《星の見守り人》026 協定立、そして帰還
さらにミサキは説明を続ける。
「しかしあなた方は銀河連邦の所屬を拒否した以上、我々は守る義務はありませんし、またそれはあなた方への政治干渉にもなります」
「それは・・・!」
ブルーム8世は抗議をしようとしたが、考えてみれば相手の言う通りだというのがわかった。
相手の集団に所屬する気がないのに、守るだけは守ってしいというのはいかにも蟲の良い要求だという事は彼らにもわかったので、それを口にする訳にはいかなかった。
そんなブルーム8世たちの考えを読んでいるかのようにミサキが説明を続ける。
「ですが、正直あなた方は我々銀河連邦の干渉がなければ、おそらく1年以に海賊に滅ぼされてしまうでしょう。
そこで保護區の問題へとなります」
一息ついて狀況を相手が自分の置かれた狀況を飲み込むのを待ち、さらにミサキが説明を続ける。
「保護區というのは希な生がいる恒星系や、今回のあなた方のように、か弱い集団を守るために、その星系全を保護する場所として銀河連邦の許可を得た者以外の侵を止することです。
これにより法的にこの恒星系は守られるので、なくとも企業や一般探検家等の民間の進はありえません。
これによりあなた方はこの恒星系、ひいてはこのカザラム星で安心して好きなように出來る訳です」
「なるほど」
それはカザラム教徒たちにも喜ばしい事だった。
しかしミサキが説明を続ける。
「ただし、海賊は別です。
彼らは銀河連邦に所屬しておらず、法を破る事を生業としている訳ですから、法など無視してこの星に略奪にやってきます。
しかし保護區となれば、小規模ながら當地に移軍事基地が派遣され、通常の海賊程度なら撃退可能でしょう」
そのミサキの説明にブルーム8世は々慌てる。
「通常程度なら?ならば通常ではない海賊とやらが來たら?」
「その場合は殘念ながらこの星は一時的に海賊達に占領される事になり、おそらくあなた方は全滅する事になるでしょう」
「そ・そんな・・・」
淡々と恐ろしい未來を語るミサキにブルーム8世は呆然とした表になる。
しかしそんな彼にミサキは安心させるように説明を続ける。
「ただし、そのような可能は恐ろしく低く、実際にはおそらく皆無でしょう」
「皆無?なぜです?」
実際には起こらないと言われれば安心はするが、その拠が知りたかった。
そうで無ければ安心は出來ない。
「なぜならば、この辺は地球を中心とした文明圏から考えると、かなり辺境に位置します。
現在、我々の一番近い方面司令部からでも六百年も離れているので、通常の艦隊でもここまで二十日、海賊などの足の遅い船でしたら1ヶ月以上かかるでしょう。
そしてこの恒星系は採掘場の拠地としては確かに理想的でしょうが、いくら何でもわざわざ銀河連邦と戦ってまで、拠地にするなど出來ません。
確かに無改造で居住可能な天というのは非常に珍しく、利點ではありますが、ここを占拠して、恒久的な拠地にしようとすれば、まずはこれからここに設置される連邦移基地を殲滅しなければなりません。
よほど大規模な海賊艦隊ならばそれも可能でしょうが、そんな事をすれば連邦は巡洋艦を旗艦とした本格的な討伐艦隊を送り込み、その海賊を全滅させる事はわかりきっています。
そうなればここを拠地にする事など、もちろん不可能です。
ですから結局拠地にも出來ないので、それもありえません。
従ってこの星は安全だという事です」
ミサキの話を噛み締めるように聞いていたブルーム8世が何度もうなずいてから、ようやく事を理解したようにおずおずと質問する。
「つまり・・・早い話がこの星は海賊達に狙われる価値もない・・という事ですか?」
「率直に言えばその通りです。
正確に言えば、危険を冒してまで占拠する必要のない場所という事です。
もし、ここが保護區ではなく、銀河連邦の防衛基地がなければ、海賊たちは喜んでここを占拠に來るでしょう。
あなたたちでは戦いになりませんからね。
そしてあなたたちを殲滅した後で、自分たちの居住星として宣言して銀河連邦に屆けるでしょう。
そうすれば、我々銀河連邦としては彼らの主張を認めない訳には參りません」
「え?なぜですか?」
「それは連邦に所屬しない無関係な組織同士が爭って、その結果、勝った方が連邦に所屬を申しれた事になるからです。
このような居住可能な星を自分たちのとして登録が出來るなら話は別です。
海賊家業などやめて1國家として連邦に參加した方が彼らも遙かに得ですからね。
ですからあなた方が連邦に屬さず、しかもここが保護區でない場合は、必ずあなた方を殲滅してでもこの星を手にれようとするでしょう」
その返事を聞いて村人達はこれ以上ないほどのショックをけた。
この衝撃は今日けた様々なショックの中でも最高のだった。
ほんの數日前までは自分達は宇宙の最高の民であり、この世の全ては自分たちのであり、自分達が住んでいる場所はこの世の一番の楽園だと信じていたのだ。
それが今では宇宙で最もか弱く貧弱な存在であり、自分達の住んでいる場所は、社會からはみ出した海賊にすら即座に奪われる場所だと知ってしまったのだ。
しかも気まぐれ程度にその無法者どもが牙を向けば全滅させられて、この土地は全て取られてしまうのだ!
