《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》④ ワンス・アポン・ア・タイム
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清金京香の主観的観測において人間とキョンシーの區別は無い。現代社會におけるこの特殊な価値観は、京香の生い立ちに起因する。
京香の生まれは日本のとある山奧。清金邸という屋敷だ。
科學文明が発達した現代社會での忘れられた境。そこで京香は一人の人間と十數のキョンシー達と共に暮らしていた。
唯一の人間は京香の母親だ。優しげでいつもウフフと笑っていた母だ。やんちゃな子供だった京香のあれこれに、母は「アラアラ」と笑いながらキョンシーと共に飛んで來ていた。
この清金邸で京香は十四まで育った。何不自由ない生活だった。
周りにはキョンシーしか居なくて、どのキョンシーも自律型。
教師のキョンシーが居た。
給仕のキョンシーが居た。
友のキョンシーが居た。
兄のキョンシーが居た。
姉のキョンシーが居た。
弟のキョンシーが居た。
妹のキョンシーが居た。
そして、父(・)のキョンシーが居た。
父と母はいつも仲睦まじく、父の腕の中で母は幸せそうな顔をしていた。
京香は母から『あなたは私とお父さんがし合って生まれたのよ』と日々言われた事を覚えている。母の顔は誇らしげで、蘇生符の奧の父の顔は穏やかだった。
きっと幸せだったのだと、京香は在りし日を思い返す。
京香は父の冷たくて真っ白な腕に抱きかかえられ、それを母が後ろから笑顔で見つめる。
キョンシー達と遊んだり、勉強したりした。
自分と母だけが年を取っていき、キョンシー達の姿は変わらなかったけれど、それに疑問は覚えなかった。
京香の世界の全てがあそこにあった。
死ばかりの箱庭で、京香は幸せな日々を過ごしていたのだ。
この日々は予告無く終わりを迎えた。
確か、數學の勉強をしていた時の事だったと京香は記憶する。
突如として、屋敷の東側から発音が鳴り響いたのだ。
人間かキョンシーか、京香が聞いた事の無い聲が聞こえた。
『清金カナエ! キョンシーの不法所持及び開発の罪でお前を逮捕する! 抵抗したら容赦はしない!』
男の聲だった。若く、そう、兄のキョンシーと同じくらいの聲だった。告げられた名は京香の母の名前だ。
キイイイイイイイイイイイイイン! テレキネシスの音が聞こえた。給仕の一人のPSIだった。
教室へ母が駆け込んできた。相を変えた、母らしからぬ表だった。
『京香! 逃げるわよ!』
『え? え? 母さん何をやったの?』
『良いから!』
母に腕を引かれ、教室を飛び出した。
兄弟姉妹のキョンシー達が、友のキョンシー達が、優しき教師のキョンシー達が、給仕のキョンシー達が屋敷を走り回り、各々のPSIを発していた。
京香は初めてPSIを使った戦いの現場を見た。
大切だったキョンシー達は四肢を千切りながら、侵者達と戦っていた。
『母さん! 皆が!』
『分かっているわ! でも逃げるの! ああ、あなた!』
途中で合流してきた父にまとめて抱き抱えられ、京香達は屋敷を飛び出そうとした。
だが、逃亡は失敗した。
屋敷の裏口には京香が初めて見る母以外の人間が立っていて、銃と呼ばれるをこちらへ向けていた。その人間の後ろにはキョンシーが居て、そのキョンシーは京香が知っている者とは違って無言で無機質だった。
『清金カナエだな。良くこんだけ長い時間隠れたもんだ』
人間達の一番前に立った男の聲は、初めの発音の後に聞こえてきたと同じだった。
男の隣には男のキョンシーが立っていて、そのはバチ、バチと帯電していた。
『……逃がしてくれないかしら? 私達は誰にも迷をかけないで幸せに暮らしていたいだけなの』
父の後ろで京香を抱いた母が男を睨み付ける。
『駄目だ。清金カナエ、キョンシー開発研究の第一人者であるお前なら分かるだろう。無秩序に作られたキョンシーはこの世界を崩壊させる。そもそもここのキョンシー達の素は何処から持ってきた?』
『……』
ギリッ。母が歯を噛み締めた音が聞こえた。
『……それじゃあ、一つだけお願い。この子、この子の安全だけは保障して。私の大切な娘なの。お願い』
『ちょっと、母さん、何言ってんの!?』
『黙りなさい。……頼むわ』
男の眉がピクリとき、視線が京香へと向けられた。
『お前の娘か。逃亡中に拵える余裕があったなんてな。相手は誰だよ』
『……言う気は無いわ』
母の言葉に京香は『え?』と父の背中を見てしまった。
何故、あれ程まで父とし合っていた母がこの場でそんな事を言うのだろう?
