「まあ、良いでしょう。退院を許可します」

「よっしゃ」

病室にて京香のを一しきりペタペタとった後、菫が片眉を上げてそう言った。

菫の見立て通り、完治には三日掛かった。

「これで退屈な院生活とはおさらばね」

菫は一房だけ紫に染めた前髪を弄り、不満げに京香から解いた包帯を見る。

「わたくしとしては、あなたはもっと院させたいんですけどね。放っておくとすぐに怪我をするんですもの」

「仕事柄しょうがないわよ。前任者よりはマシでしょ？」

「大差ないですよ。はい、どうぞ、退院許可書。付に渡してください」

「ん。ありがとう」

クリアファイルに挾まれた菫特製の退院許可書をけ取り、京香はテキパキと患者からワイシャツとスラックス、そしてトレンチコートを著込んでいく。

「……」

「どうしたの、菫？」

ジッと自分の著替え姿を見つめていた菫に京香は訝しげに尋ねた。

「あなたのは傷だらけですね」

「そう？　目立った傷は無い筈だけど？」

「當たり前です。目に見える傷はわたくしが治していますから。戦い方をそろそろ変えた方が良いですよ。わざわざ傷を負う戦い方を選ぶなんて愚の骨頂です。キョンシー使いらしく戦うのはキョンシーに任せて、後方でサポートでもしてなさい」

「第四課や第五課みたいに？　そういう戦い方あんまり好きじゃないのよね。アタシが知ってるキョンシー使いとは全然違うんだもの」

京香は眉を潛め、その発言に菫は溜息を吐いた。

「はぁ、京香、キョンシーは人間の為に作られた技なんですよ？」

「知ってるわよ」

「ええ、あなたは知っているでしょうね。ただ、分かっていません。キョンシーの修理は簡単です。わたくしはできませんが、キョンシー技師の適切な技があれば、腕が飛ぼうが、が千切れようが、元のに戻れます。ただ、人間はそうじゃないんです」

「はいはい」

この菫の小言を京香は何度も聞いた。菫はキョンシー犯罪対策局第六課の事を常日頃から苦々しく思っているようであった。

「はぁ、第六課がさっさと潰れれば良いのに」

「いや、そうったらアタシの職が無くなるから、明日からおまんま食べられなくなっちゃう」

「大丈夫ですよ。あなたならどこかで働けるでしょう。最悪、第四課と第五課に拾ってもらえるんじゃないですか？」

「無理無理。あいつらとは戦い方で反りが合わない」

何を言っても意味が無いと菫も分かっている筈なのだが、しつこいほどに菫は京香へ小言を言うのだった。

菫と話しているに、京香は著替え終わり、ベッド脇に置いていたシャルロットを持って病室を出ようとする。

「願わくば、もうあなたがこのクリニックに來ない事を」

「殘念、多分、近いにまた來るわ」

そう京香は斷言し、「ありがとね」と最後に付け加えて病室を出た。

病室の外では霊幻が待機していた。菫は診察中、霊幻を外に出す様に京香へ指示したのだ。

「おお、京香、退院可能か？」

「ただいま、うん、大丈夫だって」

退院するこの日、京香はヤマダとセバスへ召集をかけていた。ヤマダ達は既に第六課のオフィスで待っている筈だ。

ヴァイオレットクリニックの付のナースへ退院許可証を慣れた調子で渡し、外に出ながら京香はスマートフォンを見る。

ヤマダから［いつ來ます？　暇です。早く來てください］と催促のメッセージが屆いていた。

――どうせ、セバスさんと紅茶飲んでるくせに。

飽きるほど見たメイドと執事に景が目に浮かび、京香はフッと笑う。

「あんまり待たせるのも悪いし、さっさと行くわよ」

「了解」

久しぶりに外で浴びる日は気持ち良く、京香は「んー！」とびをした。

「あ、でも、途中でコンビニ寄らせて。スイーツ買いたい」

「何のだ？」

「たくさん、ジャンルは問わない」

これから京香には大きな一仕事がある。

気合をれるのならやはりスイーツだろう。