《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》④ キャンディ

事後処理をセリアが呼んだ人員に任せ、京香達は再びリムジンに乗っていた。後十分すればモルグ島中央の気象塔に著くだろう。

キョンシーとの戦闘は常に命がけだ。アタッシュケースの形に戻したシャルロットを足元に置いて、京香はリムジン屋付近へ目を向ける。

フワフワフワフワ。アネモイがリムジンの屋近くで浮いていた。

レインコートの裾がフワリと膨らみ、アネモイの姿に重さは一切じられず、まるでヘリウムガスがった風船の様だ。

――やっばいわね。想像以上だわ。

京香は舌の奧に力をれた。今、アネモイはエアロキネシスを使って浮いているのだろう。事前報に他のPSIを持っているというのは無い。

京香は同僚の関口が持つキョンシー、コチョウの姿を思い浮かべる。

コチョウも自を浮かす事ができる。だが、中が抜きされた彼が浮いている時、強烈な風圧が周囲へと撒き散らせる。

コチョウのエアロキネシスは出力と両方C+。完全な空気の制は彼にはできないのだ。

しかし、今、京香のすぐ近くでフワフワ浮いているアネモイ。京香は全く風圧をじなかった。アネモイの抜きされた様子は無く、自が浮くために必要な風圧はコチョウの比ではない筈なのに、だ。

――これが出力と両方がAクラスのキョンシー。

フワフワフワフワ、クルリ。アネモイは何を思ったのかを逆さまにして、その可らしい顔が京香と同じ高さにった。

微かにアネモイの蘇生符が黃緑に発している。

「『おねえさん。あなたの名前を聞いても良いかな? ぼくを壊す人の名前だ。知りたいな』」

――綺麗。

ニコニコとしたアネモイの笑みを京香はしいと思った。

土気をしたアネモイは小さなで、京香の脳裏に壊れてしまった弟と妹の姿が過る。まだ母以外の人間を知らなかった頃、毎日の様に一緒に遊んでいた兄弟姉妹のうちの二人だ。

カッコつけたがりの弟としだけ高慢ちきな妹。京香が一番一緒に居た二人組。

京香を守って二人は壊れたのだ。

「清金 京香。よろしく」

「『キョウカ、良い名前だ! ぼくが壊れるまでの短い間だけど仲良くしてくれると嬉しいよ!』」

アネモイは逆さまのまま握手を求め、それに京香は応じた。アネモイの小さな手はガーゼ越しの生の様に冷たく、これが人間のではない事を示してた。

「『ハハハハハハ! 吾輩は霊幻だ! お前の様に聞き分けの良いキョンシーは素晴らしい! 任せておけ、吾輩達がお前を苦痛なく撲滅してやる!』」

隣に座る霊幻もアネモイの差し出された手を握り、ニカッと三日月形に笑った。

「言い方」

京香は霊幻の肩を軽く叩き、アネモイに「アタシのキョンシーが失禮でごめんね」と謝る。

「『良いよ良いよキョウカ! ぼくはあなた達に謝してるんだ! だって壊れかけのぼくがみんなに迷をかける前に壊してくれるでしょ? ああ、うれしいうれしいなぁ。ぼくはまれたまま終われるんだ』」

アネモイはニコニコ笑ったままだ。箸が転んでもおかしいと言ったような純粋な笑みで、らかそうで土気の頬が可らしく上がる。そこには年との魅力が凝集していた。

破滅願があるのではないだろう。きっとアネモイの思考はヨーロッパに盡くす様に作られているのだ。半世紀以上の長きに渡り、アネモイはこの地中海を中心でヨーロッパの空を彩った。

の存在がまれているというのは、抗いがたい魅力を持つ。それはキョンシーであろうが人間であろうが変わらない魔のキャンディだ。

そう言う意味でアネモイは世界で最も長い間、そのキャンディを舐め続けたキョンシーと言えよう。

このまま、求められた存在のまま、終わりたいという思考を京香は分からないでもなかった。

「『アネモイ、京香さんが困ってます。フワフワ浮いてないで座りなさい。危ないでしょう?』」

京香の前方の席に座ったセリアがコホンと咳払いしてアネモイのフードの先を摑み引っ張った。フワフワフワフワクルリと重さをじさせずアネモイはセリアの膝に収まった。

アネモイは特に抵抗する様子は無く、むしろそのから力を抜いて、セリアへもたれかかった。セリアの膝が、溫が心地良いのか、アネモイは眼を細めてその後頭部をぐりぐりとセリアに押し付ける。

