《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》④ 炎の夢
***
ホムラは夢を見ていた。
だまりの部屋の中で、ココミと二人きり。
膝に乗せたココミの頭をでながら、他の無いお喋りをしながら過ごす夢だ。
してる。
してる。
してる。
してる。
してる。
ホムラの言葉は要約してしまえばこの言葉だけに纏まってしまったけれど、ココミは黙ってこの言葉をけれてくれた。
彼達の居た場所は真っ白でもやもやとした空間だ。
――あの部屋。
背景も何もかもがぼやけているのに、ホムラは自分達が居る場所が、ココミと共に居たあの地下室であると認識していた。
ココミの姿全てが鮮烈に眼に映っている。
してる。
してる。
してる。
してる。
してる。
――起きなきゃ。
急にホムラはそう思った。強迫観念の様に強烈な言葉として起床という命令が頭に浮かび、ココミをでる手が止まった。
ココミの瞼が開き、蘇生符の奧のボウッとした可らしい瞳にホムラの顔が映る。
(どうしたの?)
ホムラの頭の中にココミの聲が響いた。
「え、ええ、何でも無いわ。ちょっと考え事をしていて」
(考え事?)
「何故かしらね、起きなきゃって思ったの。理由は分からないんだけどね」
ココミはテレパシーで、ホムラは聲で。姉妹のお喋りはいつもこうだった。
ホムラの頭にはココミの事しか無かった。
髪の。
のらかさ。
黒曜石よりもしい瞳。
それら全てがホムラにとってずっと特別だった。
ああ、何ておしいのだろう。
おしさは止め処無く、ホムラのからゆらゆらと逆巻いて、全へと燃え移る。
痛い程のだった。このがココミへテレパシスト故に一切の過不足無く伝わっているのだ。
(私は嬉しいよ)
「ありがとう、ありがとう、ありがとうね、ココミ。わたしもそうよ。あなたにわたしの想いがこんなにもちゃんと伝わっているって思うと、それだけでが燃えてしまいそうだわ」
ココミはそう思ってくれている。それは噓ではなく真実だ。
ホムラはココミからの思いを疑わない。しい妹からの言葉は全て正面からけ取る。
それはホムラの機能であり、思考回路であった。
「ねえ、ココミ。何かしたい事はある? オネエチャンに何でも言って。したい事を何でもしましょう。一緒にんな事をしましょう。今まで一杯我慢してきたんですもの。それくらい許される筈だわ。あ、そうだ、花畑を見に行くのはどう? とても綺麗らしいわよ。見た事無いけれど」
(おねえちゃんと一緒なら、何でも良い)
「可い事を言ってくれるわね。わたしもそうよ。ココミと一緒に居られるのなら、他に何もまないわ。でもね、それでもね、ココミ、折角居るのだから々なを見て聞いて験する事は良い事だと思うのよ。想像してみて。満開の花畑、きっと赤や黃や紫や、とりどりの花があるのでしょうね。花畑の中でわたし達は寢転ぶの。フワッて花が舞って、青空が見えるわ。花冠を作ってあげる。わたし作るのは得意な気がするの。ね? 素晴らしいと思わない?」
(うん)
「でしょ? 二人きりで二人だけでんなところに行きましょう。海に行って、山に行って、川に行って、窟に行って、何処へだって行けるんだから」
ホムラはココミの頭をでながら、幸せな未來地図を広げる。
――起きなきゃ。
「……?」
まただ。また、ホムラの脳裏で聲が聞こえた。
なる聲は先程よりも大きい。
ホムラは頭を振って、聲を掻き消した。
今、ココミと話しているのだ。それ以上に大事な事があるだろうか。
そもそも、起きるとは何だ? 今、自分達は起きているではないか。
ホムラは自分が夢を見ている事実に気付いていなかった。
夢の中でホムラはしいココミと會話する。
してる。
してる。
してる。
してる。
してる。
言葉のやり取りは風船を投げ合っている様にらかで、気付いたらホムラはこんな事を喋っていた。
「ねえ、ココミ、わたし達はここから始まったのよね」
(うん)
ココミとの始まりをホムラはは(・)っ(・)き(・)り(・)と(・)思い出す事が出來る。
「あなたと出會えた時、わたしはこの世界に居る意味を見つけたの。あなたを守って、あなたと一緒に、どこまでもいつまでも一緒に居る為に、わたしは居るんだって思えたのよ」
(知ってる)
知ってる。そう知っているのだ。ココミはホムラとの出會いを覚えているだろうし、ホムラがココミへそう思った事も伝わっているのだ。
故に、わざわざ口に出す必要は無い。
けれど、言葉にする意味はあるのだと、ホムラは信じていた。
自分がどれだけココミをしているのかが、テレパシーで十全に伝わっているとしても、それはココミのPSIの力だ。
を伝えるのだ、自分の力で。それが拙いで、間違ってしまうとしても、自分に持てる全てを賭けて心をくべて、を焦がし、想いを燃やすのだ。
そうでなければ、ではない。
ホムラはに殉ずるキョンシーだった。
――起きなきゃ!
