《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》⑤ 落とし前
コチョウのはできる限りの抜きがされている。服の下で見えなくなっていたが、から下は針金の様なほとんど骨組みのパーツだけだ。
今、関口の二弾でコチョウの下半は千切れ飛び、腕も壊れていた。
これでは羽ばたく事などできはしない。
「……ちっ」
京香は舌打ちした。コチョウのすぐ近くと一階の北側の大の近くに、エレクトロキネシストの殘骸を見つけたからだ。
関口の隣に居る、殘った二號もの全面が焦げ、皮の下の片が出している。
更に眼を凝らすと、関口のすぐ近くでは、原型を何も留めていないテレキネシストの塊が壁にり付いていた。
クネクネクネクネ!
バチ、バチ。
関口にびていく糸の力場に対して放たれる電流も弱々しい。あのキョンシーはすぐに壊れるだろう。
――正しい使い方ね。
吐き気がするくらいちゃんとした、キョンシーの使い方に京香は目を細めた。
「霊幻、周囲を警戒していて。糸は撃ち落としなさい」
「了解」
軽く命令を殘して京香は関口へ近付いていく。
関口はチラッと京香へ目を向けただけで、コチョウへと視線を戻した。
「コチョウはまだ直せそう?」
「頭は無事だ。最悪パーツを全部作り直せば行けるだろ」
「そ。一応聞いとくけど他のエレクトロキネシストは?」
「二號(こいつ)以外は壊れた。コチョウのエアロキネシスに勝つのには出し惜しみできなかったからな。全壊か半壊か、五分五分の賭けだったけどよ、とりあえず俺としては勝てたっぽいぜ」
言いながら関口は部品が消えて軽くなったコチョウを左腕で抱える。
コチョウの腕がぷらーんと揺れた。力を込める気配は無い。
「ま、とりあえず水瀬さん所に戻ろうぜ。一階は制圧できたってな」
関口は何て事の無い様に言って京香へと振り返り、研究棟の一階から出て行こうとする。
「まあ、待ちなさいよ」
その顔に向かって京香はトレーシーを向けた。
「……何のつもりだ?」
サングラスの奧で関口がどの様な眼を向けているか京香には分からない。
京香は數秒だけ関口に抱えられたコチョウを見る。
「……」
コチョウは何かを言う事も無く京香へ眼を向け、時折その腕がこうとする仕草を見せた。
「関口、何でキョンシーを自させたの?」
「コチョウのエアロキネシスに勝つ為だって言っただろ。生半可な量じゃ発を利用されて終わりだ。霊幻への対応にリソースを割いたタイミングで出來る限り近距離での大発。それが一番早かったからだ」
「へぇ、なるほど。代わりにあんたが連れて來たエレクトロキネシストは全員お釈迦にったわよ。見なよ、あんたの隣のその子の姿。肺も蔵も首も脊髄も全部無茶苦茶。もう直せないでしょうね」
京香の言葉に、全壊したエレクトロキネシストへ関口は眼を向ける事すらしなかった。
それどころか、やれやれと呆れた様に息を吐く。
「コチョウとこいつらでは価値が違えよ。コチョウのエアロキネシスが帰って來るなら汎用エレクトロキネシストなんて百壊しても釣りが出る。それくらいお前でも分かってる筈だよな?」
「良いわよ。値段って意味で言うのなら、あんたの意見は正しいわ。何処までも正しくて涙が出そうよ。オーケー、納得してあげるわ。エレクトロキネシスト五、テレキネシスト三を壊した事に正當も拠もあるって頷いてあげる」
「おお、お前にしては分りが良いじゃねえか」
関口はわざとらしく笑った。京香もそれに釣られてわざと笑い聲を出す。
ハハハハハハハハハ。
アハハハハハハハハ。
京香はトレーシーへの引き金へ人差し指と中指を掛けた。サングラスの奧で、関口が眼を細めたのが京香には分かった。
笑い聲がピタリと収まり、ピリッとした張が周囲を走る。
「……おい、やる気か?」
「それも一興ね。アタシのに収まりが付かないもの」
