《星の見守り人》019 先住者
コランダム777はいよいよ今回最後の探査恒星系サグレー64に到著した。
「船長代理、ここにはハビタブルゾーンに星があるようです」
「へえ?じゃあ、そこを重點的に探査するとするか」
「了解しました」
基本的にハビタブルゾーンに星があるとわかっている場合には専門的な學者を含めたチームが派遣される。
しかし遠距離からの探査では、もちろん全ての星を査できるわけではないので、當然、今回のように予想外の場所に星が存在する事も多い。
その場合はその天を優先的に探査し、生等がいた場合などには専門家のチームを派遣要請する場合もある。
「船長代理、先行調査艇の調査によれば、この星は地球型の居住可能星で、非常に富な生群がいるようです」
「それは珍しい、貴重だね」
ハビタブルゾーンに星があると言っても生がいるとは限らない。
むしろいない方が多いくらいである。
そんな中で生がいるこの星は貴重な存在だった。
「では、母艦に連絡して専門チームを呼ぶとするか」
生群がいるとすれば、それは専門の生學者の仕事だ。
私も探査として生學に全くの無知という訳ではないが、異生とあれば専門家に任せた方が良い。
「それは待ってください船長代理、この星には先住者がいるようです」
「何?先住者?本當かい?」
「はい、集落を一つ発見しました。
住んでいるのは間違いなく地球人類です」
この場合の「先住者」というのは未知の宇宙人などではなく、宇宙探査局よりも先にそこへ到達して居住している地球人類の事だ。
それは恒久的な移住のつもりで來ている場合もあるし、一時的な居住や単なる採掘の場合など理由は様々だが、連邦の探査局より先に足跡をつけているという事実で、星の占有権を主張する事が出來る。
そしてその場合は探査船の船長が渉を持たねばならない。
「文明度はわかるかい?」
「それが・・・遠距離探査によると、26世紀の宇宙船と20世紀的住宅、それに新石時代の竪式住居のようなが混在しているようです」
「ずいぶんと変わった組み合わせだね。
こりゃ退化パターンかな?」
「その可能は高そうですね」
先住者がいる場合は大きく分けて二つある。
一つは単なる漂著で、もう一つは移民だ。
漂著とは宇宙船が何らかの事故で、星に不時著した場合で、この場合、大抵は機関系の事故で、無線裝置が無事ならば助けを呼べるが、そうでない場合は、偶然救助が來ない限りは永遠にそこで暮らす事になってしまう。
宇宙航行法が変わって以來、恒星間宇宙船には必ず小型の工作船が搭載されているので、まずありえないが、それ以前にはごく稀にだがあった事故だ。
この場合は単純に救助をすれば良いので話は簡単だ。
一方、移民とは文字通り、そこへ生活圏を移すために住民を移させる事だ。
ただしこれには大きく分けて四段階あり、一つには銀河連邦自が移民を募る場合、2つめはどこかの國家が移民を募る場合、3つめは大企業が採掘や各種事業のために大々的な規模で街を造るために移民を募る場合、そして4つめはそれ以外、すなわち小企業や宗教団の移民、個人的な移民等である。
実はこの4つめが問題なのだった。
最初の3つはよほどの事がない限り、規模は數千人から數萬人規模で、移民先の街づくりや當分の見通しはある程度計畫されていて、移民後も問題なく、國家や主導団によって運営されていく。
しかし4つめの小規模移民は全く事が異なる事が多い。
その多くは無計畫で、移民先での見通しはなく、そもそも移民先が決まっておらず、移民という名の宇宙船による放浪生活になっている場合の方が多い。
特に宗教関係の移民はそういったが多い。
昔は食料が無くなれば諦めて地球に帰って來る者もいたが、最近はなまじ、宇宙船での促栽培による食糧供給が可能になって來たので、余計にそのような者達が増えてきたのだった。
もっとも銀河連邦が詳細な銀河地図の作に乗り出して以來、現在、地球から3千年以にはすでに完全未知の區域はなく、発見された人類居住可能な天には全て何らかの形で管理されているために、本當の「新天地」を見つけようとすれば、その外まで足を広げなければならず、足の遅い民間船では相當苦労する事になる。
そんな困難の後、運良く居住星を発見し、そこで新たなる生活をするにしても問題が起こる。
この4つめのパターンの場合、明らかに規模が人數、場合によってはあろう事か、男各1人でアダムとイブを気取って放浪している場合もあるので、とても理想郷を造る・・・などという狀況にはほど遠い事となる。
もちろんコランダム777のような萬能探査船に乗り、資源も十分、工作機械やアンドロイド、ロボットの類が何百、何千と乗っていれば、例え人間が一人でも街の造は可能だが、そのような十分な狀況の事はまずない。
大抵の場合は最低限の裝備と資で一杯一杯だ。
