《星の見守り人》023 渉
に盛られて整然と並べられた食べがテーブルに上にある。
「我々はすでに済ませているので、どうぞお召し上がりください。
話はその後でゆっくりと伺いましょう」
ミサキの言葉にブルーム8世たちも椅子に座り、食べ始める。
「では、失禮して食事をいただくとしよう」
スプーンを取って食べ始めたブルーム8世たちが思わず聲を上げる。
「これは・・・うまい!」
彼らは基本的に狩猟民族で農耕すらしていなかったために、食事は狩猟で取ってきた、採取してきた木の実、植等に限られていた。
當然の事ながら火で炙る以外に料理らしい事などした事もなかったので、この食事は衝撃的なとなった。
「これは、一・・どういう食べなのですか?」
「今回の獻立は野菜りクラッカー、海老のマカロニグラタン、ほうれんそうのムースのコンソメ味、トマトスープとチョコプリンですね」
それは彼らに取っては意味不明な呪文も同然だった。
「ヤサイイリクラッ・・・もうしわけないが、全くわからない。
しかしこれがうまい食べである事はわかる」
「まあ、その辺もおいおいわかると思います」
この獻立は100種類ほどある簡易宇宙食の中の人気メニューであると同時に、このような未知の人類との出會いがあった場合の會食メニューでもあった。
數ある種類の中でも、食べやすく、そして大抵の人間にけいれられる味のが選ばれていた。
特にチョコプリンなどは甘いなど、ほぼ食べた事がないこの星の住人にとっては、衝撃的だった。
「むう・・・これは・・・」
「若き王よ。私はこのようなは食べた事がありません!」
「私もだ。空から來た者たちよ。
あなた方はいつもこのようなを食べているのか?」
「そうですね。いくつか種類があって様々な味がありますよ」
「そうか・・・」
食事が終わり、食後の茶を飲んで一服すると、ミサキが話を切り出し始める。
「それでは話し合いを始めるといたしますか?」
「よろしくお願いしたい」
「まずは一番重要な境界の話をしたいのですが、よろしいですか?」
「最初から申し訳ないのだが、まずその「キョウカイ」という意味がよくわからない。
漠然とはわかるのだが・・・そちらとこちらの境目・・・という事で良いのだろうか?」
「はい、それでほぼ間違いありません。
境界、もしくは境界線というのは自分と他人の土地などを分ける場合の境目、線、と考えていただければ結構です」
「たとえば昨日そこに引いた熱戦の跡のような?」
そう言ってブルーム8世が村の外にある熱戦の跡を指差す。
「そうですね、あれも昨日便宜的に引いた境界の一種です。
それをこれから本格的に決めようというのが今からの最初の議題です」
「了解した」
「では、その境界をどこに置くかという話になります。
まずはあなたがたの主張を伺いしたいのですが、あなた方の領域、もっとわかりやすく言えば、あなたがたの土地はどこまでと考えですか?」
「土地?」
「ええ、この大地のどこまでをあなた方のだと考えていますか?」
「土地というか、この世のは全てわれらがカザラム教徒のと言うのが、われらの教えなのだが・・・」
「もちろん、そのような事が通用しないのはもうおわかりですね?
今のあなた方はこの世の全てどころか、この村の外にさえ出られない狀態です」
「むう、それは・・・」
つい昨日までは父のブルーム7世だけでなく自分自さえ、この世の全ては自分たちカザラム教徒のだと考えていた。
それは神に約束されて、當然のように疑う余地も無い事だった。
それがどうだ!
一夜明けてみればこの世の全てどころか、自分たちの村の外にすら出られない始末だった。
「このような狀態で、この世は全て自分たちのと主張するのは無理があるというのはおわかりいただけますね?」
そのミサキの言葉に々むっとしたブルーム8世がたまらずに反論する。
「しかしそれはあなたがたが我々の土地を無理やり奪っただけで、実質は我らの土地という事になりませんか?」
「なるほど、つまり本來はあなた方の土地であったを、我々が力ずくで奪い取っただけで、真の持ち主はあなた方である、とそういう事ですか?」
「まあ、ありていに言ってしまえばその通りです」
ブルーム8世はその父ほど愚鈍ではなかったが、生まれた時から染み付いた知識は拭い去れるではなかった。
「では、なぜこの大地は全てあなた方のなのか?
