＊＊＊

「さっさと壊れてよぉ！」

ホムラは悲痛にんだ。

霊幻と呼ばれたキョンシーの左眼へホムラは親指を突き立てる。

ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ！

――脳を燃やしてやる！

だが、霊幻のきはホムラより一手早い。

「ウラァ！」

このマントのキョンシーは自分が壊れる事など気にしていない。

狂った笑顔をり付かせながら、霊幻の右拳がホムラの脇腹へと突き刺さった。

ベキボキバキボキ！

――砕、けた！

ホムラの部から左肋骨が砕される音がする。

「ッァ！」

強烈な後方への運量が生まれ、ホムラのが宙を浮く。

を取る暇すらなくホムラは後方の転落防止用フェンスへ、ココミの隣へと激突した。

ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン！

砕けた肋骨が蔵を突き破り、口から薄赤のが吐き出される。

（おねえちゃん！）

ココミの悲鳴がホムラの脳に響く。ホムラの視界が點滅した。ショート寸前の電子機の様な砂嵐が現れる。痛みがあった訳ではない。痛覚はもう消えている。

外部からのダメージで無理矢理機能を停止させられそうにっているだけだ。

――大丈夫よ！

ホムラは眼を見開き、視界を無理矢理安定させる。

ダダダダダダダダ！　前方では霊幻がバチバチバチバチ！　と突撃を始めていた。

一度き出してしまったらホムラの炎じゃ止められない。

――しまっ

（私がやる！）

「させない」

ココミが傍らのエレクトロキネシストをホムラ達の前へとり込ませた。

霊幻の進路上に割ってったエレクトロキネシストはジグザグに落ちる力球を放った。

キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイン！

キイイイイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイいいイイイイイン！

キイいいイイイイイイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイン！

その全てを霊幻は最小限のダメージで避け、紫電を放つ。

バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ！

エレクトロキネシストの脳と蘇生符がショートした瞬間、ホムラの頭にココミの聲が響く。

（おねえちゃん！　あのキョンシーごと敵を燃やして！）

脊髄反的にホムラはパイロキネシスを発した。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉ！」

火柱の溫度はパイロキネシスを使う度上昇する。

霊幻さえ、このキョンシーさえ壊せればホムラ達は逃げ切れるのだ。

そう、ホムラは信じていた。

「霊幻！」

霊幻の後方に居た、トレンチコートを著込んだパンツスーツ姿のの聲が聞こえる。

その人間はココミがるエアロキネシストとエレクトロキネシストの攻撃を傷一つ無く捌き続けていた。

それは荒々しく、けれど流麗なダンスだった。

人間の能力だというのにキョンシーの攻撃を紙一重でかわし続ける。スタタ。足は軽快なステップを踏み、がクルクルと回転している。

明な薔薇の盾を左手に、トレンチコートの裾を翻して、キョンシー達とその人間は踴っていたのだ。

人間は懐のスーツポケットに右手をれていた。

き難い筈なのに行われる不可解なき。ホムラは首にゾクリとした悪寒が走った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！」

炎の中で霊幻が大笑いする。楽しそうで、嬉しそうで、けれど、無味乾燥な狂った笑い聲だ。

「清金京香が霊幻へ勅令する！　アタシを守れ！」

人間は、清金京香と名乗った人間は高らかな聲を上げながら懐から右手を出した。

その右手にはホムラ達にとって見慣れた札型の電子デバイス、蘇(・)生(・)符(・)が握られていた。

＊＊＊

「清金京香が霊幻へ勅令する！　アタシを守れ！」

京香はＰＳＩによる攻撃を紙一重で避けながら霊幻へ命令する。勅令。音聲命令の最上位。この言葉と共に発せられた命令は、キョンシーを強制的に従わせる。

「ハハハハハハハハハハ！」

霊幻は狂笑を上げながら京香の側まで跳んで來る。同時に京香は懐から蘇生符を取り出した。

手の平大の札型デバイス。上部にられたシールを剝がすと、そこには通電のジェルが塗りたくられていた。

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ！　ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！　キイイイイイイイいいイイイイイイイイイイイイイン！　ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

