《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》撲滅の休息(散策編)

「ハッハハ~」

霊幻はアミューズメント施設を出て行き、そのまま北區の歓楽街をブラブラとしていた。休日と言う事もあり、普段は居るスーツ姿のサラリーマン達の姿は無い。居るのは煌びやかな顔をした若者やびと談笑している大人達。

中には子供の様に全力で休日を楽しんでいる大人や、大人の様にカフェでコーヒー(カフェインレス)を飲む子供名達が居た。

そして周囲の施設の中では、業務用のキョンシー達がその真っ白な腕と腳をかして生者達に盡くしている。

――何て素晴らしい景なのだ!

霊幻の思考回路は涙した。涙腺が付いていないから涙は流れないが、踴り出したい程、今霊幻の瞳に映っている景はあまりに祈りに満ちた眺めだった。

今ここは日々を楽しむ為だけに時間を浪費している生者で溢れている。

誰もが、命が脅かされると欠片も思っていない。

この景を作る為に、どれほどの祈りが捧げられ続けたのだろう。霊幻の記録が數々の祈りのデータをポップアップさせる。

霊幻が求めてきた理想が今目の前にあった。

わなわなと霊幻の肩が震え、偶々、近くに居た男子高校生がギョッと霊幻から距離を取った。

「素晴らしいではないか~!」

急に霊幻は踴り出した。ブレイクダンスと盆踴りを混ぜた様な不気味なきで霊幻はクルクル、タッタッタ、とを回し、ステップを踏みながら歓楽街を疾駆する。

「おーい! そっち行ったぞ! 避けろぉ!」

誰かが霊幻の進路上の誰かへ號令していた。

霊幻は用にかして、人間達には一切ぶつかっていない。だが、紫マント姿の巨漢が荒々しく回りながら向かってくるというのは只の恐怖である。

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」

三百六十度、高速で回転していく視界。ドン引きしたり、笑いながら寫真を撮ったり、無言で距離を取ったり、人々の反応は様々だ。だが、誰も彼もが、霊幻の奇行に慣れ親しんでいる様子だった。狂ったキョンシーの狂った行で生者達は自分の行を変えたりしない。

それがまた、霊幻には素晴らしかった。

その時、霊幻の視界の雑踏の中にメイドと執事の後ろ姿があった。ヤマダとそのキョンシー、セバスチャンである。

「ヤマダくんにセバスではないか!」

ピタッ! 霊幻のは慣の法則を無視したかの様にその場で停止した。

「アら? 正義バカではないデスか」

「これはこれは霊幻様。ご機嫌麗しゅう」

一人と一はクルリと霊幻の呼び止めに振り返り、ヤマダの一房にまとめたウェーブの掛かった金髪がフワリと揺れる。

らは休日だというのに普段の格好のままだった。

「ヤマダくん達はどうしたのだ? お前達も撲滅か? ならば吾輩と共に行こうではないか!」

「相変ワラず、バカですネ。ワタシがソんなバカな事するハズがなイじゃないですか」

フン、とヤマダが鼻息を立てた。セバスチャンが主人の言葉に補足する。

「霊幻様、お嬢様と私達は新しい茶葉を買いに來たのです。馴染みの店から今日珍しい茶葉を輸したと聞きまして。それとお茶菓子の材料も切れそうでしたから」

「ほう! それは素晴らしいな! セバスの茶と菓子は絶品だと京香から聞いている。あのジャンクフード好きが手放しに譽めるのだから間違いない。吾輩に味覚があったのなら是非とも味わいたいだ」

日々の仕事の中で京香はセバスの紅茶と茶菓子を日々楽しみにしている様子だった。霊幻の記録ファイルの中で、京香がモグモグと茶菓子を頬張っている姿が幾つもある。

「ハッ。神水シカ飲マないアナタが言っても説得力がないデスね。トコロで、京香ハ? アナタのモチヌシはどこに行ったのデス?」

「京香なら家だ。朝方まで起きていたぞ。おそらくゲームで徹夜でもしたのだろう。不健康な事だ」

霊幻は朝方、京香が住むセセラギ荘近くをパトロールしていた。意図した事ではなく、住宅地が集する西區全を歩き回っていたら、偶々セセラギ荘の近くに朝方著いたというだけだ。

京香の部屋、セセラギ荘202號室はその時、明かりが點いていた。おそらく、古ゲーム屋で買ったオルドゲームをやっていたのだろう。京香は眠りがあまり深いほうではなく、度々ゲームなどで徹夜をしていたのだ。

「マあ、アナタの単獨コウはイマに始まッタ事ではナイですケド。それじゃあ、アナタはこの歓楽街にワザわざ何をしにキタんですか?」

「先程までユウパンマンの映畫を見てきたのだ。今は、そうだな、特になにもしていない。目的もなくブラブラと歩いているだけだ」

霊幻の言葉を聞いてヤマダは大げさに「マア!」と口元を手で隠した。

「正義バカのアナタが何も問ダイを起こさナイなんて珍シイ。セバス、鋼鉄セイの傘を準ビしなサイ。槍デも落ちテくるみたいデスから」

「仰せのままに」

ヤマダの口は相変わらずカタコトで流暢だった。初期のボーカロイドの様なイントネーションのおかしさがあるのにも関わらず、不思議と聞き取りやすいのがヤマダの話し方の特徴だった。

ハハハハハハハハハハハハハハハ。

「ハッハッハ! 確かに吾輩が撲滅の為に走り回らないのは珍しい! だが、ヤマダくん、珍しく記憶違いのようだ! 吾輩は今日一か月に一度の定期メンテナンスの日なのだよ! 十三時半にマイケルの所に行く事にっているのだ!」

「知ッテいます。嫌味くらい理解してくだサイ」

呆れた様にヤマダは片眉を上げる。

――なるほど。嫌味だったのか。相変わらず分かり難い。

「と、ムダ話をし過ぎてしマイましたネ。ワタシ達はそろソロ行きマス」

「ふむ、折角だ。吾輩が一緒に行っても?」

「オ・コ・ト・ワ・リ、デス」

すげなくヤマダは霊幻の同行を斷り、背を向けてスタスタと歩き出した。

どうやらもう霊幻と話す気はないようだ。

「それでは霊幻様、ごきげんよう」

セバスチャンは恭しく頭を下げた後、己が主を追いかけて、その橫に寄り添った。

「うむ! さらばだ、また會おう!」

ヒラヒラとその大きな手を霊幻は振ってヤマダ達とは別方向へノシノシ歩き出す。

――さて、次は何をしようか。

ハハハハハハハハハハハハハハハ。

霊幻の休息はまだ始まったばかりだ。

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