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「……破壊って言いましたね？　それは確かにアタシ達向きでしょう。壊す事はアタシ達の得意分野ですし」

「京香、壊すのではない、撲滅だ」

「黙ってなさい」

背後の霊幻の不満を一蹴し、京香は紅茶を一口飲んだ。ほのかな甘みとかな香りがを流れ胃に落ちる。

「『ええ、私達はあなた方ならばアネモイをきっと破壊してくれると確信しています。報酬はそちらの言い値で構いません。必要経費もこちらが持ちましょう』」

「確かにアタシ達は金欠気味でその提案はありがたいわ。でも、それだけで引きける気にらないわね。そもそも何でアネモイを破壊する必要があるの？」

京香には今のところ訳が分からなかった。背後から恭介の揺とマイケルの興が伝わる。

アネモイを壊す？　それ自は可能だろう。霊幻のエレクトロキネシスを浴びせれば理論上どんなキョンシーの脳みそだって破壊できる。

だが、アネモイは世界で最も貴重なキョンシーの一だ。アネモイを壊した者は一族郎黨死刑にされても文句は言えまい。

セリアは京香の質問が來る事を分かっていた様で、速やかに口を開いた。

「『アネモイは経年劣化してしまいました。そろそろ代替わりをしなければいけないのです』」

「劣化？　代替わり？」

「『あなたはアネモイの脳が誰のを使っているか知っていますか？』」

「いいえ。そんな報明かされてる筈ないでしょ。誰のか分かっちゃったら、アネモイの筋の人間全員が狩り盡くされてるわ」

キョンシー用に適した脳と筋との関係は科學的に立証されていないが、素ランクの高い人間の親戚が素狩りに會うという事例は世界でも多く報告されていた。

「『教えましょう。アネモイの脳はとあるミイラから複(・)製(・)したなのです』」

サラリと言われた言葉にマイケルが「マジかよ！」と耐え切れない様にんだ。

京香は「黙ってて」と背後のマイケルを睨むが、第六課が最も信頼を向けている貍腹のキョンシー技師は興を抑えきれない様だった。

ガバッと京香の頭を押しどけて、マイケルがソファの背にその大きな腹を乗り出した。

「『おいおい本気で言ってんのか!?　あのアネモイの素が何なのか世界中で謎だった！　それがまさかミイラのクローンだって！　革命的だ、どこのバカがそんなエキセントリックな発想を半世紀前にしやがったんだ!?』」

「ちょ、重い、マジで重い」

京香はマイケルの顎を遠慮なく両腕を使って後ろへ押し返す。

「マイケル、し黙ってて」

荒くなった鼻息が収まる気配は無かったが、とりあえずマイケルは口を閉じた。

その様に眼も向けず京香は今の言葉の意味を考える。京香の頭に引っ掛かったのは〝複製〟という言葉だ。

アネモイ。劣化。代替わり。ミイラ。複製。

――さて、どこまで報を流してくれるかしら。

今出された、アネモイの脳がミイラの複製というのは弾級に大きな報だ。研究者ではない京香には実が無いが、マイケルの興から分かる様に値千金の価値を持つのだろう。

だが、京香に、第六課に必要なのは、アネモイの素の報ではない。

アネモイに何が起きて、これから何をする必要があって、それに第六課がどう関われるのかという事だ。

「すいません、うちのキョンシー技師が興してしまって。話を続けましょう。アネモイの劣化とは、代替わりとは？　それに何故アタシ達が必要なのでしょうか？」

「『ウフフ。楽しそうな職場ですね。ええ、私が話せる限りの報を全て話しましょう』」

セリアは微笑みながら飲んでいた紅茶を機に置いて話を再開した。

「『近年、ヨーロッパの天候が不安定にっているのは知っていますか？』」

「ごめん知らないわ。あんまりニュース見ないのよね」

家で京香はゲームをするかアニメやドラマやバラエティを見るばかりで、時事ネタを放送するニュース等を見る習慣を持っていない。

京香が後ろを見てみると、どうやら恭介とヤマダは今の時事ネタを知っている様だ。

「『ほとんど誤差みたいなですけど、確かに最近のヨーロッパの天気は不安定です。急な雷雨が何度か報告されています』」

「『そうですね、僕もニュースで、昨日、見ました。夜中に突発的な集中豪雨が、降ったって、聞いてます』」

ヤマダは流暢な、恭介はややつっかえ気味なフランス語で京香の視線へ返事をした。

――ええ、恭介フランス語喋れんの？

良く見るとこの場で翻訳機を付けている人間は京香だけだった。霊幻達キョンシーには世界各國の言語が既にインストールされている。という事はこの場でフランス語が喋れないのは京香だけという事だ。

