《俺+UFO=崩壊世界》荒野に神はおらず

さて、報収集はこの位でいいだろう。

高い場所から周囲の狀況を眺めていた砲兵の人達が何も見てないと言うなら、もう何も期待できないしな。

エレベーターから降りてフェニル先輩と橫並びで談笑しつつ、自分達の車両に戻ろうと足をかす。

當初はクールで知的な人かと思ったが、彼は結構冗談を口にしたりもするし、時折に笑顔を見せる。

勿論、それは俺にとって好ましい格だ。

思えば、組合に所屬してからマトモな會話をした初めての同業者ってフェニル先輩か?

あくまで弓さん達を除いたら、ではあるが。

いや……違う!! 初めて話したのはキリエさんだったか!!

あの時は後で田中さんの説明を聞いて大変に驚いたよ。

そんな短いながらも楽しい時間はどうやら終わりの様だ。

視線を前に向ければ、既に自分達の車両が停車してる場所が見えてきている。

藤宮さん達も此方を視認できたのか、心なしかし安堵した様子で大手を振ってきた。

それに手を振り返しながら近づこうとした所で、隣を歩いていたフェニル先輩が足を止める。

「さて、ソウヤ。これをけ取れ」

「っと……え? あの、何ですかこのボタは?」

突然此方に向かって投げられたを咄嗟にキャッチすると、それはボタがったホルダーであった。

見た所、五百ボタがる板狀のホルダーだ。

「昨日の報代と今日の分だ。ソウヤにばかり負擔させてしまったからな」

「いや、でもこんなに? し多い気がしますが……」

確かに弾や缶詰を幾つか失いはしたが、五百ボタも貰うほどではないぞ。

思わず戸ってフェニル先輩を見つめるも、當の彼は不敵な笑みを浮かべてこう返す。

「申し訳ないと思うなら、集めた報をカークスへ報告するのは君がやっておいてくれ。それと……し多いのは寫真の代金分だ。ふふ、楽しみにして待ってるからな?」

なるほど、上手い言い訳だ。

そう言われちゃ降參するしかない。

此方も笑顔を返しながらホルダーをし掲げて見せ、ありがたく懐に仕舞う。

「ではな、ソウヤ。また後で會おう。今日は楽しかったぞ」

「はい、また後で。俺も楽しかったです」

そう言って藤宮さん達の所に戻るフェニル先輩を見送り、俺も自分の車両へと足を向ける。

何だか、デートした後の會話みたいだったな。

そう思うと何処かむずい気分になるが、そう悪いでもない。

「ただいま、ラビィ。異常は無かったか? ……誰かに晝食をわれたりとか」

「おかえりなさい、沿矢様。何も異常はございませんでした。晝食にもわれていません」

昨日のナンパ相手が誰だが知らないが、そうしつこい人ではなかったみたいだな。

あんまり酷い様ならその人に一言だけでも注意せねばなるまいと思ってたが、その必要もないみたいだ。

「なぁ、ラビィ。きの良い無人兵とベース・ウォーカーって何か関連があるか? 実は此処を襲撃してきた無人兵の中に、一機だけ手強いのが居たらしいんだよ」

俺がそう問いを投げかけると、今まで靜かに周囲に視線を向けて警戒していたラビィが瞬時に此方を向く。

思わずその機敏な作にビビッてしまった。

こういうのを見ると、彼が機械である事を思い出させられる。

「……それは厄介な事になりました。ベース・ウォーカーが擔う役割は無人兵の輸送、回収、整備、修理だと言う話はしましたね?」

「あぁ、前線基地代わりなんだろ? 言わば、く要塞で化けじみた戦闘能力も持つ」

「はい。ですから、そのきの良い無人兵とやらは、もしかしたらベース・ウォーカーで整備された機だったのかもしれません」

……あぁ!! なるほど、そういう見方もあるのか。

し考えれば分かる事だとは思うが、全く気づかなかった。

フェニル先輩の指摘通り、ただネームド付きが紛れ込んでるだけと思ったよ。

「昨日、ラビィはこの時代で目覚めてから初めて無人兵と対峙した時に違和を覚えました。私の記録にあるきよりも遙かにきが遅い、と。しかし、し考えればそれは當然の事でした。かの機は數世紀の間まともな整備をけていなかったのでしょう。あれがもし完璧な整備をけていたとしたら、恐らく死者が出ていたでしょうね」

「マジかよ……。それでも結構苦戦したんだがなぁ」

昨日戦った相手は言わば、最終ラウンドの疲れきったボクサーだったと言う訳か。

にしても、整備をけた機はネームド付きと同等のきが発揮できるのか。

……ちょっと待てよ。それって凄く不味くないか?

