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「霊幻！」

「おうとも！」

京香は霊幻に抱えられて跳び上がった。直後、彼達が居た場所に火柱が上がる。

グルグルグルグル！　京香の右手を中心に鉄球が回った。

「撃て」

著地と同時に右手をピストルの形にして京香は鉄球をパイロキネシスト達に放った。

前方へと続く磁場のレール。京香にしか見えていない不可視のライン。

それに沿って、八つの鉄球は風切り音をたてながらパイロキネシスト達へ吸い込まれていく。

「ちっ！」

パイロキネシストがテレパシストを抱えて左に飛んだ。

「曲がれ」

京香は即座に磁場のレールの形を変形させる。

鉄球の軌道は瞬時に捻じ曲げられ、パイロキネシスト達へと屆いた。

「ココミ！」

最早回避は葉わぬと、パイロキネシストはテレパシストを庇う様に鉄球達へ背を向けた。

ド、ドドドド、ドドド！

八の鉄球がパイロキネシストの小さな背中へと衝突し、骨を砕く鈍い音を周囲へ響かせた。

――背骨は砕けなかったか。

手応えから京香はパイロキネシストへのダメージ量を判斷する。

ゴロゴロとパイロキネシストはテレパシストを抱えたまま転がり、京香は新たな磁場のラインを引き、追撃の鉄球を放つ。

「舐めるな！」

ゴオオオオオオオオオオオ！　ゴオオオオオオオオオオオ！　ゴオオオオオオオオオオオ！

三つの火柱が京香達の周りに生える。一つは京香達の前方であり、視界が塞がれた。

ガンガンガンガンガン！

鉄球が屋上の床に激突する音がした。京香は避けられた事を即座に判斷する。

「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！」

裂帛としたび聲を上げながら、火柱の名からパイロキネシストが現れた。

戦裝束たる炎のドレスは猛々しく、激烈な勢いを持っている。

「広がれ」

京香は新たに磁場のを作り、左側の周囲に漂っていた砂鉄の雲をシャルロットの前方にり付ける。黒い薔薇の形をした盾は強度を増し、パイロキネシストの拳と衝突した。

バキィ！　砕けたのは攻撃をしてきた側の拳だった。

「蹴り飛ばせ」

京香の命令通り、霊幻の蹴りがパイロキネシストの腹へと突き刺さる。

「ぐっ！」

宙へ飛ぶパイロキネシストをエアロキネシストがけ止めた。

キイイイイイイイいいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン！

力球がエアロキネシストより放たれ、エレクトロキネシストが地面より炎を放ちながら跳んで來る。

――遅い。

「霊幻、後ろ」

「ああ」

ただの直線運、霊幻を使って一歩後ろに跳ぶだけで京香は放たれたＰＳＩを回避する。

そして、即座に反撃を放った。

「薙ぎ払え」

作り出す磁場のレールは屋上の左右にかしていた鉄球達の直線運を生んだ。

高速で左右より挾み込む様に飛ばされて來た鉄球達はたった今攻撃をしていた筈のキョンシー達の全を破壊する。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド！　ボキバキボキボキバキバキバキボキボキ！

