「きガやかマしいですネ。店長サン、オススメの家はアルのですカ？」

「おお、あるぞあるぞ！　剣山が敷き詰められた折り畳み式の機はどうだ？　俺の自信作だ！」

「もしくは、全部歯車の裝棚はどうだ？　ちゃんと歯車が回転するぞ！　俺の自信作だ！」

「ドちらモ卻下でス。ワタシの手をズタズタにすル気ですカ？」

虹村兄弟がドタドタと持ってきた品をヤマダは即座に卻下した。見た目は面白かったが、実用は皆無どころか危険である。

「「どれ、次のオススメは！」」

見事に聲をハモらせながらアフロの二人は次の家を取り出していく。

「どれもコれもゼンエイゲイジュツと見分けガ付きまセンね」

率直な想を見せながらヤマダはウフフと笑った。訳の分からないをヤマダは好む傾向にあった。虹村兄弟が出してくる家はどれもこれもがヤマダにとって訳の分からないだったのだ。

「ワタシ達はコモノを買いタいのデス。見せてクだサイ」

「「かっしこまりましたー！　こちらお越しくださーい！」」

モッサモッサモッサ！　アフロが小気味良く揺れて、虹村兄弟がヤマダ達を小コーナーへ連れて行く。店の奧の棚で、ヤマダの予想通り、そこもカオスで溢れていた。

オルゴールらしき、貯金箱らしき、包丁らしき、まな板らしき、……etc。まあ、とにかく、どれもこれも、〝らしき〟という三字が付く見た目をしていて、一見では何が何だか分からなかった。

ラプラスの瞳を使えば、スカラーやベクトルのパラメータからどう言う意図で使うなのか判斷が付く可能があったが、今日、ヤマダはラプラスの瞳を持っていない。オフの日は武を持たないのがヤマダのスタイルである。殺されてしまったのならそれまでだ。

「ソれじゃア、ワタシ達はスルので、しばラク放ってオイてくださいナ」

「「承知いったしましたー！」」

モッサモッサモッサモッサ。眼に痛いのアフロを揺らして虹村兄弟達はヤマダ達の傍から離れ、店の奧に戻っていく。そして、すぐに何やら工作する音が微かに聞こえてきた。どうやらこれらの現代アート的家はハンドメイド製らしい。

「良シ、セバス、あなタも選びなサイ。後デ見セ合いッコしまショウ」

「仰せのままに、お嬢様」

ヤマダはさてさてと棚へと眼を向けて、カオス的な小グッズ達を手に取った。

＊

「「ありがとうごっざいましたー！」」

野太いアフロ達の聲を背中にけ、ヤマダとセバスは虹村ファニチャーから出た。セバスが持っていた荷には新たに二つの小さな木箱がった手提げビニール袋が加わっている。

結局、ヤマダが選んだのはドクロ型の香水れだった。人間工學に真っ向から反逆したデザインが気にったのだ。

「セバス、あなタが選ンだもセンスがありマしたネ。サすがワタシのキョンシー」

「いえいえ、お嬢様には敵いません」

セバスが選んだのはペンギンの形をしたペーパーナイフだった。見た目は可らしく、比較的デザインもうるさくない。ヤマダ達の部屋にあっても調和できなくはないデザインである。

「アら？　いつの間にカ、もうオ晝の時間でスネ。セバス、帰りまショウ。ワタシは満ゾクしまシタ」

「それはそれは重畳でございます」

トテトテトテ。ヤマダはそれなりに上機嫌に有楽天の階段を下りていく。時刻は十二時を回ろうとし、レストランやカフェが俄かに活気出してきていた。

何処かの食事処に寄ってから帰るのも選択肢の一つであったが、ヤマダはこのまま帰って、自宅で食事を取る事にした。既にヤマダは外出に満足している。これ以上の外出の刺激は過分であり、ヤマダの満足を損なうである可能が高かったからだ。

階段を下り切り、一階に到著し、丁度有楽天の出口が見えた時、ヤマダの視界、右前方十五メートルの店、スイーツシャングリラから見知った同僚、木下　恭介とそのキョンシー、ホムラとココミが出てきた。

恭介は「うっ」と口元と腹に手を抑えている。その後ろではホムラが満面の笑みでココミに抱き著きながら何やらワーキャー喋っていた。

どうやら一行は、というか恭介はそこからまだく気にらない様で、スイーツシャングリラからし離れたベンチに座り込んでいる。

――放っておきますか。

もしも、あのというに極度に甘い京香ならば、話しかけて適當に世間話でもするだろう。だが、ヤマダは込みった問題は好きであったが、面倒な事はあまり好きではない。

恭介に話しかけたとして、ホムラが騒ぐだろう。『ココミとわたしの邪魔をしないで。燃やすわよ』と、開口一番言うに違いない。

トテトテトテ。故に、ヤマダは恭介達に何も話しかけず、彼らの目の前を通り過ぎ、有楽天を出て行った。

恭介達の前を通った時、甘い砂糖と生クリームの香りがヤマダの鼻腔を刺激した。大量生産のスイーツの匂いだ。

有楽天を出て、日をヤマダは浴びる。本日は晴天なり。自宅のベランダで本でも読みながらアフタヌーンティーをしよう、とびっきりに味しいスイーツも添えて、と、午後の魅力的な予定を立てる。

「セバス、ホン日の晝ショクは家で食べマス。オイシイものを作っテくダさい」

「トマトパスタは如何でしょう？」

「エクセレント」

好々爺を引き連れて、ヤマダは鼻歌を奏でながら、トテトテトテと歩いていく。

メイド服のスカートがヒラヒラと揺れ、満足の行く休日をこのメイドと老執事は過ごすのだった。