《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》② 蝶の羽ばたき

***

霊幻は京香の左隣で研究棟を見つめていた。研究棟は糸の力場で出來た大翼に包まれている。

「おっと」

バチバチバチ! 矢の如き速さで向かってくる糸の力場へ、霊幻は広く薄く紫電を放つ。

イトの力場は紫電と當たった瞬間に膨らんで弾け千切れた。未知だったPSIのパラメータは解明され、こうして霊幻にも視覚できる様にったのだ。

先程から霊幻は自分と京香へ飛んでくる糸の力場を自の紫電で阻んでいた。

エレクトロキネシス同士は干渉し易い。霊幻の様に出力だけで事足りるPSIならばそれでも問題無いが、テレパシーの様な超が必要なPSIでは無効化されてしまう。

バチ! ビリ! バチ!

糸の力場を相殺し続けている霊幻の橫で、京香が関口と通信する。

『思った通り、お前が連れて來たのは霊幻だけかよ』

「まあね、そっちは五も連れて來たのね」

研究棟から東と北にそれぞれ三十メートル程度の位置で京香と関口は突の確認をする。

『突のタイミングは?』

「関口に任せるわ。ああ、でも多分、アタシ達が先に行った方が良いわよね? 役割的に」

『そだな。んじゃ、二十秒後に突撃してくれ。俺達はその五秒後に行く』

「了解」

ピッ。シャルロットの通信を切り、京香は右手にトレーシーを構えた。

「霊幻、通信のとおりよ。二十秒後にまずあんたが突撃。一階で上手いこと暴れまわりなさい。アタシは後ろから追いかけて行くから」

「了解。撲滅してくれよう」

「うちのキョンシーだからできれば壊さないでね」

「難しい注文だ。コチョウならば壊れないかもしれんが、他のキョンシーが吾輩とまともにぶつかって壊れないとも思えん」

ハッハッハ! 相棒の無理な注文に霊幻は大仰に笑いながら肩を竦めた。

考慮する気は更々無い。すべからくキョンシーは撲滅の対象なのだ。

相手が自分と同じ組織に所屬していたからと言って例外ではない。

偶々撲滅する機會が無かっただけだ。

「さて、では行って來るぞ」

「ええ、すぐに追い著くわ」

バチバチバチバチバチバチバチバチ! 紫電を纏って霊幻は研究棟一階へと突撃した!

ウネウネウネウネ! ウネウネウネウネ! ウネウネウネウネ! ウネウネウネウネ! ウネウネウネウネ!

侵攻を察知したのか、無數の糸の力場が霊幻へとびてくる。

しかし、そのいずれもが霊幻の紫電と相殺し、霧散した。

「ハッハッハァ!」

高笑いを上げながら霊幻は研究棟に迫る。

研究棟には南門しかなく、霊幻は東側の壁へと突撃する。

「高鳴れ吾輩の心臓よ!」

びを上げて霊幻は右手を握り締めた。

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!

拳は強烈な発を見せ、急速に紫電のエネルギーを充電した!

霊幻のPSIの特徴は充電(チャージ)と放電(リリース)。

質にしばらく紫電を纏わせてスポットとするのもこの技能に依るだ。

溜めた分だけ威力が上がる。単純にして強力な能力が霊幻のエレクトロキネシスだった。

「ハーハッハッハッハッハ!」

虛空の心臓が激しく高鳴る! 拳のが閃弾の強さを越える!

「放てぇ!」

の勢いのそのままに霊幻は発した拳を壁面へと衝突させる!

瞬間、拳に溜められていた紫電のエネルギーが一挙に解放された!

バッチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィイン!

それは正に橫に落ちる落雷だった。

空気の絶縁が破壊され、周囲へとれ出した稲妻が落ちる。

ゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロゴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

熱膨張した空気は衝撃波となって周囲へ稲の音を鳴り響かせた。

研究棟の東壁はバラバラと崩れ落ち、トラックがれる程の大が開く。

霊幻の前方には數の見慣れた同僚(キョンシー)達が居た。

「さあ、撲滅の時間だ!」

きっと、霊幻は歓喜していた。

キョンシー達の蘇生符が発し、PSI力場が時空を歪める!

戦闘の始まりだ。

一階にでは、テレキネシスト四が地上に、そしてコチョウが天井近くに浮いていた。

「第四課お得意のフォーメーションではないか!」

ハハハハハハ! 霊幻は笑い聲を上げる。

「……」

コチョウはヒラヒラと長い服の裾を蝶の羽の様にはためかせながら、霊幻を見下ろしていた。

「コチョウ! お前ほどのエアロキネシストが何故敵の手に落ちている!? さっさと自分の意思を取り戻さんか!」

ハハハハハハハハハ! コチョウは無口であったが、自律型のキョンシーだ。

テレパシシストの洗脳は意思を奪うでは無く、認識や考え方を捻じ曲げるなのだろう。

霊幻には分かっていた。今のコチョウの眼には意志が宿っている。

「……」

ハタハタ! コチョウが振袖の様に長い裾を両腕で羽ばたかせ、瞬間、強烈な二対の竜巻がその両脇に生まれた。

「ハッハッハ! やる気か!? やる気なのか!? 素晴らしい!」

コチョウのエアロキネシスの特徴は気分子の運量増加とその制である。

近くに生まれた気きを強化し、制するのがコチョウのPSIだった。

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

コチョウの両脇に生まれた二対の竜巻から強烈な音が鳴り、霊幻のへと風圧が掛かる。

背後の紫マントが右に左に前に後ろにと無茶苦茶にいているのが、霊幻には良く分かった。

風圧は凄まじく、霊幻の両腕両足の駆を阻害する。致命的な阻害では無いとは言え、霊幻の能力を二十パーセント程度下げる程度の風流が研究棟一階を吹き荒んだ!

キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!

直後、地上テレキネシストの蘇生符が輝き、それらの周りのPSI力場の球が生まれた。

テレキネシス! 純然たる力の塊にして、PSIの始祖がバスケットボール大の球って霊幻へと放たれた!

この力球の中は出鱈目な方向を向いた力の塊だ。まともに喰らえばが捩じ切れてしまう。

コチョウのエアロキネシスによって対象のきを制限し、テレキネシストで捩じり切る。

第四課の必勝パターン。

「ハハハハハハハ!」

霊幻の蘇生符が輝き、前方へと、自へと向かってくる力球へ紫電を放つ。

霊幻のエレクトロキネシスはこのテレキネシスよりも質は上。

だが、テレキネシスはその干渉においてあらゆるPSIの上位にある。

霊幻の紫電を浴びたにも関わらず、力球の速度は変わらず真っ直ぐに向かってくる!

ビリビリビリビリビリ! 故に霊幻は地面へ、足元から床へと紫電を放った。

瞬時に床の一部は霊幻のスポットとなり、同時に霊幻は地面と同符號の電荷の紫電を纏った。

クーロン斥力が霊幻のを上方向へ弾き飛ばす!

霊幻のは一秒と経たずコチョウと同じ高さまで飛び上がった。

足元を力球が通過し、それを見ることすら霊幻はしない。

霊幻の視線は前方三メートルのコチョウ。左手への紫電のチャージはもう終わっている。

「……」

コチョウはヒラヒラハタハタ。軽やかに両裾を羽ばたかせて二対の竜巻を霊幻へと放った。

霊幻が紫電を解放したのはそれとほぼ同時だった。

「くらえ!」

バリバリバリバリバリバリ! 紫電はジグザグにコチョウへと向かい、二つの竜巻と激突した。

そして、中心がほぼ真空と化した竜巻に紫電は絡め取られ、威力を増して霊幻を襲う!

「ハハハハハ! 流石だなコチョウ! 撲滅のし甲斐がある!」

即座に霊幻は天井と壁面へ紫電を放ち、クーロン引力と斥力で部屋の中を飛び回った。

雷を絡め取った紫電の旋風が意思を持った鞭とって霊幻を狙う。

その間にも地上からもテレキネシスト達の力球が連続的に放たれた。

「ハハハハハハハ! こう言う時電気は無力だな!」

電流では空気分子や力球の運を直接止められない。

に當てれば必殺。だが、運量へのアプローチはエレクトロキネシスの不得手な分野だ。

洗脳されているにも関わらず、コチョウ達の脳には霊幻の戦闘データが殘っている様だ。

中遠距離を保ち、連続的な攻撃で近中距離に近付かせない。的確な霊幻の攻略法だ。

懐にれてある鉄片をスポットとして投げる事もコチョウの竜巻が邪魔していた。

「霊幻!」

「京香! 地上のキョンシーを撲滅しろ!」

霊幻の相棒がトレーシーを右手に盾の形にしたシャルロットを左手に參戦した!

ゴウ! ゴウ! ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!

竜巻の音の隙間にパシュ! パシュ! ビリビリビリビリ! トレーシーの音が聞こえる。

直後、

ハタハタハタハタ! 更に一つコチョウが竜巻を生んだ!

狙いは京香。竜巻に巻き取られたら人間では一たまりも無い。

「ちっ!」

「どうにかしろ京香!」

「分かってるわよ!」

部屋の中を飛び回り、竜巻を避けながら、何とかして霊幻はコチョウの隙を探す。

京香へ割く戦闘のリソースは無く、そもそもその気が霊幻には無い。

クーロン力を使って飛び回るのは脳の演算能力をフル稼働する必要があるのだ。

飛び回る。飛び回る。飛び回る! 稲妻と化した霊幻がコチョウの周囲を巡回する!

速さは充分。だが、近付けない。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!

一瞬。一瞬でも隙が生まれればコチョウを程に収められると言うのに、適切なタイミングで消えて、そして生まれる旋風が霊幻の進路の邪魔をしていた。

更に加えて、

クネクネクネクネ! ウネウネウネウネ! クネクネクネクネ!

ウネウネウネウネ! クネクネクネクネ! ウネウネウネウネ!

無數の糸の力場が霊幻の天井より生え、霊幻を狙ってくる!

糸の出現場所は的確であり、一手でも対応を間違えれば霊幻の頭へとこれらは屆くだろう。

あまりに正確なコチョウの竜巻と糸の力場のき。演算能力だけでは説明が付かない。

霊幻は自分の思考がバレていると理解した。この研究棟の何処かに居るテレパシストは霊幻の思考を読み取って、それをコチョウと共有しているのだ。

「ハハハハハハハ! 嘆に値する! 京香、吾輩達の思考は筒抜けだ! 紫電を纏うか!?」

笑いながら霊幻が下方の京香へ問い掛ける。霊幻は全へ三分程度ならば紫電を連続的に纏わせる事ができる。これを使えば思考が読み取られる事は無いだろう。

下方からの返答は、否。

「まだ駄目! こんな所で使ったら勿無いわ!」

どうやら、京香はまだ生きている様だ。

喜ばしい。実に喜ばしい。やはり、自分の相棒は傑だと霊幻は改めて思い知る。

「ならば、吾輩達だけでは倒しようが無いな!」

霊幻は即座に判斷する。唯一の撲滅手段を止められては、霊幻に出來るのは現狀維持だけだ。

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