大小様々な目盛りが刻まれたダイヤルが付いている。

「あナたはラ(・)プ(・)ラ(・)ス(・)の(・)悪(・)魔(・)を知ってイますか？」

返事は求めずヤマダはゴーグルを眼窩に嵌めてダイヤルを回した。

瞬間、ヤマダの視界は０と１、デジタルな世界へと進化する。

このゴーグルの名前は〝ラプラスの瞳〟。ヤマダ専用のＡＩデバイスであり、これを使いこなせる事が、ヤマダが第六課に所(・)屬(・)出(・)來(・)て(・)い(・)る(・)理由だった。

セバスに抱えられたまま、ヤマダは命令する。

「ＦＤ５ＨＪ３ＴＬＡＡ」

――前方へ５メートル踏み出し３メートルジャンプした後左にを回転させ攻撃せよ。

それは短く暗號化されたアルファベットと數字の羅列。

セバスがヤマダを抱えたまま、五メートル踏み出した。

野良キョンシーはそこを狙って火柱を生む。

火柱が生まれると全く同じタイミングでセバスが跳び上がり、火柱を乗り越えた。

この未來をヤマダは既に知っていた。

「ちっ！」

パイロキネシストは舌打ちを鳴らしながら自分へと向かってくるセバスへ左拳を放つ。

しかし、それも空中で既に左にを回転させていたセバスに頬の薄皮一枚で避けられ、逆にカウンターの右足がパイロキネシストの腹部へと突き刺さった。

「かはっ！」

パイロキネシストの肺から押し出された空気が吐き出される。

ヤマダは視界からのデータでこのキョンシーの胃の破裂を判斷する。更にがひしゃげる角度からヤマダはこのキョンシーがどの程度の改造をけているのかを理解した。

――臓への改造は無し。主に筋繊維をれ替えている。まあ、普通の改造と言ったところでしょうね。

霊幻の様に全を機械化していたら々面倒だった。

「ＴＲＡＡ」

――右に回転し、攻撃。

再びのヤマダの命令はやはり未來を先読みしたかの様だった。

臓破裂を起こしながらもパイロキネシストは反撃の火柱をヤマダとセバスの足元へ生む。

しかし、セバスは右に回転しながらそれを避け、カウンターで左の上段蹴りをパイロキネシストの顔面へと放った。

「くっ！」

鎌の様に迫り來るセバスの蹴りへこのキョンシーはギリギリで左腕をり込ませる。

ボキィッ！　骨が折れる音と共にパイロキネシストは後方へと蹴り飛ばされた。

十メートル、アスファルトの道路を転がり、すぐさまの姿をしたキョンシーは果敢に立ち上がる。

「投降をオススメしまスよ？　あなたノきはモウ予測(み)えています」

視界に映るありとあらゆる力のスカラーとベクトルを數値化する

それがラプラスの瞳の機能である。それ以上でも以下でもない。

取得したこのデータを元にした高度な未來予測を行えるのは一重にヤマダの頭脳あっての事だった。常人を越える演算能力がヤマダには有り、データの取捨選択に関して神憑り的第六を持っていた。

脳細胞に起する數秒先の未來絵図へセバスを使い介する。

これがラプラスの瞳を著けたヤマダの力だった。