「つ、つまりベース・ウォーカーの周囲に居る無人兵達は完璧な狀態って事か? 弾とか裝甲も問題なし?!」

「弾は部に専用の製造プラントを持つ機種でないと生産できません。しかし、裝甲やパーツの整備ならばどの機種でも問題なく行えますね。ただし、あくまで材料となる素材が必要ではあります」

なるほど、確かに化けだ。

ベース・ウォーカーの一番厄介な所は味方である無人兵達の狀態を萬全に維持できる事だったのか。

そりゃ皆がうろたえたり、怯えたりする訳だよ。

「……はぁ。とりあえず、カークスさんに報告してこないとな」

何とも気が滅る話ではあるが、だからと言って報告を怠る訳にはいかん。

とりあえず、この話でベース・ウォーカーの存在を裏付けるとまではいかんが、可能は高くなった。

し小走りでカークスさんが居るであろう偵察戦闘車両の近くへと向かう。

すると彼は丁度フィブリルさんや隊商の人達と話している最中であった。

恐らく、ベース・ウォーカーが居るかもしれないとの主旨を話しているのかな?

「あの、カークスさん。今し良いですか?」

「ん? 木津君か、どうした? もしかしてもう何か摑んだのかい?」

カークスさんはそう言って確認を取ってくる。

それだけならいいのだが、何故か隊商の人達や私兵連中も期待の眼差しを向けてきた。

「えぇ、守衛の人や上にいる砲兵の人達に話を聞いてきました。彼等がじた異常はまず明らかに襲撃回數が増えた事です。次にその襲撃してくる無人兵も単獨ではなく複數で同時に攻めてきた事。しかも一番重要なのが、その中に明らかにきの速い一機が紛れ込んでたみたいなんです。ラビィに聞いたら、それはもしかしたらベース・ウォーカーで整備された機の可能があるらしくて……」

俺がそう報告を終えると、何故か後ろの隊商の人達や私兵連中が我が意を得たりと言わんばかりの表を浮かべている。

「ほ、ほら!! 聞きましたか?! フィブリル隊長、これは狀況証拠的にもうベース・ウォーカーが居るのは確定的ですよ!!」

「恐らく、襲撃回數が激増したのはバハラのハンターがベース・ウォーカーとの接近を避ける為に狩りを一時的に中斷したからかもしれない」

「何ヶ月近くも狩りもせずに放置してれば、放浪してた無人兵同士が遭遇してグループを組みやすくもなる。多分そうだろうな」

そんなじで突然に一斉に口を開き、各々が意見を述べ始めた。

カークスさんは口元を片手で押さえながら唸り聲を上げ、深刻な表を浮かべている。

恐らく、彼もいよいよベース・ウォーカーの存在する可能を真剣にけ止め始めたのだろう。

リーダーである彼には難しい狀況なだけに、その苦悶の表は見ていて実に痛ましい。

「――皆さん、靜かにしてください」

突如として、靜かに言い放たれたその凜とした言葉。

それはフィブリルさんが放ったであった。

は腕を組みながら此方を眺めており、その表は実に落ち著いただ。

「木津さん。その話、信憑の程はどれ位あると思いますか?」

「え? そう、ですね。ここの砲兵の人達は凄腕みたいでしたし、見間違いとかではないとは思いますが」

「そのきの良い無人兵とやらは一機だけでしたのでしょう? なら、単にネームド付きが混じってただけかもしれませんわよね?」

「……まぁ、かもしれませんね」

「それに、結局の所は誰もベース・ウォーカーを目撃していないのでしょう? ならば、何とも言えませんわ」

そう言われたらそうだが、しばかり楽観的ではなかろうか?