年の離れた姉弟、あるいは姉妹の様だ。セリアとアネモイのに一切の強張りは無く、この一人と一が日常的にこうしてれ合っている事は明白だった。

「仲が良いわね」

「『そうだよ。ぼくはセリアととっても仲良しなんだ』」

アネモイは即答する。言われて嬉しいようで、口角をまたし強く上げた。

「……ココミ、わたしの膝に乗って。抱っこしたい」

「……」

セリアとアネモイの様子に何か対抗意識でも生まれたのか、リムジン後方のホムラが「よいしょ」とココミを膝に乗せ、ギューッと抱き締める。それに恭介は呆れた顔をしていた。

対して、リムジン前方に座るマイケルは「ほうほうほう! なるほど! すげえすげえ!」と小聲でぶという用さを見せながらセリアに座るアネモイを凝視していた。この貍腹のキョンシー技師は葉うなら一から十までアネモイのを調べ上げたいのだろう。

――まあ、そんな事したらマジで國際問題なんだけど。

アネモイのはほぼ全てがトップシークレットだ。無斷で一つでも機報を持ち帰ってしまった場合、下手したら京香達の暮らすシカバネ町は消えるだろう。

そうなると、シカバネ町という後ろ盾を失った京香の未來には暗雲が立ち込める。十中八九何処かの非合法研究機関に京香は捕まり、人間としての尊厳が消失するに違いない。

「『なあ、アネモイ。ちょっと脳とか調べさせてくれない?』」

「やめい!」

弾発言をする部下に京香は立ち上がり、平手で頭をバチコンと叩いた。

「『いや、大丈夫大丈夫だって! ちょっとだけちょっとだけ調べるだけだから! ちゃんと完璧に頭は閉じるし! むしろ能とか上げるから!』」

「やかましい! 國際問題に発展するって言ってんでしょうが!」

ワーワーギャーギャーハッハッハッハッハ! 何故か途中で霊幻の笑い聲も加わり車は一気に騒がしくなった。

「『フフフ。アネモイ、どうでしょう? 楽しい人達だと思いませんか?』」

「『そうだね。ぼくが壊れるまでのあとし。楽しく過ごせそう。ありがとう、セリア!』」

ワーギャーハハハ! マイケルに改めて言い付けを行う京香の後ろで、セリアとアネモイがそんな風に話していた。聲は穏やかでマイケルの失禮過ぎる発言、場所と狀況によっては取り押さえられてもおかしくない暴言を気にしていない様だ。

「良い? 次は無いからね? 次はノータイムでトレーシーぶち込むからね?」

「『そんな事したら俺の素晴らしい脳細胞が死んじまうだろうが! 人類の寶だぞ!?』」

「ほんとにマジでやかましいわ!」

――マジで撃ってやろうかしら?

本格的にトレーシーを出す事を考慮し始めた京香に、霊幻が笑い聲を一層強くして話しかけた。

「『ハハハハハハハハハ! 京香よ、落ち著け、座るが良い! 目的地に著いたぞ!』」

霊幻の言う通り、いつの間にか京香達が乗ったリムジンは目的地に著いていた。

どうやら京香とマイケルの言い爭いはそれなりの時間掛かっていた様だ。

リムジンは緩やかに減速し、三度のカーブを繰り返して停車する。

スクッ、ピョコッ。セリアとアネモイが立ち上がり、リムジンのドアを開けた。

「『さあ、皆様、おいで下さい。ここがアネモイの住むモルグ島の本拠地、気象塔です』」

「『來て來て! ぼくの部屋を案するよ! 味しいキャンディがあるんだ!』」

開かれたドアからアネモイはセリアの手を引っ張りながら飛び出し、続いて京香達もリムジンを出た。

「たっか」

思わず、京香は天を仰いだ。

そこにあったのは高い高い空への塔。

風の神が住み、その日の天候を決定する聖殿。

ヨーロッパ地中海のモルグ島の中央に聳え立った高さ七百メートルを超す気象塔だった。

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