京香の前で霊幻が落雷する。何度も何度も見てきた後姿。防炎防刃絶縁マントが紫の殘像を殘した。

「――世界を灼けえええええええええええええええええええええええええええええええええ！」

パイロキネシストのキョンシーがびを上げる。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

びに呼応する様に屋上一が火柱で包まれた。

京香の一歩手前まで火柱は迫り、霊幻のが一瞬で見えなくなる。

「霊幻！」

「分かっている！」

京香が最後まで言う前に霊幻は落雷を続ける。多回復したからと言って霊幻が紫電を纏えるのは後一分弱。短期決戦以外の選択肢は無い。

バキィ！　火柱の中で打撃音がった。

眼を凝らすと火柱の中で、パイロキネシストのキョンシーが霊幻へと毆り掛かっている。

そのは真っ赤な炎のドレスで包まれており、霊幻の紫電を阻害していた。

「へぇ」

京香は嘆した。あのドレスは捨ての戦裝束だ。

霊幻の紫電は皮を這わせているだけだが、あの炎は違う。実際にを燃やしている。

炎はあのキョンシーのを焼き、を溶かしていく。

「ハハハハハハハハハハハハハハ！」

霊幻の笑い聲が響く。楽しそうで嬉しそうな聲だ。

クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！

クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！

その時、炎の中から複數の糸の力場が京香の頭に向かって飛んできた。

「まあ、あんたはアタシを狙うわよね」

糸の數はなく、京香でも避けられる數と速度だった。

京香は左に糸を避け、トレーシーを構える。

直後、上方より、空を飛んだエアロキネシストのキョンシーが現れ、京香に向かって力球と炎を放った。

キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン！

ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

――これが、複數のＰＳＩを使うって事か！

実際に眼にしても信じられない景だった。

「シャルロット、盾！」

「ショウチ」

シャルロットは一瞬で半明な薔薇の盾に変わり、間髪れず「広がれ！」と京香は命令する。

薔薇を模した明な盾は花開き、力球と炎を真正面からけ止めた。

力球の螺旋狀の力ベクトルが京香の左腕に伝わり、が回転しそうになる。

ビキビキと京香の左腕が軋んだ。

「いったいわね！」

パシュ、パシュ！　トレーシーの引き金を引き、電極が空中十五メートルのエアロキネシストを狙う。

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

だが、電極はエアロキネシスト前方に生まれた旋風に阻まれあらぬ方向へと飛んでいく。

――まあ、駄目よね。

コチョウほどでは無いとしても、あの距離のエアロキネシスト相手にトレーシーの電極は屆かない。

「ハハハハハハハハハハハハ！」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ！

バキィ！　バキィ！

炎柱と紫電、そして打撃音と共に霊幻とパイロキネシストが毆り合っている。

パイロキネシストは常に霊幻の左側に回りこみ、霊幻はそれをさせまいと立ち回る。

左腕が無く中の間接が壊れかかっているとは言え、良く霊幻相手に渡り合えているだと、京香は心した。

「霊幻！　助けは要る!?」

「要らんよ！　京香、お前に追加の敵だ！　何とかしておけ！」

霊幻の言葉通り、テレパシストの隣に居たエレクトロキネシストがき出す。

バチバチバチバチ！　ビュオオオオオオ！　ボオオオオオオオ！

電気に風に炎に、全てを周囲に放ちながらエレクトロキネシストが突撃してきた！

「てんこ盛りね！」

ハハ！　京香は笑った。霊幻から移った癖だ。苛烈な戦闘の時、京香も笑うのだ。

シャルロットを盾に京香は全速力で突進する。

クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！

糸の力場が容赦なく京香を狙う。

右に左に上に下に避けながら、京香とエレクトロキネシストの距離が丁度屋上の中央で零となった。

「ラァ！」

ドン！　に力を込めて激突音がる。

ミシィ！　左腕が軋む。軽く罅がったかもしれない。

京香はゴロゴロと地面に転がりながら、トレーシーの電極をテレパシストへ放った。

パシュッ！　ビュオオオオオオオオオ！

しかし、その電極はテレパシストの傍らに控えていたエレクトロキネシストより放たれた突風で阻まれ屆かない。

「ハハ！　全員複數持ちにできんのね！」

複數のＰＳＩ持ちとの戦闘は経験があるが、複數のＰＳＩを同時に使えるキョンシー達を相手にした経験は、京香はおろか世界の誰にも無いだろう。

引き金を引き直し、京香はトレーシーの電極を戻そうとする。

しかし、シュルシュルと京香の下へ戻ってくる電極を、先ほど激突したエレクトロキネシストが摑んだ。

「痺れろ！」

即座に京香はトレーシーのスイッチを押し込み、電極へと電流を流す。

ビリビリビリビリビリビリビリビリ！　白い電流がぜ、エレクトロキネシストへと伝わる。

けれど、エレクトロキネシストのきは止まらなかった。霊幻と同じ様に電流を中に纏っていたからだろう。トレーシーの電流は表皮のみを舐め、蘇生符の破壊には至らない。

ビン！　エレクトロキネシストはそのまま電極を引張り、京香は抵抗せず手を離した。

改造キョンシー相手に力比べでは勝てないからだ。

トレーシーは宙を舞い、屋上から飛び出し、落ちていく。

「それ高いのよ!?」

相棒たる武を失い、京香は悲鳴を上げる。

攻撃手段を失ったにも関わらず、京香の態度に絶する様子は無かった。キョンシー相手に生で戦うのが京香の戦闘スタイルだ。この程度など諦める理由にらない。

タタタ！　京香は屋上を駆け回る。人間にしてはかなりの足運びだ。

糸の力場。揺らぐ力球。ジグザグの炎。螺旋の風。円形の稲妻。

それら全てを京香は紙一重で避け続ける。

富な戦闘経験が可能にした神業。死地の中で戦い続けた京香にしかできない蕓當だ。

キョンシー犯罪対策局の捜査誰も真似できないし、しようとしないだろう。

京香とテレパシストの戦いは一種の小康狀態にっていた。

テレパシスト側でも決定力が無いようだ。確かに複數のキョンシーを同時にってるようだが、個々のきはお末だ。改造キョンシーの能力を十全に使われたらすぐに京香は捕まってしまうというのに、単調な突進しか出來ていない。

この中で唯一複雑な的きが出來るパイロキネシストは霊幻に抑えられている。

しかし、霊幻が紫電を纏えるのは後四十秒を切っていた。

このままの狀況が続けば京香達が負けるのは明白だった。

――しょうがないわね。

京香はスーツのポケットに手をれた。