まずはそれを説明していただけませんか?」
ミサキの問いに、ブルーム8世はえっ?と問いたくなったが押し黙った。
この世の全てはカザラム教徒のである・・・それはカザラムの教えで誰も疑う者などなかったが、改めて問われると答えるのは難しい。
カザラムのだからカザラムのなのだでは父と同じだし、このよそ者たちは納得しないだろう。
しかしこうして改めて言われてみれば確かに不思議である。
仮に神が我々のとしてくれたにしても、ではなぜ神はこの土地をこの世の全てを我々にくだされたのだろうか?
そもそも昨日からの父との対話からしても、この者たちは筋道の通った話には納得するし、そうでないには反論をしてくる。
それも徹底的に・・・。
ブルーム8世は筋道の通った捌きをするので、信頼を得ていたし、自分でもそういう人だと思っていた。
彼は生まれて初めて自分と同じように筋道をしっかりと立てて話をする人たちに會ったが、彼らは自分よりもはるかに筋道を立てて話すのに長けており、ちゃんとした説明が出來なければ賛同は得られないであろう事は簡単に予想がついた。
しかも彼らの賛同が得られなければ、自分も村の人間に見捨てられてしまうだろう・・・
そう、自分の父のように・・・そうブルーム8世は考えた。
どう答えるべきかと考えて黙っていると、そばにいた副のウイリー9世が代わって答えようとする。
「そんな質問には簡単に答えられる!
この世の全てのはカザラムのなのだから、大地も當然カザラムのに決まっている。
これは真理であり、不変なのだ!」
「それでは答えになっていませんね。
それならば我々も同様の主張をする事が出來ます。
この大地は銀河連邦のであり、これは真理であり、不変だとね」
「そのような事は認められない!」
「我々もあなた方の主張は認められません」
「何を!このよそ者めが!」
激高したウイリー9世がミサキに毆りかかろうとするが、そばにいたミサキの護衛にあっさりと、腕をねじ上げられる。
「うがっ!」
「やめろ!ウイリー!」
王の命令でウイリーもおとなしくなる。
やはり、と思ったが、この連中にはこちらの勝手な理屈は通用しない。
雙方が納得できる共通の話でないとだめなのだ。
それはたった今ウイリーが証明してくれた。
そう考えているブルーム8世にミサキが確認するように話しかけてくる。
「我々は平和的な話し合いによる解決を求めていますが、そちらがどうしても暴力的に解決したいというのであれば、それはそれでかまいませんよ?」
淡々と言うその言葉にブルーム8世は心の中で震え上がった。
確かにこの連中は強い。
力で押されたら全くかなわないだろう。
しかしここでブルーム8世は不思議に思ったので質問をしてみた。
「いや、われ等はこういった事になれておりませんので、失禮しました。
彼も今が重要な時だと言う事は重々承知しているのですが、不慣れなせいでこういった失禮な行為に及んでしまいましたがどうかお許しください。
しかし一つあなた方に質問したいことがあるのですがよろしいですか?」
「なんなりと」
「あなた方は熱線銃を持っていたり、一晩でこのような毒のある鉄の柵を作ってみたり、我々より遙かに、んー・・・何というか、その、を作る速さというか、不思議な力というか、何と言っていいかわかりませんが、そういった事に秀でていますよね?」
「はい、それは科學力や技力というですね」
「そのカガクリョクとやらで我々を即座に屈服させる事もできると思うのですが、なぜそうしないのですか?」
「それは我々の「法」に反するからです」
「ホウ?」
そんな言葉を聞いたのはブルーム8世は初めてだった。
「法と言うのは我々の決まりごとで、守らなければならない事を文章にしてあるです」
「それは教典のようなですか?」
「あなた方の宗教の教典とは違いますが、その文章に書いてある事を守らなければならないという事では似ていますね」
「そのホウとやらに暴力を使ってはいけないと書いてある訳ですか?」
「そうですね、細かく言うと難しいですが、簡単に言えば、相手が暴力を使って來ない限りは、こちらから暴力を使ってはいけない事になっています」
「それ以外ではあなた方は暴力を使わないと?」
「そうですね。
基本的にはそうですが、たとえば相手がどうしてもこちらの話を聞かない場合は間接的に使用する場合もありますね」
「それはどういった事ですか?」
「たとえば今のこの狀況がそうです。
昨日あなたの父上であるブルーム7世様は我々が話し合おうとするのにも応じず、全く折り合おうとはしませんでしたね?」
「はい」
「その結果、我々はこうして村の周囲をグルリと囲み、あなた方が話し合いをせざるを得ないような狀況を作り出した。
こちらの話し合いに応じなければ、あの柵はあなた方には越えられないし、飢え死にするしかありませんからね。
これもある意味間接的な暴力とはいえます」
「なるほど」
今度はブルーム8世にも意味は伝わった。
「しかし、それならなぜ我々を放っておいてくれないのですか?