とは言え、依頼主である彼に対して下手に逆らう訳にもいかない。

が、同じく雇われのであろう隊商の人達が果敢にも口を開いた。

「フィブリル隊長。まさか、まだ南下するつもりなんですか?」

「當然です。それが元々の目的なのですから」

フィブリルさんがそう答えると、質問した男は唖然とした表を浮かべる。

どうやら、彼はここら辺で旅を切り上げたかった様だ。

が、そう思っていなかったのは彼だけでは無かった様である。

更に一人が堪らずと言った調子で一歩前に踏み出し、抗議の聲を上げた。

「フィブリル隊長! 仮にベース・ウォーカーが居なかったとしても、無人兵の攻勢が増しているのは事実です。何らかの異常がこの周辺で起こっているのは確かなんですよ!?」

「そういう事態にも対抗できるようにと、組合に依頼を申請したのではないですか。事実、彼等は既に厄介なステルス型を死者も出さずに三機も撃破しています。心配する事はありません」

「そ、そうは言いますが……」

そう渋る男を黙らせる為か、フィブリルさんはスラリとした細い指を一本だけ立てて見せ、続けて放たれるであろう言葉を塞き止めた。

「これ以上、話す事はありません。皆さん、もう休んでくださって結構です。明日の朝にまた南進します。これはこの隊商の代表者としての命令です」

方針は変わらず、こうして南進する事が決まった。

此方としてはバハラまでの護衛が仕事なわけで、多のリスクがあろうが従うしかない。

しかし、これまでキスクから長い旅路を続けてきた隊商の人達は思う所があるのだろう。

度重なる危険を何とか跳ね除け、各所で商売をしてきた彼等の疲労とストレスは高まっている。

それは今回のフィブリルさんの方針に対し、誰も了解の返事を返さなかった事で容易に分かった。

『カークスさん、しやばくないですかね? ベース・ウォーカーがどうこうってか、このままじゃ部崩壊しそうですよ……』

『そうだな。しかし、彼等はあくまでフィブリル殿の部下だ。私達が口出しする事はできないし、もししたとしても彼格を考えるに、最悪として気分を逆でする危険もある』

確かに、彼は上に立つ者の見方をしている。

だから悪いって訳ではないが、今の狀況ではそれがしばかり厄介な狀況だ。

こんな調子で、はたしてこの旅は無事に終える事はできるのであろうか。

思わず神に縋りたくなる様な狀況ではあるが、外に広がる景は崩壊した世界の罅割れた大地。

そんな悲慘な景が、神に祈る行為など無駄だと斷言しているかの様にも見え、知らず知らずのに俺は思わず溜め息を零してしまった。

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

ヤウラは相変わらず平和に満ちていた。

異常があるとすれば南からの無人兵襲撃が相次ぎ、迎撃戦が連続して発しているのだが、組合の勇士達は自分達の懐が暖かくなると単純に喜ぶだけである。

にも勇士達の手腕が見事なおもあり、自分達で相手する機會がない為に南駐屯地の軍人達はその不穏な変化に気付けずにいた。

今はまだ、誰もが南に起きている異変に気付いてすらいなかった。

いや、厳にはヤウラの組合長であるウォルフ・F・ビショップは南の向に一人だけ注意を向けているのだが、未だに確信を持てずにいた。

彼の考えではクルイストの帰還でもたらされる報、あるいは消息が途絶える事で警戒態勢に移行するべきかを悩んでいる。

それはさておき、玄甲部の醫療エリアに珍しい客人が訪れていた。

その人は実に見事なふくよかな腹ともの寂しい頭部を兼ね備えている、剛塚 茂道大佐その人である。彼は白で裝飾された醫療エリアを闊歩しながら、瞼を細めて不機嫌な様子だ。

「白の壁に白の制服、おまけに白の手袋とマスク……。スタッフのが見えてなかったら、覚異常になったと勘違いしそうだ」

そう愚癡りながら、剛塚は腹を揺らして歩を進める。

今の彼には護衛の兵士は付いておらず、一人寂しく廊下に足音を響かせて行く。

薬品の匂いとアルコール獨特の香りに耐えながら、彼は遂に目的の場所へと辿り著いた。

扉のドアをノックするも、彼は返事も待たずにそのままドアノブを回す。

「剛塚大佐、これはお早いお著きで……。この通り、インスリン注薬の準備はできております。さぁ、そちらの椅子にお掛けください」

部屋の中には醫者が一人だけで滯在しており、彼は脇のテーブルに置いていたインスリン注薬を手にして腰を浮かせた。が、剛塚はそれを片手を向ける事で相手のきを靜止し、椅子ではなく傍らに置かれていたベッドに腰を下ろす。

