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「はっはっは！　久しぶりだなマイケル！　渋々だが調整に來たぞ！　さあ、吾輩のを弄繰り回すが良い！」

霊幻は高笑いをしながらキョンシー犯罪対策局研究棟六階の、即ち、第六課現狀最後の職員、マイケル・クロムウェルの研究室の扉をバーンと開いた。

「おお、霊幻、一ヶ月ぶりじゃねえか！　お前から來るなんて珍しいな。定期點検は來月だぞ？」

「京香に言われてな！　京香が院中は吾輩も撲滅活できない。この機會に調整してもらえと言われてしまったのだ！」

マイケルが恰幅の良い腹をポン！　と貍の様に叩き、霊幻を出迎える。

アポイント無しで來たと言うのに、マイケルは嫌な顔一つせず、霊幻を部屋へと通した。

マイケルの研究室には三つの部屋がある。

一つ目は來客用オフィス。

二つ目はキョンシーを修理するリペアルーム。

そして、三つ目はキョンシーを研究と兼ねて調査する研究部屋だ。

霊幻は研究部屋へと通され、慣れた調子で服をぎ、用の紫マントを壁際のハンガーに掛けて、中央に置かれた検査用ベッドに橫たわった。

「あたま～、しんぞう～、そしてはら～、うで～にあし～に、そ・せ・い・ふ～」

上手くも何とも無い歌を歌いながら、マイケルが格に似合わぬ機敏で洗練されたきで霊幻ののあちこちへ電極を刺していく。霊幻のは脳と脊髄を除いてほとんどが機械化されていて、人工合皮の下には電極を刺すためのが開いているのだ。

蘇生符の額近くにある端子口を開け、専用のＫＳＭ端子を差し込んで、パンとマイケルは一回手を叩いた。

「いやぁ、お前のを弄るのはひっさびさだ！　新パーツがあるんだがどうする!?　ロケットパンチとバズーカ蔵なんだが!?」

「それは素晴らしい！　吾輩の紫電をけたらそのパーツはどうなる？」

「発だな！」

「なるほど！　卻下だ！」

ＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡＨＡ！

いつものやり取りにアメリカンな笑い聲を上げた後、マイケルはＰＣ上で表示される霊幻のパーツデータを見比べた。

「左腳に負擔を掛けたな？　アキレス腱を換しよう。んで、また全に紫電を纏ったな？　何回だ？　三回位か？」

「ご明察。その通りだ」

カチャカチャ。

「紫電を纏うのはできるだけ止めとけ。お前のエレクトロキネシスに半永久的に耐えられる素材がまだこの世に無いんだから」

カチャカチャ

「無理だな！　吾輩の思考回路ではＰＳＩの使用を抑える選択肢が無い。それが撲滅に繋がるならば即座に紫電を纏うだろう」

「んじゃ、天才の腕の見せ所だな。今度、改良型のパーツを造っておく」

「おお、謝する！」

カチャカチャカチャ。軽口を言い合いながらマイケルは霊幻の合皮を剝がし、出した機械のを解していった。

人工神経との接続が解かれ、霊幻のから一箇所また一箇所と覚が消えていく。

「仮にここでお前に放っておかれたら吾輩はどうしようもないな」

「そうだな。脳と脊髄とエレクトロキネシスだけじゃ々このビルを壊すので関の山だ。まあ、そうなってもお前は俺を恨まないんだろうが」

「ハハハ」

最後に眼球を取り外す事で解作業は終わり、霊幻は伽藍堂の達磨とった。

五との連攜を切斷された霊幻の世界は虛無だった。

マイケルが霊幻の隣でカチャカチャカチャカチャと中々の音を立てているのだが、霊幻には全くそれが分からなかった。

思考しか存在しない今の自分は果たして世界に存在していると言えるのだろうか？　と霊幻は過去に自問した事がある。そんな事は考える意味が無い。自分はただ撲滅するだけだ、と即座に自答した記録が殘っていた。

恐怖は無い。虛無だけが広がる世界だとしても、霊幻の思考には些かの変化も無かった。

さて、どうしようか。撲滅できる確率をしでも上げるために、思考回路をどの様に先鋭化できるだろうか？

撲滅、撲滅、撲滅しなければならない。

この世には撲滅対象が多過ぎるのだ。

生者の世界を狂わせるモノ。

生者の社會を脅かすモノ。

生者の命を壊すモノ。

費用対効果だけを見れば、キョンシーは生者を越えた。

だが、技は生きているモノの為に発展してきたのだ。

『キョンシーは〝祈り〟だよ』

聞き慣れたフレーズが霊幻の幹にはあった。

幸福を願い、命を尊ぶ為に、幾億人もの絶と希を礎にして生まれたのがキョンシーだ。

何が有ろうともキョンシーの為に命が奪われてはらない。

祈りを呪いにしてるか。

それが霊幻の撲滅願の幹だった。

＊

ピピピピピ！　霊幻の世界にと音が戻った。

「良し！　調整完了だ！」

良い汗掻いた風にマイケルが額を拭っている。

五を失ってから再び戻るまで二時間十五分三十七秒経っていた。

霊幻はムクリと起き上がり、両手足の調子を確認する。新品の合皮はやはり綺麗だ。

「ふむ、機能が全的に二十一パーセント改善している。流石だマイケル！」

「おうともさ！　俺は天才だからな！」

パァン！　右手でハイタッチをわし、霊幻はベッドから降りて、壁際に掛けていた服を著てトレードマークの紫マントを羽織る。

「駆がスムーズにっているな」

「ああ、関節の部分を新パーツに取り替えた。前よりもき易くて壊れ難い筈だ」

「素晴らしい！」

パァン！　一々ノリ良くハイタッチをして、霊幻とマイケルは研究部屋から出て行く。

來客用オフィスから外に繋がるドアまでマイケルは付いて來た。

「吾輩はこれで帰る。調整が終わり次第、即座に帰って來いと京香に〝眼で〟命令された」

「おお、そりゃしょうがない。んじゃ、またできればすぐに來いよ。今度はエレクトロキネシスの測定をさせてくれ」

「了解！」

霊幻はヒラヒラと手を振るマイケルに見送られながら研究室から出て行った。

「さて、では帰るか」

眼を見て命令されたのだ。霊幻のには強制力が働き、速やかに京香が居る病室を目指す。

「おかえり」

「ただいまだ」

京香は出て行った時と変わらずベッドでタブレットを見ていた。

「吾輩が言うのもなんだが、安靜にしていたほうが良いのでは無いか？　治りが遅くなるぞ？」

「こんな傷、いつでも退院できるのよ。菫の診斷さえ無ければね。菫にまた小言を言われたわ『京香、溫が低過ぎます。舐めてんですか？　心拍數を増やしなさい』って。無理じゃない？　アタシ的に」

持ち主がそう言うのであれば、霊幻に言う事は無い。

では、本題を話すとするか、と霊幻はベッド橫に椅子に座りながら口を開いた。

「京香、マイケルがおかしくなっているぞ？」

「……アンタの視覚と聴覚データを寄越しな」