我々は正直言ってあなた方などどうでも良いのです。
この周辺からいなくなってさえくれれば問題はないのですが?」
「そこで先ほどから問題にしている境界が問題になって來るのです」
「なぜですか?」
「なぜならば我々とあなた方の境界、つまり境目をはっきりしておかないと後々面倒な事になるからです」
「どうしてですか?」
「たとえば昨日あなたの父上はこの村の境をあそこにしましたね?」
「はい」
「しかし、それで我々がそこに境界を設定した結果、こうしてあなた方が村から出れずに困った結果になった訳です。
これでお分かりかと思いますが、境界というは互いに納得して話し合っておかないと後で必ず問題になるなのです。
例えば我々がもうし遠い場所に境界を作ったとしても、そこから先にはあなたがたは出られません。
そうするとやはり今回と同じ問題が起きますね?」
「なるほど、確かにそうですね」
「もうしわかりやすく話しましょう。
カザラム教徒同士でも家は持っている訳ですよね?」
「はい、もちろんです」
「その家を誰かが自分のだといい始めたらどうしますか?」
「それはわたしのような者が両方の言い分を聞いて、正しい方の言い分を聞きます」
「しかし、その場合、両方ともカザラム教徒な訳ですよね?
雙方が自分はカザラム教徒だから全ては自分のだといい始めたらどうなりますか?」
「そうですね、その場合は、カザラムとは関係なく、どちらがより正しいかを考えて、筋道が通っている方の言い分を聞きます」
「我々の話し合いもそれと同じです。
カザラムの教えは関係ないのです。
どちらがより筋道を立てて相手を納得させるかが問題なのです」
「なるほど、今度はわかりました」
確かにそれならブルーム8世にもわかる。
つまりこの者たちとの話し合いにはカザラムの教えを持ち出す訳にいかないのだ。
雙方が納得する、筋道の通った話しをしなければならないらしい。
「そこで先ほどの質問に戻る訳です。
カザラムでどう教えていようと、それはあなたたちの自由ですが、この世の全てがカザラムのであるなどという理屈は當然の事ながら通りません。
そもそもそれは理屈などではないのです。
我々の納得できる境界と、その理由がしいわけです」
「それはわかります」
今度こそ彼にも本當にわかったのだった。
「では、何か的な境界のための考えはありますか?」
ブルーム8世は考えた。
彼らの意図はわかったが、さりとて実際的な境界線を決めるとなると難しい。
「我々の教えには「この大地は地球からやってきた我々が見つけた。
そしてこの大地は神の約束した場所だとあります」これではだめでしょうか?」
「最初の我々が見つけた大地というのはわかります。
我々の法でも一番最初に見つけてその場所で生活を始めた人にその土地の所有権がありますからね。
しかし「神が約束した」というのは全く無意味です」
「なぜですか?」
神が無意味という返事にブルーム8世は心底驚いた。
「その神という者の存在を証明出來ないからです。
あなたはその「神」という者をここに連れてくるか、いるという事を私に証明、つまり納得させられますか?」
そう言われてみてブルーム8世やその場にいた住民たちは愕然とした。
それはカザラム教の原點であり、その存在を疑うなど、そもそもありえない事だった。
しかし確かに言われてみれば、その存在を証明してみせる事など不可能だった。
「それにあなたは今「地球からきた」と言いましたね?
それならば地球にはカザラム教徒以外の人々がいて暮らしている訳です。
そして現在地球にはカザラム教徒以外の人々がたくさん住んでいます。
いえ、むしろ全員がカザラム教徒ではないと言って間違いはないでしょう。
それなのにこの世の全てがカザラム教徒のだというのは、これもおかしいとは思いませんか?」
確かにこのよそ者の言う事は理屈が通っていた。
しかしブルーム8世は別の事に驚いていた。
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