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「はぁ、……はぁ、……はぁ！」

ホムラは膝を地面に付けて蹲っていた。

老執事のキョンシーを連れたメイドとの戦は、ホムラの活能力へ致命的なダメージを與えていた。

どうにか退ける事には功したが、視界がぐらつきホムラはその場からけなかった。

パチパチ。ホムラはまばたきをした。視界の明暗にはほとんど変化無い。目の前にある自販機の明かりが微かに分かる程度だ。

折れた左腕を無理矢理かしてポケットからビニール袋と數枚の紙幣を取り出す。兎に角、栄養源を買わなければらない。

何よりもココミの為に、自分とココミが一緒に居る為に。

立ち上がれ、立ち上がれ、立ち上がれ。腳に命じ、震えながら立ち上がる。

地面がグラクラと揺れている様にホムラはじた。だが、ギリギリ殘っている三半規管の機能が揺れているのは自分の腳だと判斷する。

かなければ、速やかに目的のジュースを買ってこの場から立ち去らなければらない。

早く逃げなければ。

――何処に？

「……あれ？」

ホムラは愕然とした。今、自分が何処に逃げようとしたのか忘れてしまっていたからだ。

この場から離れなければならない事は分かる。だが、何処へ逃げれば良いのかが分からなくなっていた。

記憶が熱で融解していく。

距離も形も判斷が付かない視界の中でホムラはしの妹を探した。

「ココミ、ココミ、何処に居るの？」

ココミは自分の後ろに居た筈だ。守る為に。守れる様に。それだけは確信があった。

「ごめんなさい。眼がもうほとんど見えないの。お金を渡すからあなたが買ってくれないかしら？」

返答はしばらく無かった。

あれ？　とホムラは眼を凝らすが、僅かばかり像がはっきりとするだけで、薄暗い夜闇の中では意味をさない。

――ココミ！

そうび出す直前、ホムラの頬をらかい何かが挾んだ。

「……」

そこに居たのはホムラの頬を両手で挾んだココミだった。

瞬間、ホムラの視界は鮮烈な薔薇に包まれた。視界の他全ては滲んで揺れていたが、ココミの姿だけは、そこだけははっきりとしていた。

これはの力だ。ホムラは確信する。自分のがココミを見ているのだ。

ココミのらかくらかな手が慈しみを持ってホムラの頬をでた。

「どうしたの？　ココミ？　大丈夫よ。ちょっと休めば元気になるから。ただ、ごめんなさい。今は上手くがかないだけで、本當にすぐに良くなるから」

真っ赤な噓だった。ホムラのは活出來ているだけで奇跡だった。休んだからと言って回復は難しい。本的な修理が中至る所で必要であり、それをホムラ自認識していた。

だが、ホムラはココミの姉だった。ココミをし、ココミを守る為に自分は存在していると、ホムラはそう自分の在り方を定めていたのだ。

妹を心配させたくない。しでもこの子が幸せに穏やかに暮らせる世界にしたい。たとえ、この逃亡劇の幕切れが慘めなにると分かっていたとしても、ギリギリまで幸せであってしいのだ。

「……」

ココミの手は一定のペースでホムラの頬をでている。

られた場所にホムラは熱をじた。ココミがってくれた場所からじんわりとの如き暖かな熱が広がって行き、落ち掛けた意識が戻ってくる覚がした。

実際は溫度上昇などしていない。ただの錯覚だ。

暖かな幻想がホムラへ立ち上がる力を與えた。

「……良し！　元気が出たわ！　ありがとうココミ！　これでわたしは大丈夫よ！」

ホムラの聲に活力が戻る。これでまだまだけそうだった。

それならば、とホムラは自販機へ向かおうとした。いつの間にか左手に持っていたこの紙幣でカロリー源を買う為に自販機へ振り向こうとした。

けれど、ココミの手がホムラの頬から離れず、ホムラはく事ができなかった。

「ココミ？」

「……」

蘇生符の奧、ココミがジッとホムラを見つめている。

「大丈夫、大丈夫よ。本當に元気にったの。元気百倍よ。また幾らでもけるわ」

「……」

ホムラが何かを言ってもココミの手は離れなかった。

決して強い力ではない。しかし、ホムラには振り払えなかった。

そもそも、しの妹の手を振り払うと言う選択肢がホムラには無い。

ココミのむ事をしてあげたい。

ココミが嫌がる事はしたくない。

矛盾する二つの思考がホムラのきを固まらせる。

その時、ココミがスーッとホムラへと距離を詰めた。

二のキョンシーの頭の距離が百センチ、五十センチ、十センチと短くなっていく。

「え？　ココミ、可い顔を近付けてどうしたの？」

互いの息が屆く距離にまでホムラとココミの顔は近付いた。

黒曜石の瞳にココミと全く同じ顔が映っている。

しさと戸いにホムラは瞬きをした。

ココミの瞳の中に自分が映っている事がホムラには気恥ずかしかった。

その時、ホムラの記憶領域からとある映畫のシーンが火花の様に浮かんだ。

どの様な映畫だったのかは覚えていない。前後も、キャストの顔も曖昧だ。

ホムラの頬を両手で挾み、ココミが顔の距離を詰めていくこの景。

それはとても映畫的なシーンだった。

「ココ――」

そして、二のキョンシーの距離が零にる。

「ん」

接點は(・)だった。

世界で一番らかく綺麗ながホムラのへとれている。

ホムラはあまりの驚きに眼を見開き、

「……おねえちゃん」

しの妹の聲を初めて聞いて意識を落とした。