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京香はキョンシー犯罪対策局の研究棟に到達した。彼が通り過ぎた経路には様々な重機の殘骸が広がっている。鉄の塊程度が相手ならば彼の障害でも何でもない。

ズキ！　軽い頭痛がしたが、京香には慣れただった。

「水瀬克則ヨリ電。『清金京香二級捜査、至急戻って來い』、返事シマスカ？」

「無視しといて」

「ショウチ」

水瀬は今頃やれやれと首を振っているだろう。京香が水瀬の命令を聞かなかったのは一度や二度ではない。きっと水瀬ならば、自分の暴走に対応して上手いこと指示を他の連中に出す筈だと、京香は勝手に期待する。

研究棟の外周で京香は聲を張り上げた。

「霊幻！　こっちに來なさい！」

京香が研究棟に到達する僅かな時間の間に霊幻の姿が見えなくなっていた。先ほどのの怪我の合からいって、室に戻っては居ないだろう。オーバーヒート寸前まで酷使していたのが京香には分かった。

「おお！　京香、來たのか！」

ダダダッ！　霊幻が研究棟の外壁を文字通り走り降りた。どうやら壁面にへばり付いていた様だ。

「ボロボロね」

「そうだな！　ここまでやられたのは一年と二ヶ月ぶりだ」

京香はペタペタと霊幻のをる。

右のアキレス腱が斷絶。左半の筋繊維が半分ほど融解。各種間接部の損傷。

「霊幻、口開けて」

「あー」

にも融解の形跡がある。これは気管支の総取替えが必要だろう。

「何でこんな無茶したの？　ただのＰＳＩキョンシー相手じゃなかったわけ？」

「ご明察だ、我が相棒。吾輩の言葉を聞いて驚け。あのテレパシストは複數のＰＳＩを同時に使ったのだ」

「はぁ？」

「見た方が早いか。京香、吾輩の右眼とシャルロットを繋げ」

「分かった」

京香は霊幻の右眼へと手をばし、カポっと右眼を取り外した。

「シャルロット、映像を解析して」

「ショウチ」

そしてシャルロットたるトランクケースを開き、その中へ霊幻の右眼をれ、解析を命じる。

ほどなくして解析は終了し、シャルロットの中の晶部分に映像が表示される。

京香は早送りでその映像を見た。

「……マジか」

「マジだ。すごいだろう？　テレパシーを使った脳の直列化。ＰＳＩ研究の終著點がここにはあるぞ。まあ、あのキョンシーも無理をしたようだ。糸の力場が無くなっている」

京香は後頭部を掻いた。今まで様々なＰＳＩキョンシーを相手取ってきた京香であったが、複數のＰＳＩを同時に、しかも合できるキョンシーを見たのは初めての事だった。

「どう見る京香？　吾輩は熱を取ったらもう一度突撃するつもりだが」

「勝算は？」

「お前が來た事で五割を超えた」

「採用。アタシも行くわ。放熱に掛かる時間は？」

「一分だ」

「了解。ちょっと建の中にりましょ。他の課のやつらがどうしているのか気になるし」

カポッ、トテトテトテ。霊幻の右目を嵌め直し、京香は突時霊幻が開けた大まで歩き、部を見る。

研究棟の中央では第四課、第五課の連中がキョンシーに囲まれて固まっていた。

「あ、清金さん、こっちですこっちです！」

その中の一人、第四課の網(あみ)口(ぐち)　悠(ゆう)太(た)が京香の存在に気付いて手をぶんぶんと振った。

「網口、狀況は？」

「今の所、何とかっています。ただ、見てのとおり重機の群れがある所為で離もできません。エレクトロキネシストの補給もできないので、このままじゃジリ貧です」

「殘っているエレクトロキネシスとの數は？」

「萬全なのが五、脳が半壊したのが三です」

周囲には顔面中のありとあらゆるからを垂れ流してキョンシー二が倒れている。完全に壊れたのだろう。

「出來る限り壊れる數は減らしなさい」

「分かっています。貴重なＰＳＩ持ちですからね」

網口の聲はいつもどおり真面目だった。

「よろしくね。アタシ達は今から上に突撃するから。後し持ち堪えなさい」

京香の言葉に網口がギョっと眼を開いた。

「もしかして清金さんも戦う気ですか？　まさか全力で？」

「ええ、必要ならね」

＊

「京香、放熱が終わった。行くぞ」

「はいはい」

背後からの霊幻の言葉に京香はクルリと振り向いて研究棟から出て行く。

「折角だからアンタの開けた大から行くわよ。霊幻、アタシを抱えなさい」

「了解だ」

京香はシャルロットを持った左腕を霊幻の首に絡ませ、霊幻の大きな右腕が彼の全を支えた。放熱が済んだばかりの霊幻のはサウナの様に熱く、焼けた合皮の匂いがした。