う醫者を前にし、剛塚は憮然とした表で言い放つ。

「ドクター、それは必要ない。糖尿病の治療と連絡したが、それは此処に來る口実であり、私は至って健康なのだよ」

「え? こ、口実ですか? それに健康……ですか?」

ドクターは驚きに目を見開きつつ、剛塚を眺めた。

剛塚はそんな相手の反応に苦笑し、自らの腹をでる。

「その目線は無禮だぞ、ドクター。まぁいい、理由を説明しようか。軍と言う組織では階級が高くなると、外だけではなく部に居る敵も増えるのだよ。怪しい行をすれば、直に監視の目が纏わりつく。が、今回はこの型を利用して一芝居打った訳だ。ふはは、思わぬ利用価値もあったものだ」

「は、はぁ……。では、治療が目的ではないのだとしたら、一何が目的で?」

「うむ。木津 沿矢君のカルテを見たい。彼が退院してすぐに此処を訪れれば、私が彼に興味を抱いてると付かれるやもしれんでな。こうしてけない理由を作って態々と此処へ訪れたのだよ」

「……木津? あ、あぁ! 貴婦人を退けたあの年ですか」

醫者は一瞬誰の事かと戸ったが、直に記憶の中から沿矢の顔を探り當てる。

あの発騒はここ最近でも……否、ヤウラ史を鑑みても例を見ない大騒であった。

故に、この街に住む大抵の者達の記憶へと強く焼き付けられているだろう。

例外として言うならば、メイン居住區を除いて……と付け加える必要があるが。

「彼のあの異常な膂力……私はアレに強く興味を抱いている。醫學の面から見て、何か分かった事はないかね?」

「えっと、々お待ちください。カルテをお持ちしますので」

ドクターはそう言って、傍らに置いていたPDAに手をばす。

しかし、剛塚は突然に大聲を上げ、それを靜止した。

「あぁ、いや!! この事は他言無用で頼む。面倒だと思うが、自分で取りにいってくれないか?」

「了解しました。では、失禮します。直に戻りますので……」

「うむ。頼む」

部屋からドクターが出て行くのを見送ると、剛塚は制服の首下を緩めてラフな著心地にする。

そのまま疲れた様に息を吐き、一人靜かに笑みを零す。

「ふっ……それにしても、糖尿病か。我ながら、何ともプライドの低い言い訳だ」

醫者に連絡を取った手段は極普通の通信電波であり、恐らく自を敵視している者達にもその連絡は傍され、伝わっているだろう。

しかし、それでいい。

己が如何に慘めで、醜く、どうしようもない奴だと思われた方が都合が良い。

敵対する上で厄介な事は、相手に警戒されてしまう事である。

それに比べれば、この程度の恥は安いだ。

剛塚はそう自分に言い聞かせ、心を落ち著かせた。

愚かと言うか、當然と言うべきなのか。

何時の時代も権力爭いと言うは存在し、剛塚もそれに関わる當事者の一人である。

彼は目まぐるしい戦績を上げてり上がった魅竹準將とは違い、他都市との報戦に打ち勝つか、軍部のライバルの不祥事を利用して暗躍してきた。

言うなれば魅竹準將は一般人が思い浮かべる様な理想の軍人であり、剛塚はその対極に位置する生き方であった

だが、誤解しないでほしいのは剛塚の様な人材も軍と言う組織を運営する上では、不可欠な要素なのだ。

敵対勢力への諜報は當然ながら重要であり、軍部へ目をらせる存在と言うのもまた、使い方を誤らなければ実に役に立つのである。

ただ、そのおか剛塚を敵視する存在も多く、こうして慎重な行をするに至った訳だ。

ちなみに言うと魅竹準將の剛塚に向ける敵対心は、ただ単に相容れないじ取っているからである。剛塚自もそんな理不盡とも思える敵対心に強く反発しており、彼と口論する機會も多い。

金も名譽も家族すら手にしたお前が、どうして自分を目の敵にする?

