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コンコン。

三つ目のスコーンを食べ終わった時、第六課のオフィスのドアをノックする音が響いた。

「水瀬だ。待たせたな、るぞ」

京香達の返事を待たずして、ガチャッと水瀬が第六課のオフィスへ足を踏みれる。猛禽類を思わせるその雙眸は鋭く力に満ちていた。

そんなキョンシー犯罪対策局実行部の部長である水瀬の背後に見慣れぬブロンドヘアのが居た。癖の無いストレートヘアで、らかいヨーロッパ系の顔立ちをしていて年はおそらく京香よりし上だろう。

――依頼人か何かかしらね？

水瀬はブロンド人を連れて京香の前まで來た。その背中を新人の恭介だけが首をばして観察している。他の連中は各々好き勝手だ。

一応は上司であるので京香は立ち上がり、水瀬へ軽く頭を下げる。

「おはようございます、水瀬部長。要件は何でしょう？　そちらの人が関わっているんですか？」

「ああ、この人はセリア・マリエーヌ。遠くヨーロッパの地からの依頼人だ」

「へぇ」

京香達が所屬する実行部は基本的にシカバネ町を活拠點とし、キョンシーが関わる犯罪の防止や鎮圧に當たっている。日夜、拐や殺人、素狩りが橫行するシカバネ町が最も犯罪率が高いからだ。

だが、それとは他に外部依頼も実行部はけ付けていた。キョンシーを使った戦闘及び鎮圧能力を持った組織はそう多くなく、シカバネ町の実行部は世界でも有數のめ事処理屋であったからだ。

第六課はこの外部依頼を最も多く注する部署でもあった。シカバネ町で第六課が必要な危険度の仕事はあまり発生せず、更に數鋭であったのでかし易いのが理由であろう。

「それじゃあ、依頼容は何でしょうか？」

京香は水瀬の後ろの依頼人、セリアへ目を向け、聞きの勢にった。水瀬を通している時點で京香達が拒否する気は無い。だが、容の確認に失敗すれば、大火傷を負うのが水瀬の持って來る依頼の常だったのだ。

視線をけてセリアが口を開いた。

「％＆％％＆＆％＆＄％％＆％？」

「ストップ」

京香はの前でバッテンを作り、水瀬へ顔を向けた。

「外國語じゃないですか」

「そりゃ外國の方だからな」

「ちょっと待ってください、翻訳機出しますから」

即座に元の先程まで座っていたデスクへ戻り、京香は引き出しを開け、グチャグチャ混沌とした中の中からお目當てのを探し出した。

京香が引き出したのは右耳に付けるインカム型のピンクの翻訳機『トーキンver5』だ。

これは世界で使われている公用語をほぼリアルタイムで発信信翻訳してくれる優れだ。尚且つ素晴らしいのは相手と自分の聲をほぼ完璧に再現し、互いが分かる言語で音聲してくれる點である。