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド！　バキボキボキボキバキボキボキバキバキ！

エアロキネシストとエレクトロキネシストは錐みの回転をしながら弾き飛ばされ、屋上より落下した。

「ッ」

テレパシストが小さく眉を歪めた。

――分かっていたでしょうに。

グルグルグルグル！　モヤモヤモヤモヤ。鉄球と砂鉄が京香の周囲へと戻った。

再び右手のピストルの周囲へ京香は鉄球を周回させる。

京香がＰＳＩを発して僅か一分強。戦況は一変していた。テレパシストが使役していたキョンシー達は全てこの場から居なくなり、パイロキネシストのへのダメージも深刻だ。

対して、京香達には何の変化も無い。霊幻の紫電を纏える時間が十秒前後しか殘っていないだけだ。

大勢は決した。磁界の王がこの場の主だった。

京香は前方の姉妹達に通告する。

「投降しなさい。アタシ相手にテレパシーは通じない。パイロキネシスも霊幻が居れば避けられる。あんた達に勝ち目は無いわ」

「い、や、よ！」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！

命じる必要も無く、京香は霊幻に抱えられて火柱を避ける。

「ねえ、そこのテレパシスト、あんたなら分かっていたでしょう？　テレパシーがエレクトロキネシスの一種である時點で、アタシ相手に勝ち目無いのよ」

磁場中において、電子にはその運方向に対して直角の力ベクトルが働く。

京香のＰＳＩはマグネトロキネシス。磁力使いだ。

彼自が名付けた固有名は『アクティブマグネット』。任意の磁場を作り出す事で、任意の磁力を與え、任意の対象を作する。それが京香のＰＳＩだ。

磁力の壁を突き破るのにはテレパシーの糸はか細過ぎた。

「あんたのテレパシーは強力ね。ただ、出力が足りない。重さが足りない。力が足りないのよ。アタシの思考ももう読み取れないんでしょう？　霊幻の考えを読み取っても無駄よ。もうこいつには考えさせない。アタシの命令通りにだけいてもらうから」

「業腹だがな！　ハハハハハハハ！」

腰を霊幻の右腕に抱かれながら、京香は命令を続ける。

持ち主から勅令をけたキョンシーは一次的に他律型にる。一挙手一投足に至るまでキョンシー使いの命令が無ければく事が出來なくなる。元に戻すのも一苦労で、京香はあまりその姿を見たくは無かった。

姉妹のキョンシー達はフェンスに背を預けていた。二人は手を繋いでいて、キッとした瞳と、ボウッとした瞳の対稱的な四つの瞳が京香を見つめている。

――ああ、本當に仲が良いのね。

京香は在りし日の兄弟姉妹を思い出した。

キョンシーのは、キョンシーのは、場合によっては人間よりも遙かに純粋で激烈である。

京香は良く知っている。キョンシーのというは金剛石よりも遙かにいのだ。

ピストルの照準は一切ぶれない。

「わたし達はあなた達には絶対に従わない。あなた達にココミを渡さない。わたし達を引き離させない。そこをどきなさい。わたし達は帰るのよ」

――何処へよ？

京香は聞かなかった。パイロキネシストの眼は不規則に揺らいでいる。足は覚束なく、フェンスにを預けなければ立つ事も難しいのだろう。

「それはできない。許されないのよ。この社會においてキョンシーに自由は認められていない。誰かの所有じゃければ存在を許されない」

――おかしいと思うわよ。

本心を京香は語らない。この場で語るべき容ではない。取る行は変わらないのだから、このはどうでも良い事なのだ。

「私達は、二人きりで、居たい、だけ」

テレパシストの言葉は短く途切れ途切れだ。

二のキョンシーの想いは同じだ。

二人で、二人きりで、いつまでもどこまでも居たいだけ。

「きっと、あんた達は誰にも何処にも迷をかけないんでしょうね」

二のキョンシーのは互いに向いて、強固に結び付いて、他の何かに向けられていない。

「アタシ達があんた達にちょっかいを掛けたから、今こうして戦っているんでしょうね。放っておけばみんな幸せだったかもね」

「そうよ！　あなた達が悪いのよ！　何で靜かにしておいてくれないの!?　わたし達が何かしたの!?　ただ二人で居たいだけなのに！　ここに來れば幸せにれるって思ったのに！」

ハハッ！　京香は笑った。

「うん。偶に、偶にね、勘違いするキョンシーが居るのよ。シカバネ町はキョンシーの為の町。でもね、それはキョンシーを生産する為であって、キョンシーが幸せに暮らす為ではないの」

「ッ！　何よそれ！」

パイロキネシストの怒りは何に向けたなのだろう。

京香は理解しようとはしない。理解したからと言ってその想いを汲み取りはしないのだから。

しばしの時間が経った。呼吸にして五つ分。

京香と霊幻の第六課の最終兵、そしてキョンシーの姉妹が向き合った。

何の偶然か、き出しは全くの同時だった。

「放て」

「燃えろ！」

マグネトロキネシスとパイロキネシスが差する。

勝敗はすぐに著いた。