リーダーとしてどうかと思わなくはないが、京香はそれを表に出さない。

「『そちらのお二人の言う通りです。降るべきではない雨が何度も降っています。今はまだ我々が立てた気象予定表に乗っ取って居ますが』」

「雨が、振るんですか」

「『ええ、それも突発的に大量に。昨日も午前と午後に二回ずつ急な豪雨が降りました。この様な異常気象が出てきたのは五年前からです。アネモイが完璧に制していた筈のヨーロッパの空に綻びが生まれているのです』」

セリアは一拍の間を置いて、その理由を口にした。

「『我々ヨーロッパはアネモイの脳が劣化したからだと結論付けています。五十年前のクローン技は不完全でした。複製品の脳の壽命はコピー元よりも短くなります。むしろ良く持ったと言って良いでしょう。五十年間の連続的ＰＳＩの使用。アネモイの脳は限界を迎えつつあるのです』」

「ふーん。劣化の話は分かったわ。じゃあ代替わりって？」

「『言葉通りです。ヨーロッパは既に新しいアネモイを準備しています。脳以外の全てのパーツは既に完し、後は前回のアネモイと全く同じ脳を用意すればアネモイは復活する筈です』」

その言葉にマイケルが反応した。

「『待て待て。そいつはおかしい。伝子とＰＳＩの発現に相関はゼロじゃないが、有効なエビデンスは立証されてない。仮に全く同じ伝子配列の人間を用意したからといって、前回と同じＰＳＩが発現する保証は何処にもないぞ？』」

「『その通りです。を用意したからと言って中が伴わなけらば意味がない。だからこそ、我々ヨーロッパは第六課の皆様の力がしいのですよ』」

セリアは視線を京香の背後、恭介の左隣で立っていたホムラとココミへ向けた。

姉妹のキョンシーは京香達の話を全く聞いてない様だった。

セリアの視線は姉妹というより、主に抱き著かれているココミに向けられている様だった。

視線の意味を京香は直ぐに理解した。

「……何処で知った？」

「『ヨーロッパの報網を侮らないでください。清金京香、あなたの事も良く知っていますよ。世界で唯一、生者でありながらＰＳＩを使える人間としてね』」

「さあ？　何の事でしょう？」

公然のであれ、京香はとぼけた。只のポーズだとしても認めてはならない事象というのはこの世にあるのだ。

ウフフ。セリアは微笑みを浮かべ、紅茶を一口飲む。

「『そこのテレパシストは別のキョンシーのＰＳＩを他のキョンシーに植え付ける事ができるそうですね。その力を使えば我々が用意した新しいアネモイに現行のアネモイのエアロキネシスを植え付けられると考えています』」

瞬間、京香の背後で赤い輝きが起きた。ホムラがＰＳＩを発しようとし、蘇生符が発したのだ。彼に付けられた発阻害用首が無ければ、このオフィスは火の海にっていたことだろう。

「ホムラ、ＰＳＩの発を止めろ」

即座に恭介がホムラの眼を見て、ホムラとココミを連れてオフィスから出て行く。速やかで正しい判斷だと京香は心した。

「うちのホムラの前では発言に気を付けて」

「『噂通りですね。以後気を付けましょう』」

「ココミの力を使いたいというのも分かったわ。それじゃあ、何でわざわざ現行のアネモイを破壊する必要があるの？　殘しておけばいいじゃない」

「アネモイは既にいつ暴走狀態にってもおかしくありません。安定してく次世代機が手にったのなら速やかに破壊するのが筋でしょう？　お恥ずかしながら、アネモイが持った自己防衛機能を破るのは我々ヨーロッパでも々骨でして、その點も第六課にお願いしたいのですよ」

京香は頭の中で言われた報を整理する。つまり、このセリアというが言っている事はこうだ。

①ヨーロッパが持つエアロキネシスト、アネモイが経年劣化で暴走をし始めている。

②二代目のアネモイに初代のＰＳＩをインストールする為にココミのテレパシーを使いたい。

③二代目へのＰＳＩインストールが済み次第、暴走を始めた初代も破壊してしい。

――気乗りしない依頼ね。

セリアは一通りの話をし終わった様だった。やや話疲れたようで、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。

京香は水瀬を見る。第六課に拒否権はほぼ無いのだ。水瀬がやれと言うのなら京香達は従うだけだ。

ずっと黙っていた水瀬が立ち上がり、第六課へ指令を出す。

「第六課に指令する。フランスのモルグ島に向かい、速やかに二代目のアネモイを完させ、初代を破壊せよ」