「ッ」
び聲が脳を揺らした。ズキッとした痛みが走り、視界の半分がノイズで埋まる。
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
視界が揺れて、ココミの顔の半分が白黒の砂嵐で隠された。
(おねえちゃん?)
「大丈夫、大丈夫よ、心配しないで。わたしはあなたの側から離れないから」
頭を振り、強めの瞬きを數度シバシバシバシバ。
視界に塗れる砂嵐は消え、元のクリアな世界に戻った。
「あなたと出會ってからわたしの世界は明るいの。んな事をしたわね」
(おねえちゃんと飲んだジュース味しかった)
「そうね、味しかったわね、あのオレンジジュース。ここで飲まされていた神水とは比べにらないわ。また、買いに行きましょう。あの自販機なら売っているかしら?」
(うん)
ホムラの脳裏に何度も訪れた飲料の自販売機の姿が浮かんだ。
味覚がキョンシーには無い。けれど、ホムラは確かにあのジュースを味しいとじたのだ。
「ええ、他にも味しいがあるらしいわ。食べたり飲んだりしてみましょうよ。折角わたし達は外(・)に出たんだから」
この言葉が火花だった。
言葉の火花が記憶の導火線に火を付ける。
自販機、サファイアのベッド、シカバネ町、逃亡。
記憶の連がホムラの中で起きた。
焼けて溶け落ちた、蟲食いだらけの記憶の花火がホムラの中で開いていく。
――起きなきゃ!
「……ああ、そう。これは夢なのね」
ホムラは自分が炎の夢の中に居ると分かった。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
白い部屋が炎に包まれた。
景はホムラとココミの逃亡の始まりの景だ。
(おねえちゃん?)
「ココミ」
妹の頭をでる。
も溫もりもしさも、何もかもがホムラの記憶のままだ。
――起きなきゃ!
聲が響く。ノイズが生まれる。
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
ジジジジジジジジジジジジジジ! ジジジジジジジジジジジジジジ!
「ああ、そう、そうなのね」
このびは自分のだったのだ。
理由は分からない。
何があったのかを思い出せない。
けれど、自分がぶのはココミの為以外にありえない。
「ココミ、おねえちゃん、行ってくるわね」
(だめ、だよ)
ギュッとココミの小さな手がホムラの手を摑む。
行かないで。
此処に居て。
そんな事をココミは思ったのだろう。
――起きなきゃ!
「あなたは、わたしを守ろうとしてくれたのね」
ホムラは認識した。
頭に走る痛みは防衛反応だ。
起き上がるな。
目覚めるな。
このままで居ろ。
今ここで起きてしまえば、炎はホムラの何か決定的な部分を燃やし盡くしてしまうだろう。
ホムラは迷わなかった。
「大丈夫。おねえちゃんは、最強なのよ?」
ホムラの蘇生符が強く赤く輝く。
明るさは今までで一番強く、脳の痛みが炎の様に駆け巡る。
(いっちゃうの?)
どうすればこの夢から醒める事ができるのか、何故だかホムラは分かっていた。
「ええ、わたしがココミの側に居たいのよ。ごめんね?」
謝罪は本心だ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
獄炎がホムラの世界を包む。
ココミ以外の全てに炎が生まれた。ホムラ自も例外では無い。
ホムラは炎に焼かれる痛みと共に甘い夢の中で眼を閉じた。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜
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