京香は引き金へ込める力を強くしていく。
「あんたがあんたのキョンシーを壊すのは納得してあげる。業腹だけれどね」
京香は引き金を引いても良いと思っていた。
関口の顔からは笑みが消え、京香のには笑みが殘っていた。
「でも、霊幻を傷つけた事は許さない。あいつはアタシのキョンシーよ。アタシの指示以外であいつのに傷を付けた事。アタシは許さないわ」
「……」
関口は右手をスーツの懐へとれた。
カチッ。後一押しでトレーシーの弾丸が出される所まで、京香は引き金を引いた。
「さあ、関口、答えなさいな。あんたはどうやってアタシに償うの?」
「……………………霊幻の修理に掛かる費用は第四課がけ持ってやる。お前に対してなら、正式に謝罪もしよう。むなら腕の一本を折ってやる」
関口の聲に澱みは無く、本気でそう言っている事が京香には分かった。
故に京香はトレーシーの銃口を下げ、引き金から指を外す。
「……良いわ。今の言葉を信じる。それでこの場は引いてあげる」
「おう」
*
「一階を制圧できたか?」
「ああ、今代でった奴らがヘマしてなければだけどな」
研究棟の南側で、京香と関口達は水瀬へ一階での顛末を報告していた。
シャルロットでグループトーク畫面は開かれており、研究棟西側で待機中の長谷川にも言葉は屆いている。
京香の後方では霊幻が第三課から応急修理をけていた。代わりの左腕は無いが、出した電線やワイヤーなどを補材で埋める作業が主だった。
コチョウは既に第四課の部隊が回収していて、集中修理へと運ばれている。
「で、だ、水瀬さん。これからどうする? コチョウの修理を考えると今日明日中には研究棟、つーか俺達のキョンシー技師を取り返したいんだが」
「焦るな。一階を確保できたのは大きい。エレクトロキネシストをかわるがわる投しなければらない事は面倒だがな。まあ、お前が大の備品を弾で吹き飛ばしてしまったが」
水瀬がじろりと関口を睨むが、関口は何処吹く風で口笛を吹いた。
「研究棟に殘ってるキョンシーは第四課のエアロキネシストが二、第五課のパイロキネシストが五、他は共同利用のエレクトロキネシストが二、そしてテレキネシストが五ね。パイロキネシストが厄介だわ」
京香は頭の中で未だられているであろう対策局のキョンシー達の姿を思い浮かべる。
屋戦のそれも攻め込む立場に立った時、相手にパイロキネシストが居るのは面倒な狀況だ。無酸素でもく事の出來るキョンシー相手に、火の海の中で人間が戦える筈が無い。
「火でも放たれたら研究員達が死んじまうしな」
『耐火設備はされている筈ですけど、確実では無いでしょう。幸い放出型のキョンシーしかあそこに居るという報はありません。設置型パイロキネシストの野良キョンシーを除けばですけどね』
長谷川が言葉に京香達は全員考え込んだ。
さて、どう攻めれば最も被害が出ずにこの事態を沈靜化できるだろうか?
「どちらにせよ、二階より上に居る研究員達が何処に集められているのか。まだ生きているのか。その報が必要だ。関口、長谷川、清金、案は無いか?」
キョンシー犯罪対策局の研究棟は二階以上が研究員達の居る仕事スペースである。二階と三階を一課から三課までが、四、五、六を一階ずつ四課から六課までが保有している。
「俺の弾で一階の天井がし砕けたけどよ、そこから人間の聲とかは聞こえなかったぜ」
各フロアそれぞれ防弾防塵防炎防風とあらゆる処置が為されており、先程の関口の弾をけたとしても天井の一部だけが崩落するに留まっていた。
「そうね。アタシも確認したわ。眠らされてるのか、もう死んでるのか、三階以上に居るのか、さあ、どれかしら?」
『最悪の想像は後にしときましょう。まずはどうやって研究員達の狀況を知るかです』
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