イワシタ氏はその極端な例と言っても良い。
そして彼らは數人から多くともせいぜい數百人規模の集団なので、この程度の人數では文明を維持するのは難しいのである。
それでも多量の自工作機械やロボットがあり、アンドロイドがいれば、文明の維持は不可能ではないのだが、たとえそれを所持していたとしても、ここで大抵の集団がミスを犯す。
正確に言うとミスというよりも、進んでそれをやりたがるのだ。
意図的に無視すると言っても良い。
それは一般教育と通信の欠如である。
この手の集団の場合、移民の機として現代文明、もしくは社會に嫌気がさして、自分達の新しい世界を作ろうとする事が大半なので、移民船で移中、そして例え現地に辿り著いたとしても、通常の一般的な教育を怠る場合が非常に多い。
怠るというよりも意識的に無視し、教育をしたがらないと言った方が良いかも知れない。特に宗教関係の移民の場合などは、通常の學問を全く無視し、自分達の宗教観念を植え付けるのに専念する場合も決してなくない。
また同様の理由で、文明社會との通信も避ける傾向にある。
自分達の文明を他の「いかがわしい文明」によって「毒されたくない」からである。
したがってたとえ、自工作機械を大量にもち、アンドロイドがいたとしても、肝心の人間の教育がおろそかになるために、結果として科學文明としては衰退していくのである。
そして最終的には事に通じているアンドロイドが故障により全滅した瞬間から科學文明を継承できなくなり、原始文明に沒落していく結果となる。
これは移民社會學的に「移民の退化パターン」もしくは単純に「移民退化」「退化パターン」と言われている。
これは過去の統計からも、小規模移民の中で、もっとも多いパターンでもある。
現在、コランダム777で観測された、この星上のように、近代的文明と原始的文明が混在している場合、そのような結果の事が非常に多い。
「記録にはないんだろう?」
この場合の記録とは定住登録記録というで、銀河連邦にこの星に定住(移民)するという屆出を出している記録である。
しかしその屆出があるならば、當然該當區域を探査するこの船にも記録はあるはずなので、逆にそれが現在始めて先住者が見つかったという事は、とりもなおさず、ここに住んでいる連中は銀河連邦に屆出をしてないという事になる。
私の問いにミオが答える。
「はい、それどころか到達記録もありません」
到達記録と言うのは民間の探険船などが自分達がこの星を探査した、もしくは例え數時間でも著陸して、探険を試みたという記録である。
これも銀河連邦に屆出があれば、當然本船に記録が殘っているはずである。
「いやな予がするな・・・」
「そうですね」
もし「退化パターン」となれば、渉はやっかいになる事が多い。
過去の例に寄れば、相手に過去の知識がなすぎて會話がり立たなかったり、ひどい場合は言語が全く変化していて言葉が通じないことすらある。
しかし、だからと言って放っておくわけにもいかないので私は指示を出す。
「ともかく、接を試みてみよう、副長、渉部隊を編してくれ」
「はい」
私の命令で接し、渉するための降陸部隊が編される。
副長補佐の一人である、ミサキ隊員を隊長として、調査科から3名、警護として戦闘科から3名の計7名だ。
「降陸部隊の降下と同時に他の先住者がいないかの確認と、他の星調査も平行して開始だ」
「了解しました」
渉部隊が村落の近くに小型著陸艇を置くと、中から出て住民達との接にる。
調査班からの中継で、探査司令室にいる私にも様子がよくわかる。
住民たちは突然の空からの訪問に驚いている様子だ。
その住民たちの様子から見て退化パターンはほぼ間違いなさそうだ。
「我々は銀河連邦の探査局の者です。
この集落の代表はいますか?」
「わしがこの村の王だ。おまえ達は何者だ?」
多アクセントは変わっているが、どうやら言葉は銀河標準語らしい。
その會話を聞いて私も多は安心した。
これならなくとも対話に問題はなさそうだ・
「私は銀河連邦のミサキと申します。
この村はいつごろからありますか?」
「わしらの先祖はここに何百年、いや何千年前も前から住み著いておる」
ミサキの質問に村の長は得意げに答える。
どう多く見積もっても、地球から三千年以上も離れたこの星に、200年以上前から地球人類が生息した事はありえない。
この村長の言葉により、正確な記録がここに伝わってないのは明白だった。
もはや退化パターンはほぼ決定だ。
「その正確な日付はわかりませんか?」
「そんなは知らぬ。
しかし偉大な我らの先祖は空からやってきてここに住みつき、そしてこうして生活している」
「どうしてここに來たかは知っていますか?」
「別の世界、「地球」から理想を求めて來たと聞いている」
「なるほど、あそこにあるのはあなた方の宇宙船ですね?
