《星の見守り人》011 探査船コランダム777の見學
私たちが去った後で、ハルナ3曹がイワシタの案を始める。
「それではまずは定番どおりに本船の見學から始めましょうか、どこか最初に見てみたい場所はありますか?」
「いやあ、そうは言われても全くわかりませんからなあ。
お任せいたします」
「では、基本どおりに機関室から始めましょう」
そう言うと、ハルナ3曹もイワシタを連れて部屋を出る。
「ここが主機関室です。
本船は第3世代型汎用探査船として、探査船としては始めて相転移機関を採用いたしました。
おかげで速度はグンと上がり、巡航速度25L/Dは出ます」
L/D (エルディーもしくはライトデー)とは速度の単位で(年/一日)の事で、一日に何年進むかをあらわしている。
つまり25L/Dと言えば、一日に25年を進むという事になる。
超速船が出來た頃は速の何倍かで速度を表す「速」が単位として使用されていた。
たとえば速の100倍ならば100速である。
しかし次第に宇宙船の能が上がり、365速、すなわち1日で1年を超える速度になってくるとL/Dが使われ始めていた。
28世紀現在の速度表現はL/Dが標準だ。
「それは凄い。私の船の10倍以上の速度ですね?」
「ええ、イワシタさんの船は70年前の型で、エンジンも新しくした方とはいえ、50年前の舊式対消滅機関ですからね。
殘念ながらそれくらいの差は出てしまいます」
「次は大工作室です」
「ここは當船自慢の設備の一つで、その気になれば20m級の宇宙船ならばこの場所で建造する事も可能です。
この場所以外でも何箇所か工作室はあり、宇宙船に限らず、大抵のは船で製作が可能です」
「なるほど」
「こちらは格納庫です」
「ここ以外にも何箇所か格納庫はありますが、それぞれイワシタさんも利用した醫療艇や工作艇、連絡艇や出艇など様々な艦艇が格納されていますね。
全部あわせれば50隻以上になります。
一番多いのはもちろん探査艇で、一般探査艇だけでも21隻、他の探査艇も合わせれば十種類、三十隻以上になります」
「それは凄い種類と數ですね」
「ええ、この探査船は完全水球天や砂漠天、ガス星や氷星と様々な狀況に対応出來なければなりませんからね。
一般的なから水中用、地中用、高溫高圧大気用、低溫環境用、高酸用と、々揃えてあります。
そして場合によっては、全く未知の環境に対する探査艇の製造も可能です」
「なるほど」
「次はトレーニングルームです。
ここは船でを鍛えるための部屋で、各種トレーニング機が揃えてあります。
この他に船をジョギングしてを鍛える人や、プールで泳ぐ人、それとやはりスカッシュが人気ですね」
「スカッシュですか?」
「ええ、存知のように、いわゆる玉の壁打ちですね。
狹い場所で最も運量が多く、に良いのはスカッシュか、全運の水泳とされているので、そのどちらかをする人が多いですね。
他の競技と違って、両方とも一人でも可能ですからね。
プールの方は、この船位大きくないと裝備できないですが、スカッシュは比較的小さな船でも設置可能なので、銀河連邦の多くの船にはスカッシュ室が設置されていますね。
特に軍艦では有人艦最小の駆逐艦でもスカッシュ室はあります」
「なるほど」
「次はお風呂です」
「お風呂?」
「ええ、もちろん大部屋以外の部屋には各部屋に風呂はありますが、大部屋の人や、広いお風呂にりたい人用に大浴場が用意されています。
最近の研究でも、同じお風呂でも個人用の小さな風呂と、こういった大浴場では神作用の効果に違いがある事がわかっています。
もちろんイワシタさんもご利用できますから、當船にいらっしゃるに一度いかがですか?」
「ははあ・・・なるほど、これは確かに一度っておきたいですね」
「壁には風景畫映し出されますので、その時のお好みで変えられます。
湯船も溫浴と水風呂があるので、好きにれます。
あちらの端にサウナ室もあるので、サウナで汗を流した後で、水風呂にる事も出來ますよ」
「なるほど、それは素晴らしいですね」
「ここが司令室兼艦橋です」
「おや?船長代理はいないのですか?」
「この時間だと、船長代理は探査室の方にいらっしゃいますね」
「探査室?」
「ええ、この船は本來探査船ですから、あの方は船長代理兼探査隊長でもあります。
この探査船では人間はあの方しかおりませんので、両方に顔を出さなければならないので、中々忙しいようですね」
「なるほど、船長代理殿も中々大変ですなあ・・・」
最後に案されたのは水耕栽培室だった。
「そしてここがイワシタさんも食べていらっしゃる、お米を作っている水耕栽培農園ですね」
「おお・・・ここが・・・」
「そうですね。
日本のいわゆる戦國時代くらいまでは一反一石、つまり約千平米で、年あたり百五十kgほどの収穫でしたが、江戸時代に堆や農の改良で、二倍近い収穫が可能になりました。
さらに二十世紀になると、品種改良や農業學の進歩で、1反で三石は収穫可能となりました。
そしてこの水耕農園では同じ面積あたりで五石の収穫が可能です。
この水耕農園では一年の収穫量はざっと四十五石、つまり6750kgの収穫が可能です」
「なんですって?
