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クレマンとの打ち合わせが終わったのは一時間とし後だった。太は完全に落ち、空のは黒へと変わっている。

用意されたディナー―これはめちゃくちゃ京香にとって味しく、ローストチキンに至っては涙であった―を食べた後、京香達は気象塔の中腹部にある居住用スペースに通され、各々の個室で待機していた。

部屋分けは、京香と霊幻、ヤマダとセバスチャン、マイケル、恭介とホムラとココミの四つである。クレマンへの要求通り部屋は広く風呂が付いていて、人間とキョンシー全員分のベッドと機が完備されていた。また、京香達がシカバネ町から持って來た荷類はクローゼットの中に置いてある。

「おお、良い部屋ね」

「そうだな。さて、吾輩はパトロールに行ってくる」

「待て。行くな。大人しくして」

ズシッと重いトレンチコートを椅子に掛け、京香は奧のベッドに仰向けにダイブする。

「ああ～、つっかれた～。あんな渉アタシに向いてないのよ」

「撲滅の為だ。向き不向きは問題ではない。やるかできるのかだ」

當初の予定通り、まずココミのテレパシーで二代目アネモイを完させることにった。この作業にどれくらいの時間がかかるのかはまだ分かっていないが、マイケル曰く「まあ、大一週間くらいじゃないか？」との事だ。

そして二代目アネモイが正常に起し、想定通りのエアロキネシスを発現した事を確認でき次第、初代アネモネを破壊する。

――気乗りしないわねぇ。

京香はキョンシーが壊れる姿をあまり見たくない。そんな自分が遠くない未來、

「ねえ、霊幻。アネモネを破壊せずに済む方法ってあるかしら？」

「全く分からん。だが、あったとしても、京香、お前が取れる選択肢ではないと推測されるな」

「そうねぇ。その通りだわ」

京香にできるのは、戦う事くらいだ。アネモイを壊さない様な政治的立ち回りはできないし、

それに、仮に壊さないで済んだからと言って、自分ではアネモイを守れないと京香は分かっていた。

「あのさ、アネモイの事どう思う？」

「どうとは？」

「戦闘的な意味で。ぶっちゃけるとさ、アタシ勝てる気がしないんだよね」

「アネモイの自己防衛機能の度合いによるな。手加減が無いのなら吾輩とお前が百いても勝ち目がないだろう」

「そうよねぇ。どうしたもんかしらねぇ」

京香は晝間見た、アネモイのエアロキネシスを思い出す。

全く知できなかった、おそらく真空の刃。

一切のれが無い、完璧な空中浮遊。

アネモイの戦闘能力が自分達よりも遙かに上にある事を京香は見抜いていた。

比喩ではなく天と地の開きがある。アネモイがやろうとすれば、何の抵抗もなく京香のと骨で出來たらかい首は地へと落ちるだろう。

エアロキネシス。これを敵に回した時、最も警戒するべき點は〝見えない〟という點だ。

瞳に付けたマイケル作のコンタクトレンズがＰＳＩ力場を知する。アネモイがエアロキネシスを使っている事は見れば分かるだろう。だが、一度エアロキネシスが発した後の空気分子のきにＰＳＩは関わっていない。そこからは只の理學の領分だ。

「ヤマダくんならば対応できるのではないか？　ラプラスの瞳があるのだから」

「ヤマダ達じゃ分かっていても避けられないわよ。アンタみたいな能力がセバスさんにはないんだから」

「それもそうだな。セバスチャンも吾輩の様にを機械化できれば良いのだが」

「無いねだりね」

京香は思考する。どの程度までアネモイが弱化すればアネモイを壊せるだろうか。もしくは、自分達にどの様な援軍があればアネモイと張り合えるだろうか。

そんな思考をしながら寢転がっていたベッドはフワフワでとても気持ちが良かった。

「……ふぁ」

小さな欠の音が京香の口から出た。実は海外に來たのは京香にとって初めてだった。

――結構疲れてるわね。

時差のズレ、長時間のフライト、晝間の戦闘、その他諸々。疲労を京香は自覚した。

それらを意識した途端に眠気が京香の瞳を襲う。

「ん？　京香よ、眠るのか？」

「いや、お風呂りたい。そしたら寢るわ」

このまま橫にっていたら確実に寢落ちする。そんな確信を得た京香は、完全に頭がスリープモードにる前に風呂にる事にした。

よいしょ、とベッドから起き上がり、パッパッパっと服をぐ。パンツ一丁の姿にるが京香は気にしない。この部屋には霊幻しか居ないのだ。今更恥ずかしがる相手ではない。

クローゼットに向かい、著替えの下著を出して置き、京香は部屋備え付けの浴室へとる。

「おお～」

京香の部屋セセラギ荘２０２號室よりも広い浴室だった。掃除が行き屆いており、何というか高級がある。風呂釜の深さはヨーロッパ式で何というかつるんとし淺いが、これはこれで新鮮である。

「え～とお湯は」

壁のスイッチを押すと、すぐに風呂釜に湯が張った。

そうして、京香は多テンション高めに浴し、歯を磨き、ベッドに潛って瞳を閉じた。

現地時刻は未だ午後九時。持って來た攜帯ゲーム機で遊ぶのも良かったが、眠気には勝てなかったのだ。

「それじゃ、霊幻おやすみ。大人しくこのアタシの傍に居なさい」

「了解。おやすみだ、京香」

ピッ。部屋の明かりが消え、ほどなくして京香の意識は闇に落ち、寢息を立てた。