「京香ちゃんと捕まれ、落ちても知らんぞ」

「誰に言ってんのよ」

ギュウ。左腕に力を込めて霊幻へを著させる。右手はトレーシーを握っていて、いつでも引き金を引けるようにしていた。

「アタシを電させないでね」

「誰に言っている？」

バチバチバチバチ。霊幻の足だけが紫電に染まる。

「良し。じゃあ行きなさい霊幻。終わらせるわよ」

「おうとも」

ダァン！　霊幻の左足が大地を蹴り、京香のに強烈な慣が働く。

ダ、ダダ、ダ、ダダ！　霊幻は左足をメインに使って研究棟を駆け上がり、自が開けた四階の大へと突撃する。

京香のにも振がガンガン屆くが、霊幻に抱えられて移するのは慣れていた。

ダン！　荒い音を立てて京香と霊幻は４０４號室へ到著する。

「降ろして」

「了解」

霊幻から降りて京香はトレーシーを構える。

４０４號室には誰も居なかった。霊幻の紫電を浴びたであろうキョンシーが二倒れているだけだ。

「最悪の場合、すぐに戦闘にるって思ってたわ」

「吾輩としてそちらの方が楽で良いのだがな」

京香は霊幻を自分の三歩先に先行させ、４０４號室を出る。

廊下にも誰の姿も無かった。それどころか、霊幻の視覚報にあった蜘蛛の巣や雪花を思わせるテレパシーの網すらも消えていた。

「……どうしたのかしら？　壊れた？」

「可能としては充分だ。あれだけのＰＳＩの稼。壊れていても不思議ではない」

警戒を緩めずに京香達は廊下をゆっくりと進んでいく。目指すは六階、京香達第六課のキョンシー技師、マイケルの研究棟だ。

途中にあった五階の一室で京香と霊幻は捕らえられていた研究員達を発見した。どの研究員も眠らされており、規則正しく息を吐いている。

しかも、その研究員達の近くにはエアロキネシストのキョンシーが配置されており、ヒュウウウウウウウウウウウウ、と外からの空気を取り込んでいた。このキョンシーはられていたが、戦闘する気配は無い。新鮮な酸素を屆ける事だけを命令されていたようだった。

「……」

――これは……。

京香の中で一つの確信が生まれる。

このキョンシー達はもしかしたら、という僅かな期待だった。

結局、六階まで障害という障害は無かった。

「霊幻、蹴破って」

「おうとも」

ダァン！　京香は何の躊躇も無く、マイケルの研究室のドアを霊幻に蹴破らせる。

蹴破られたドアは一直線に飛び去って丁度部屋の中央で立っていたマイケルに激突した。

「グハァ！」

「あ、ごめん」

マイケルの貍腹にドアがビターン！　と景気の良い音を立てながら突撃し、マイケルの巨漢がゴロゴロと來客用オフィスに転がった。

ピクピクと貍腹のキョンシー技師が痙攣する。

「……マイケル？　大丈夫なら起きて。大丈夫じゃないなら気合で立ち上がりなさい」

「ぐおお、俺の壽命が今ので二年はまったぞ」

「その不摂生な腹を引っ込めれば五年は返ってくるわよ」

マイケルは腹と額を抑えながらも立ち上がった。

「何でわざわざ部屋の真ん中で立ってたのよ」

「お前達を待ってたんだよ」

「何で？」

「あのテレパシストのキョンシーからの言伝だ。『屋上で待っている』だってよ」

その言葉に霊幻が高らかに笑った。

「ハッハッハァ！　京香、聞いたか!?　あのキョンシー達は屋上で吾輩達と勝ち合う気らしい！　素晴らしい！　ここまで撲滅のし甲斐がある相手だったとは！」

霊幻は大仰に右腕を振った。

「おいおい、霊幻、お前ボロボロじゃねえか！　え？　何で？　何があった!?」

「聞いて驚いて興しろ！　あのテレパシストは複數のＰＳＩを同時に扱えるのだ！」

「ハァ!?　マジで!?　すげぇ！　オーマイガーだぜ！　映像は殘ってんだろうな、ええおい!?」

京香は興しているキョンシーとキョンシー技師相手に、パンパンと手を叩いた。

「はいはい、無駄口はそこまで。屋上に行けば良いのね。マイケル、あんたはテレパシストにられている筈。その報を信じて良いの？」

「おお、られてるぜ。今だってあいつらの事を修理したくて堪らない。だが、信じる必要は欠片も無いが、あいつらは罠なんてしかけてねえ。もうギリギリ。致命傷だ。修理なんて出來ないくらい壊れてる。わざわざ策を弄する余裕がねえよ」

「そう」

京香はトレーシーで右肩をポンポンと叩いた。

「それじゃあ、霊幻、行きましょうか」

「ああ、行くぞ相棒」

屋上へと続く扉はマイケルの研究室から出てすぐ脇の階段先にある。

京香はギュッとシャルロットを握った。