値段は張るが、日本語以外特にちゃんと話せない京香にとって外國人と話す時の必需品だった。

「え～と、その方の言語は？　英語じゃなかったですよ、ね？」

「フランス語ですヨ。イマ、彼ハ、『初めまして。依頼を聞いてくださり謝いたします。あなたが清金京香さんですか？』とイってました」

「サンキュー、ヤマダ」

ヤマダの補足に例を言い、京香はトーキンver5へ音聲認識を始める。

「信はフランス語から日本語へ、発信は日本語からフランス語へ」

ピピッ。即座に設定が完了し、京香は取り繕った想笑いを浮かべながら、セリアへと向き直った。

「お待たせしました。アタシは清金　京香です。第六課の主任をやらせていただいてます」

発した言語が即座に翻訳され、インカムのマイクから京香の聲でフランス語に翻訳されオフィスに響いた。

セリアは面白そうな顔をした後、丁寧にお辭儀をした。

「『あ、こちらもごめんなさいね。話せると聞いていたでしたから。初めまして、セリア・マリエーヌと言います』」

右耳に付けたイヤホンがセリアの言葉を京香の分かる言語に翻訳する。久しぶりにこの翻訳機を京香は使ったが、幸い壊れていなかったようだ。

――水瀬さん、適當な事言いやがったな。

ジロッと京香は水瀬を一度睨むが、水瀬は全く気にするそぶりはなかった。

「依頼容をお聞きしましょうか」

長々と無駄話をする気は無い。京香は応接用の黒革ソファを指さして、そこに座る様、セリアと水瀬を促した。

「あ、そうだ、全員集合」

ついでに、手をパンパンと叩いてオフィスに居た部下達を招集する。自分達全員への依頼なのだ。まとめて聞いた方が良い。

ガラス張りの機を挾んで向かい合った黒革のソファに京香とセリアは座った。

セリアの左隣では水瀬が座っていて、京香の後ろでは第六課の面々が立っている。

「紅茶はいかがですか？　うちのセバスチャンが淹れたです。とても味しいですよ」

京香の言葉にセバスチャンが丁寧にお辭儀をした後、ティーポットを小さくの前で上げた。

セリアはチラッとセバスと京香の顔を互に見た後、首を橫に振った。

「『お気遣いありがとう。いただきます』」

「分かりました。セバスさん、二人分頂戴」

「承知いたしました」

コトッ。セバスが注いだ紅茶を一口飲み、セリアは大きく目を開いた。

「『味しい』」

それは驚きに満ちた自然と溢れてしまった言葉だった。それに京香は得意気な顔をした。

「そうでしょうそうでしょう。アタシはこれ以上の紅茶を知りません。あ、お茶請けもありますよ？」

「『いえ、それは結構です。依頼の話をしましょう』」

――殘念。

折角だからスコーンを味わってもらおうと思ったのだが、京香の提案はセリアに斷られてしまった。セリアの斷り方に不快なは無く、し笑いながら彼は首を傾けている。

京香はセリアの隣で黙っている水瀬を見た。水瀬に口を開いたり、何かアクションを起こそうとする様子は無い。どうやら、京香のやり方にとやかく口を出す気は無いようだ。

それならば、と、セバスの紅茶を一口飲んで京香は居住まいを正した。

「それじゃあお聞きしましょう。アタシ達第六課に何の用ですか？」

ジッと京香はセリアの眼を見る。セリアはそのしいブロンドの髪を一度でた後、おもむろに言葉を紡いだ。

「『京香、あなたは我々ヨーロッパ連合が保有するキョンシーの事を知っていますか？』」

「ええ、あなた方が開発するキョンシーは世界各地で使われていますからね、特に生活環境方面で」

死全盛期時代である現在、世界各國でキョンシーが盛んに生産されており、それぞれの國と地域で生産されるキョンシーには特徴があった。

たとえば、京香達が暮らす日本を含んだアジア地域では、単純作業をインプットした特化型のキョンシーが主流だ。特定のきを長時間一定のペースで行う必要がある工場などへ販売されている。

逆にアメリカ大陸全般では、多機能型のキョンシーが主流だ。改造し、人間では不可能な出力を持ち、一通りの事は何でもできる、ある意味でひな形のキョンシーが販売されている。

そして、セリアが暮らすヨーロッパ連合では、人間の生活を支えるサービス業がインプットされたキョンシーが數多く販売されている。農業、宅配、掃除、ハウスキーパー、ベビーシッター、変わり種ならばボディーガードまで、ヨーロッパ産のキョンシーを一買えば、居住環境が高級ホテル並みにると言われていた。

「『はい。私達のキョンシーのモットーは〝揺り籠から墓場まで〟。キョンシーを使って完ぺきな生活を目指しています。では、我々ヨーロッパ連合が持つもっとも有名なキョンシーは何なのか分かりますか？』」

「それはキョンシーの型番、それとも個どっちの意味で？」

「『個の方です』」

――回りくどいわね。

顔には出さず、京香はし考えて口を開いた。

「個で言うなら〝アネモイ〟でしょうね」

「『その通り。我々ヨーロッパ連合が保有する、世界に五しかいないＡ(・)級(・)Ｐ(・)Ｓ(・)Ｉ(・)キ(・)ョ(・)ン(・)シ(・)ー(・)、アネモイの事で今回依頼があるのです』」

京香は一度自分の額をった。これは面倒な依頼、それもとびっきりのであると確信したのだ。

「へぇ。アネモイ、アネモイね。普通ならアタシじゃ一生関わり合いの無いビッグネームが出てきましたね。続きを聞きましょう。そのアネモイ、世界最高峰のキョンシーの一角へアタシ達に何をしてしいんですか？」

京香は嫌な予がしていた。第六課の事を京香は大切にしていたが、この第六課の悪名は外に知れ渡っている。

曰く、第六課は災害だ。奴らの通った後には骨の一本さえ殘らない。

間違った表現ではないと京香は思っている。自分達に最も向いているのは何かを壊す、何かを撲滅する事なのだ。

セリアはすぐに答えなかった。続く言葉を口に出してしまったら後戻りは聞かないと分かっているのだろう。もしかしたら、このまま母國へ帰ってしまいたいのかもしれない。

けれど、セリアの沈黙は決して長くなかった。

「『ヨーロッパ連合を代表して日本シカバネ町キョンシー犯罪対策局実行部第六課へ依頼します。我々の最も大切なキョンシー、我々ヨーロッパで最も価値のある至上のエアロキネシスト〝アネモイを破壊してしいのです〟』」