京香は一般教養を習っていなかったのだ。
不自然な京香の視線に前方の男は口をあんぐりと開けた。
『お前、キョンシーとまぐわったのか?』
『……』
『マジかよ。ネクロフィリアも大概にしろよ』
男は後頭部を掻き揚げた後、右手を上げた。
『悪いな。俺の権限じゃお前の娘を守れない。けど、命だけは助けてやる。それがギリギリだ』
男は右手を振り下ろし、キョンシーへ命じる。
『あいつらを倒せ』
バチバチバチバチ! 帯電したキョンシーは京香達へと突撃してきた。
父のPSIはエアロキネシス。この距離では躱す事ができない。
このままでは父のは電流を浴びて壊れてしまうだろう。
壊れてしまったらもう二度と家族全員で笑い會う事が出來ない。
それは〝嫌〟だった。
『京香、駄目よ!』
母の制止は一歩遅かった。京香は眼を見開き、父からけ継いだPSIを発した。
イメージしたのは自分達を囲む直徑三メートルの磁界の球。
『は?』
男の聲が聞こえる。京香達へ突撃してきた帯電するキョンシーは父に屆く事無く、直角に曲がって地面へと転がった。まるで不可視の力を浴びたかの様な不可解なきだった。
『アタシの家族に何するのよ!』
京香は勝気に立ち上がり、男へと聲を張り上げた。
訳が分からなかった。幸せだった今日が何故突然奪われなければらない。
許せなかった。友が兄弟姉妹が、給仕が教師が、全員が傷つけられた事が、京香の世界を壊そうとする事が許せなかったのだ。
男は懐からナイフを取り出し、それを京香へと投げ付けた。
クルクルクルクル!
『京香!』
母の聲を背に、京香は球の磁場を強くする。
ナイフは京香にも父にもれる事無く、周回運に似た軌道を描きながら京香達から弾き飛ばされた。
『……清金カナエ。お前、何(・)を産んだ?』
『……ただの、娘よ』
京香の抵抗は狀況を悪化させただけだった。
何か見せてはいけないを京香は見せてしまったのだ。
男は數秒天を仰いだ。
『おい、そこの、京香って呼ばれたガキ。お前、生きたいか?』
『あ、當たり前でしょうが!』
京香は噛み付く様にんだ。何を當たり前の事を聞いているのか。
死んだらキョンシーにれるとは言え、死ぬまで生きる事が大切だと京香は教わってきた。
京香の言葉を聞いた男は顔を下げて、京香の母へと眼を向けた。
母と男の視線が合う。
『……助けて、くれるの?』
母の言葉に男は頷かず、質問で返した。
『おい、データとかは殘してるか?』
母は息を呑んだ。
『いいえ。いいえ、何一つ殘ってない。全て破棄しているわ。私の頭の中だけよ』
『そうか。この事実を他に知っているのは?』
『この屋敷に居る私達だけ』
『……そうか』
ふぅっと男は息を吐いた。
『ガキには見せたくないな』
男の諦観が込められた言葉を、京香は理解できなかった。
『あなた、京香を眠らせて』
京香は続く母の言葉の意味を問い質そうとした。
しかし、
ガンッ!
母に振り向いた瞬間、後頭部に衝撃が走り、京香は意識を失った。
ブラックアウトする視界、二発の銃聲が響いた。
そして、京香の箱庭は撲滅したのだ。
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