中にって調べてみてもよいですか?」
「下賎なならば許されないが、どうやらおまえ達は我らと同じ王族のようだ。
だから特別に許す」
「ありがとうございます」
一行が宇宙船の中にると、自然に天井が明るくなる。
「どうやらなくとも力の一部は生きている様子ですね」
「どーリョク?何の事だ?」
「この船は飛べるのですか?」
「昔は飛べた。今は飛べない」
「飛べなくなった理由は何ですか?」
「わからない」
口近くの壁を見ると、そこの宇宙船の仕様が刻まれていた。
「西暦2650年製造、プロキオン號とありますね」
「何かこの船の記録になるはありませんか?」
「そんなはない」
ミサキ隊長から私に報告が來る。
「どうやらこの船は宗教系移民のようです。
西暦2650年に教祖自らと七人の選ばれた信者が共に旅立ったようです」
「ほう?教祖自ら代表でとは珍しいね」
「はい」
宗教的移民と言うのは実はよくある。
新興宗教に目覚めた者が新天地を求めて新しい約束された場所で、その宗教を発展させるとういうのは古來より、新興宗教の教祖と、その熱狂的な信者を夢中にさせる話の一つだ。
間違った社會に見切りをつけて、もしくは迫害された信者たちが放浪の果てに理想郷を見つけて、そこで自分たちの「正しい教え」を子々孫々に伝える話だ。
事実、過去にそういった話には枚挙にいとまがない。
流石に20世紀以降は、もはや地球に空いた土地などなくなってしまったので、そういった傾向はなくなったが、26世紀にって、超速航法が確立して以來、そう言った新天地への野はたちまち迫害された新興宗教の信者達の心に火をつけた。
何しろ、一般人ですら探究心や冒険心にくすぐられて宇宙に進出した時代である。
宗教に傾倒した信者達が理想の新天地を求めない訳が無かった。
民間でも宇宙探検が可能な27世紀ともなると、ある程度の規模の宗教団は必ずと言っても良いほどに、植民星、すなわち理想の新天地を求めて地球を飛び出していった。
そのほとんどは2つのパターンに分かれていた。
一つは信者が乗り組んだ探険船を宇宙に派遣して、その理想の星を探す方法。
しかし、人類が生存可能な星が、そう簡単に見つかるわけがない。
ましてやそういった集団は、ほとんどが何も事前調査をせずに、行き當たりばったりに宇宙を進み、科學的に探す団など皆無に近かったため、記録に殘っている限りでは、人類生存可能な星を見つけて帰って來た者は一つもなかった。
正確に言えば、多の星改造をすれば、人類がかなり快適に生存可能な星もあったのだが、何しろ彼らは「理想の土地」、すなわち川にはワインか、ミルクが流れ、木々にはパンや木の実がふんだんに生る・・・そのような自分達が夢想する新天地を求めていたために、星改造などと言った「邪道」な事を必要とする星は考慮されなかったのである。
當然の事ながら彼らは全て旅の途中で全滅するか、地球へスゴスゴと帰って來る羽目となった。
もう一つのパターンは団の総力をあげて、地球を飛び出す方法である。
この方法ではその団の財力の全てを結集して、大型の宇宙船を移民船として地球を出し、信者の大半を乗せて、あてのない旅に出る事である。
こちらはまずその後、地球に帰って來ない。
教祖が亡くなって地球に戻ってきた數ない例はあるが、ほとんどの宇宙船が、そのまま行方知れずである。
おそらくはそのほぼ全てがそのまま宇宙船の中で死に絶えてしまったか、運が良くても現在でもそのまま信者達を乗せて彷徨い飛び続けているかのどちらかであろう。
そんな中で教祖自らが探査をかねて宇宙に飛び出し、しかも運良く居住可能な星を見つけたというのは、極めて珍しい例と言える。
唯一の例かも知れないと私は思った。
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