それは1反當りの面積でですか?」
「はい、昔の日本では米の収穫は1年に1回が普通でしたが、暖かい地方では二期作も可能でした。
そして東南アジアの溫かい地方では三期作も可能でした。
この水耕栽培室では、稲の品種改良との照加減で、最高年間九期作も可能なので、1反當り、五石の収穫が9回で、約四十五石の収穫が出來ます」
「それは凄いですね」
「これで一応居住區以外は、一通り本船の機能を見學していただきました。
他にも本來でしたら大食堂ですとか、売店などもあるのですが、本船は獨員探査船のためにそういった施設は機能していません。
さすがに人間一人のためにそこまでかすのは非効率的過ぎるので、船長代理の希もあって閉鎖中です」
「船長代理の希?」
「ええ、探査船によっては全く使わなくとも開けている船もあるようですが、うちの場合は船長代理が、いくらなんでも自分一人のためにそこまでするのは無駄すぎる!とおっしゃって」
「ははっ、なるほど」
「これで居住區以外の案は終わりです。
いかがでしたか?」
「いやあ、本當に立派な船で驚きました。
しかもあまりにも広いので、あなたの案がなければ迷子になりそうです」
「そうですね。
もし自分の位置がわからなくなったら、各所にあるパネルを作していただければ、自分の位置が確認できますよ」
「なるほど、便利なものですなあ」
「では、居住區に參りましょう」
「はい」
船の見學を終わったイワシタ氏がハルナ3曹の案で、居住區に到著する。
「そして今から案するのが、今日からあなたが寢泊りする一般居住區ですね。
ここは狀況に応じて一人部屋、二人部屋、四人部屋、大部屋と分かれていて、全部で四十人ほどは生活可能です」
「なるほど」
「イワシタさんがこれから宿泊する予定の部屋は上級個室で一般士用の部屋とほぼ同じつくりで、寢室とリビング、キッチン、トイレと浴室に庭があります。
さあ、どうぞ」
そう言って部屋の扉を開けると中にハルナ隊員が案をする。
そこはいうなれば1DKのような造りだったが、中は広く、暮らしやすそうな部屋だった。
何よりもイワシタが驚いたのは、部屋から見える庭がある事だった。
その庭はリビングの隣にあり、橫5m、奧行2mほどの小さな庭ではあったが、その小さな空間に砂利と庭石に囲まれた小さな池があり、天井や壁は青空のような見栄えになっており、実際の広さよりも遙かに広く見える設計になっていた。
その小さな池には鹿威しで水が流れ込み、池の中には巧なロボットの錦鯉が優雅に數匹泳いでいて、その風景は浴室からも見える設計になっている。
風呂にって湯船で寛ぎながらその風景を眺めるのを知ったイワシタは驚きながらも大変気にった様子だった。
「他のはともかく庭があるのには驚きですね」
「ええ、神安定のために部屋の中から見える庭があった方が乗組員が落ち著くという研究結果がありまして、それで銀河連邦の長距離航行する船の仕クラス以上の部屋には必ず小さいながらも庭を完備する事になったのです。
もちろん立映像でも同じを演出するのは可能なのですが、やはり実際にそこへ出てれないと意味がないので、こういった造りとなったそうです。
大型艦になると、下士や一般乗組員用に船公園が設置されている船もあるようです。
ここは今和風の庭の作りになっていますが、みとあらば、他の部屋に変更も出來ますよ」
「いえ、私はここが気にったので、滯在している間はここが良いです」
「そうですか。
それでは當船で滯在している間はここを宿泊施設として利用ください」
「ありがとうございます」
「さて、以上で、この船の見學はほぼ終わりました。
いかがでしたか?」
「いやあ、驚きの一言です。
何しろ私なんぞ生まれてから自分の宇宙船以外には標準的な連絡船ぐらいしか乗った事が無い人間ですからなあ。
最新の宇宙船がこんなにも素晴らしいだったとは目から鱗が取れたというか、過去から現代に迷い込んだというか、そんな気分ですよ。
まったくこの船は何でもできるのですなあ・・・」
驚くイワシタにハルナが説明を加える。
「ええ、驚くのも無理はありません。
この船は人類が超速航行を開発した後に起こった問題點や事故、急事態などを研究した結果、そのほぼ全ての問題點を1隻で解決可能なように建造された宇宙船です。
ですから現在の宇宙航行でおよそ考えうる限りの狀況に対応可能なように出來ています。事実、まだこの型の船が就航してから5年ほどしか経っていませんが、今のところ深刻な問題點は報告されておりません。
よほど予想外の事故か、災害でも起きない限り、困る事はないでしょう。
そのため大きさは々大きなサイズになってしまいましたが、探査母艦などの大型艦は別として、300m級未満の船で、この船よりも多目的・多用途に勝る艦は量産型の船では今の所ありません。
単純に汎用の高さだけで言えば、巡洋艦よりも上ですしね」
「ほう、巡洋艦よりも?」
宇宙巡洋艦といえば、世間では萬能軍艦というイメージがあり、実際に戦闘以外でも災害救助や式典などにも利用される船である。
中堅以上の國家では國の宇宙軍の旗艦とされて、國の代表が他國への表敬訪問にさえ使用される船だ。
その巡洋艦よりも汎用が高いと聞けば、大抵の人間は驚くだろう。
「ええ、巡洋艦ですと、やはり武裝の方に重點を置きますから、多機能や汎用という観點からすれば、この船の方が上ですね。
事実、艦隊行を取る時には1隻あると、々と重寶するので、準巡洋艦扱いとして、最近ではこの型の探査船を艦隊に組み込むくらいです。
何しろ元々深宇宙を1隻で行をする事を前提としている船ですからね。
一つの小世界と言っても良いくらいです。
この型はほとんど完された型とも言われていて、今後の探査船もエンジンの規模や武裝以外では、ほとんど當船と比べて機能や設計の大規模な変更はないだろうとも言われています」
「それは凄いですね」
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