剛塚はそんな嫉妬心を抱きながら、魅竹準將への敵対心を憎悪へと昇華させてしまった。

ただ、最近の魅竹準將は息子の不祥事のおで落ち目であり、剛塚もかにほくそ笑んでいる。

それよりも今問題なのは"他の奴等"だ。

「どいつもこいつも、ミシヅへの対応を後手に回しおって……。向こうはもう既に落ち著いてしまっただろうな」

結局、ノーラの処遇は後回しにされ、ミシヅへの報告もまだと言うたらく。

そのおか、貴婦人の下へと暗殺者が送り込まれる事態にまで発展してしまった。

だが、紅姫が珍しくやる気を出してくれたおもあり、それを利用してヤウラに潛伏していたミシヅの諜報員を多く始末できた。

結果的に言えば、今回の件はヤウラの勝利だろう。

しかし、それが紅姫のおと言うのが剛塚は気に食わなかった。

――他の奴等は今回の勝利に酔ってはいるが、目を覚ましてしいだ。何時まであの様なじゃじゃ馬を當てにするつもりなのだ。

そう、今回の勝利は紅姫のきがあってこそだ。

なのに、だ。軍部はそれを良しとしており、自分達の実力を見直そうとはしていない。

紅姫と言う個人を當てにするあまり、軍部全きが鈍ってきている。

剛塚はそれを懸念し、危うい狀態だと危懼していた。

がまだ素直に言う事を聞くのならそれでいい、幾らでも利用しよう。

が、現実では軍が彼の顔を伺い、協力を要請する関係でしかない。

何時かその不安定な狀態は破綻し、必ずや"痛い目"に合う時がくる。

紅姫と言う存在はヤウラではあまりに大きいが、その支柱を酷使すれば何時かは壊れるだろう。

軍部がその依存からせないのであれば、その前に代わりを見つける必要がある。

剛塚はそう考え、沿矢に目を付けた。

彼は紅姫と違って親しい友人も居るし、教會の子供達にも好かれている。

これ程に"弱み"を抱えた存在が、いずれは紅姫に匹敵し得る力を有しているかもしれないのだ。

そうでなくてもだ、彼は極一般的な価値観を備えており、軍と敵対する事を恐れていた。それは実に幸運な事だ。

何も脅す必要は無い、普通に高額の依頼料か、それに値する品を用意すれば良質な協力関係も築ける可能もある。気まぐれな紅姫と違って沿矢の行は実に予想しやすく、不安定要素がないのが魅力的だ。

ともあれ、上記の考えを剛塚が有している事からも分かるとおり、彼は沿矢に新たな借金を背負わせるのに否定的であった。いずれは協力関係を結べるかもしれない相手に対し、敵対心を植え付けるのは得策ではないと。

だが、沿矢自へと目を向けていた剛塚とは違い、軍の上層部は高能なヒューマノイドに強く興味を示してしまう。その結果として沿矢に新たな負擔が圧し掛かったのだが、それは當初の六百萬と言う途方もない額ではない。

そもそもそんな軍の決定に不服していた剛塚は、ラビィの正論を聞いて覚悟を決め、迫田の件を會議で持ち出して借金の総額を二百五十萬まで減額する事に功した。

ただ、迫田が起こした事件は軍では句にも近い扱いでもあり、そのおで多くの者から敵視されるか、警戒心を抱かれてしまう結果となってしまう。故にだ、態々と今の様に慎重な行を取らざるを得ないのだ。

そんな風に剛塚がこれまでの行を思い返していると、ようやく部屋にドクターがカルテを抱えて戻ってくる。

「お待たせしました。これが木津 沿矢のカルテです」

「おぉ、一目で分かったよ。彼の右腕に浮かぶ黒い一線……これは一何なのだろうな?」

差し出されたレントゲンを手に取り、天井のライトのに當てると直に剛塚の目に付いたのが沿矢の右腕だ。

カルテを取りにいくのによほど急いでいたのか、ドクターは靜かにれていた息を整え、額の汗をハンカチで拭いながら口を開く。

「私もそれが気になりました。當初はMRI検査をしようとも思ったのですが、それが金屬質である場合には不測の事態も起こり得る可能が高く、殘念ながら見送りました」

「ふむ……。至近距離で発をけた際に、被験者のへと異り込んでしまい、ソレが取れだせなくなると言う事例はよく聞くが……これはそうではなさそうだ」

沿矢の右腕に浮かぶ黒い異の周囲には、細かい破片などは無い。

つまりとして言うなれば、発をけた際に右腕にり込んだ異ではないのだろう。

仮に手か何かで細かい破片を取り出していたのだとしても、黒い異だけを取り除かなかったのは不可解だ。

「まぁ、これはそんなに気にしなくてもいいだろう。私が興味を抱いているのは彼のだからな」

そう言って笑みを浮かべ、瞼を細める剛塚の表を沿矢が見たら、あらぬ誤解を抱いただろう。

何せ、剛塚と向き合っていたドクターですら背筋に悪寒が走る程であったのだから。

そんな自分の態度を気取られぬ様に、ドクターは診療録を手にして口を開く。

「彼は通常では有り得ない膂力を有しているとは言いますが……。特に彼のに異常は見られませんでした。莫大な膂力が何処から生み出されるのか調べるとすれば、まず筋組織の構を調べるのは一般的でしょう。ですが、彼は至って普通の人男のそれと変わらない筋でした。當初はミオスタチン関連筋大に似た癥狀か何かを発見できると期待したのですがね」