京香を囲っていた二のキョンシーからは苛烈なＰＳＩが放たれるが、それら全てに霊幻が対処する。

「ハハハハハハ！　ぬるいぬるいぬるいなぁ！」

クネクネクネクネクネクネ！　クネクネクネクネクネクネ！　クネクネクネクネクネクネ！

クネクネクネクネクネクネ！　クネクネクネクネクネクネ！　クネクネクネクネクネクネ！

バチバチバチバチバチバチバチバチ！　迫ってくる糸の力場を霊幻は紫電で撃ち落としてく。

その音を聞きながら、相棒が自分を守ってくれるという全幅の信頼を寄せて、京香は躊躇う事無く蘇生符を自の額へ叩きつけた。

ベチャ！　冷たいジェルが額へと広がり、衝撃によって瞬時に皮を巻き込んで接著する。

ジュウウウ！　額のと蘇生符の通電ジェルが化學合し、火傷に似た痛みが広がった。

「京香、お前のその姿を見られて吾輩は嬉しいぞ！」

「はいはい、アタシもよ！」

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！

「やらせるかぁ！」

テレパシストの隣にいたパイロキネシストの蘇生符が輝く。

瞬間、霊幻が京香を抱え後方へと飛んだ。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！　ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！　ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

「ちっ！」

パイロキネシストの炎は霊幻を捕まえる事が葉わない。

合が終わるまで五秒。京香の額に蘇生符が完全に接著した。

瞬間、京香の脳がカァッと熱くなる。脳の電気信號を察知した蘇生符が起を初め、蘇生符からの信號が脳の領域を無理矢理拡張していく。

「京香、後何秒だ？」

「十秒よ」

霊幻からの問いに京香は答える。

――ああ、あたまがぐちゃぐちゃ。

十秒。

通常ではありえないパターンで電気信號が脳をき回る。

仮想の脳細胞が頭蓋で生まれていく。キョンシー専用の電気信號が京香の世界を変質させる。

五秒。

かすかに京香のは痙攣した。指はあらぬ方向を向こうとし、視線の焦點はランダムで、ジェットコースターに乗っているようだった。

三秒。

京香の視界が変わっていく。

二秒。

京香の思考が変わっていく。

一秒。

そして、京香の世界が変わった。

「起完了」

蘇生符で中央が遮られた視界。

キーンとした、小さな耳鳴り響く聴覚。

鉄の匂いに敏にった嗅覚。

消失した味覚。

「霊幻、紫電は後何秒？」

「後十一秒だ」

「もう止めて良い。アタシの側から離れないでね」

バチバチバチバチ、バチバチバチ、バチバチ、バチ。

纏っていた霊幻の紫電が消失した。

クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！

クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！　クネクネクネクネ！

霊幻の紫電が無くなった瞬間、京香達を囲む様に糸の力場が迫ってくる。

けれど、どのテレパシーの糸も京香へ屆く事は無かった。全ての力場は京香の半徑一メートルほど近付いた瞬間、直(・)角(・)に(・)曲(・)が(・)り(・)あらぬ方向へ飛んでいく。

まるで見えない障壁に阻まれているかのようだった。

京香は額の蘇生符をでる。

視線を前方へ向け、京香は真っ直ぐに蘇生符の端から前方の姉妹のキョンシー達を見た。

二の姉妹の傍らにはエレクトロキネシストとエアロキネシストが控えていて京香達をジッと見つめていた。

屋上に居た誰もがきを止めた。

「京香」

霊幻に京香は頷く。ここに居る生者は京香だけだ。

ならば、京香が始めなければならない。

「『アクティブマグネット』、発」

京香は自分のＰＳＩ、マグネトロキネシスの名前を口にした。

バァン！　京香の著ていたトレンチコートが弾ける！

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！

京香達の周囲を黒い砂、砂鉄が覆い盡くした。砂の中では直徑五センチ程度の真っ黒な八個の鉄球がフヨフヨと浮かんだ！

砂鉄の雲。

鉄球の星。

二つの鉄(くろがね)を従えて京香は右手を上げる。

京香は一度深く瞳を閉じて、スイッチを切り替える様に開けた。

そして、京香は告げる。

「さあ、撲滅を始めましょう」

生者が右手を振り下ろし、それが最後の戦の合図だった。