ガックリと力を落としたブルーム8世はそれでも最後の肝心な言葉を口にした。
「わかりました。それではここをその保護區とやらにしてください・・・」
「承知しました。
では、これから調印式をしたいと思いますが、よろしいですか?」
「調印式?」
「正式に文書で今の事を互いに約束する事です」
「はい、それもここでするのですか?」
「いいえ、今から我々の本船を呼んで、その中で行います」
「本船?」
「はい、我らの母船、銀河広域探査船コランダム777です」
ミサキ隊長からの知らせをけると、船長代理である私は命令を下した。
「よろしい、では仕上げに調印式と行くか!
彼らの度肝を抜いてやろう。
副長、著陸用意、降下だ!」
「はい」
探査船コランダム777が衛星軌道上から降下して、村の上空に現れると村人達は大騒ぎとなった。
何しろそれまでみた最も大きな宇宙船ですら全長80mで、しかもそれが実際に空を飛んでいる姿など見た事がある者はいなかったし、それは作り事の伝説だと思われていた。
しかし、実際にその宇宙船よりはるかに大きな宇宙船が降りてくると、人々は息を飲んだ。
村に程近い場所にコランダム777が著陸すると、それこそ村は蜂の巣を突付いた以上の大騒ぎとなった。
なくともこの景を見た人間が生きている間は、銀河連邦との條約は守られるだろう。
「では代表団を呼んでくれ。當船の応接室で話をしよう」
降陸部隊のミサキがブルーム8世以下の使節団を案してくると、彼らはその船を見て、まさに度肝をぬかした。
いくら彼らの住処が宇宙船とは言っても、200年も前の比較的小さな宇宙船と、全長200もある最新型の中型探査船コランダム777では比較にならないほどだった。
その広い廊下、居住區、応接室等に案されて目を白黒させていると、やがて最高責任者である私と面談する事になる。
「やあ、銀河連邦の船へようこそ、私が當船の船長代理兼大使代理の如月です」
「村の王、ブルーム8世です」
「では、簡単に容を確認しましょう。
貴村はこの星全てを領土として自治組織となる。
この恒星系のこの星部分以外の場所は銀河連邦に所屬する事となる。
そしてさしあたってあなた方は銀河連邦には屬さない。
しかし村の外に公使館は建てて、連邦公使との流はする。
さらに保護區として、この恒星系全を銀河連邦に委ねるという事でよろしいですかな?」
「はい」
私とブルーム8世は條約の要綱を確認し、書類をわす。
「さて、これで無事に條約は結ばれた訳です」
「はい」
こうして銀河連邦の地図に正式にカザラム星と名づけられたこの星は、人類生存星として登録された。
條約が立した翌日には、早速銀河連邦の公使館は村の外から1kmほど離れた場所に建設される事となった。
森林の一部が伐採され、平地になった所で、急いで3階建ての公使館が建設される事となり、1日でそれは建設された。
そして村からは舗裝した道路が作られて、その両脇には塀まで立てられて、危険なに襲われる事もなく、村との行き來が可能になっていた。
村の周囲に敷いた鉄條網と柵は、ちょうど大型の害獣の侵を防ぐのに都合が良いために、電流を切って、何箇所か出口を増やして、門を作り、そのまま利用する事となった。
差し當っては外団代表だったC2級アンドロイドのミサキ副長補佐が公使代行となり、數人のC級アンドロイドと共にそこに勤める事となった。
後日、正式な公使団が到著すれば、代する予定だ。
その時は一緒に連邦から移基地船も派遣されて、ここの防衛任務に就く事になるだろう。
それまでは我々がその代行をする事になる。
その報告をまとめると探査母船へ送り、私は一安心した。
(やれやれずいぶんと厄介な事に出會ったけど、無事に解決できてホッとしたよ)
翌日、私が起きて艦橋に行って確認をする。
「やあ、みんなおはよう。副長、村の方は大丈夫かな?」
「はい、今の所、問題はありません」
「うん、この恒星系の探査終了にはまだ數日ある。
その間に何か問題がないか、様子を見よう」
「そうですね」
そうこうしているに移防衛基地船が到著して引継ぎをする。
これは全長150mほどの汎用宇宙船で、コランダム777より小さいが、1恒星區域ほどの探査、行政、防衛を司ることが出來る。
コランダム777ほど萬能ではないが、同様に警護艦を二隻格納しており、辺境の自治や防衛には十分すぎるほどの能力を発揮する汎用宇宙船だ。
これにより臨時的な銀河連邦大使としての役割は終えて、本來の探査としての任務に戻る事が出來て私はホッと一安心だった。
やがて數ヶ月が過ぎ、無事に最後の恒星系の探査も終えた。
そしてようやく探査母艦へ帰還する事が出來た。
無事に探査母船へ著いた私に副のミオが報告をする。
「船長代理」
「なんだい?」
「探査局から連絡です。
この探査航行が終わったら、地球に帰り次第、科學局へ私と共に出頭するようにとの事です」
「探査局ではなく、科學局かい?」
「はい、その通りです」
「なるほど、いよいよかな?」
「ええ、私もそう思います」
こうして無事に探査任務を終わり、探査母艦で休暇を取っていた私たちは地球へと帰還したのだった。
そこでは私に新たなる任務が待っていた。
そしてそれこそが私の真の人生の始まりとなるのだった。
これにて第1章「星間探査船編」を終わります。
しばらくしたら第二章を掲載しようと思います。
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