「ほう? に異常はなかった? それは……ますます興味が出てくる結果だな」

剛塚は唸る様にして呟き、口元を押さえた。

彼の目から見ても沿矢は極普通の型であったし、今の言葉に異論をじはしなかったのだ。

「続けて、彼のを採取して調べて見ました。もしかしたら軍事用のナノマシン『SB』が検出するのではと疑っての検査です。ですが……これも駄目。おかしい所があるとすれば、外居住區に住まう人間にしてはし綺麗すぎたと言う點くらいですかね」

「SBか、それは考えてなかったな。だが、あれはアドレナリンのきを作して戦意を高めたり、痛みを抑制する程度のだろう?」

Soldier Blood、略して『SB』と呼ばれるそれは、前世界の軍事施設等で偶に発見される軍用ナノマシンだ。

前世界では戦いに出る兵士がそれを服用し、戦果を向上させていた。

だが、機械による代理戦爭に拍車が掛かるにつれて戦場へ出る兵士もなくなり、SB関連の研究は次第に廃れていった流れである。

故に発見できるSBはそう多くはなく、今の荒廃時代ではかなりの高値が付く。

なんせ、今の時代は生の人間が數多の無人兵と爭う世界なのだ。

の戦闘力が向上できるあるのならば、誰でも手にしたい一品であるだろう。

「それは一般の兵士に提供されていた『G型』です。中には極限まで集中力を上げて撃の度を向上させる『S型』や、五を増幅させる『A型』と言うSBも存在しています。ただ、G型以外のSBはかなり発見し辛くもあり、まだまだ発見されてない他の種類が存在しているのではないかとも言われているんです」

「ほう、なるほどな。しかし、木津君の中からナノマシンは見つかっておらず、SBが膂力を生み出している可能も無くなった訳か……」

「はい。これには參りました。こうなると、普通の醫療検査では彼の異常を突き止めるのは困難です。詳細を確かめるとすれば、彼自にお願いしてモニターする許可を取り、複數の醫者の立會いの下で経過を観察する位しか手段はありませんね」

「ふーむ……。いっその事、本人に直接事を伺ってみると言うのも手か?」

剛塚はそう言って頭を悩ませ、低く唸る。

だが、それを実行しても沿矢自は戸ってみせるだけだろう。

馬鹿正直にUFOどうこう等と言い出せば、正気を疑われるだけである。

「ふっ、まぁいい。むしろこの様な結果で満足した気もする。ヒーローのと言うは、解き明かされると途端につまらなくなるものだ」

剛塚はそう言って微笑み、手にしていたカルテをベッドの上に放った。

そんな彼に対し、ドクターは怪訝な表を向ける。

「ヒーロー……ですか。彼が?」

「そうだ。彼は何処からヤウラに來たかも不明であり、軍の調べではその前の痕跡を一切として知る事ができなかった。それだけじゃなく、彼はヤウラに來た翌日にはあの壊し屋と対峙して見事に勝利し、その後は組合へ所屬する経緯を辿る。そして初めての探索で訪れたクースでは見事に二人の同業者を助け、百式を破壊する事にも功している。恐らく、あのヒューマノイドも病院の地下に隠されていた施設から発見したのだろうな。ここまで聞いただけでも、既に輝かしい戦績だろう? 出自不明の若者……まるでコミックに出てくる主人公の様じゃないか」

まるで年の様に目を輝かせながら、剛塚は楽しそうに笑う。

ただ、それを見せたのは一瞬だけであり、ドクターが瞬きした次の瞬間には何時ものへと変わっていた。

「今日は々と助かったよ、ドクター。下らない噓で君の時間を割いて悪かった。できれば、この事は他言無用にしてほしいのだが……頼めるかな?」

「も、勿論です。私はただ、貴方の治療をしただけ……そうでしょう?」

そうドクターが確認を取ると、剛塚は満足そうに頷いて部屋から出て行く。

殘されたドクターは遠ざかる足音が完全に消えるまで敬禮し、直立不の姿勢を崩さなかった。

暫くの時が経ち、ようやく敬禮を解除したドクターは溜め息じりで呟く。

「……ヒーローか、そんなのより神が居てほしいものだ。こんな荒れ果てた世界では特に……」

哀愁漂うその言葉が、彼の背中に浮かぶ切なさをより濃くしていた。

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