《外れスキル『即死』が死ねば死ぬほど強くなる超SSS級スキルで、実は最強だった件。》雑魚の地球儀 その①
※※※
ラフィさんが居なくなってもミアに対する魔法のジャミングは消えなかったようで、僕らは研究所から離れなければならなかった。
ミアの魔法は使えないようにしていたのに、ツヴァイちゃんの魔法は使えたというのは意味深だ。
ひょっとして、ラフィさんはツヴァイちゃんが寢返ることも予想済みだったのか?
……いや、もうこのことについて考えるのはやめよう。どちらにせよ永遠に答えは得られないのだから。
途中、舌を噛み切って死んでいるアイさんの死があった。
ツヴァイちゃんと二人でを掘って、簡単に埋葬してあげた。
作業の間、ツヴァイちゃんは何も喋らなかった。
こういう事態を避けたかったら僕はツヴァイちゃんをジャギア族の里において置きたかったんだけど……今更後悔しても遅い。
大、勝手についてきたのはツヴァイちゃんの方だし。
僕はちゃんと気を使ったわけだし。
『そちらもそちらで大変だったようね、えーくん』
信魔法が使える場所まで出て、ようやく僕はミアの聲を聞いた。
シュルルツの壁が倒壊していくのが遠くに見えた。
「とにかく、僕に與えられた役目は果たしたよ。そっちはどう? みんな無事なの?」
『ええ。今のところ死者は出ていないわ。『安息』、『弱者の牙(ファング)』、『瓶の中の小人(ホムンクルス)』、ともに健在よ。もちろん私たちの本陣――あなたが生まれ育ったこの街には敵一人通していないわ』
「そう。それは良かった。あとは僕らがシュルルツに突っ込んでニヒトを倒すだけだね? ところで、対ニヒト用の作戦はあるの?」
『……え? 何の事かしら』
「うん? おかしいな、以前、僕はなすすべなくニヒトに敗れてるんだよね。何の策もなく挑んだらまた三年前の二の舞になっちゃうよ?」
『私はてっきりえーくんが考えてくれるものだと思ってたわ』
「僕は當然ミアが対策を打ってくれてると思ってたけど?」
『…………』
「…………」
奇妙な沈黙が、信魔法を通じて僕らを包み込んだ。
『安心して、えーくん。もちろん考えているわ。そうでなければこんな大がかりな作戦を実行したりはしないもの』
「なんだ、やっぱりそうか。ミアを信用していて良かったよ。君が僕を無駄死にさせるつもりだったらどうしようかと思った」
『私がそんなことするはずないじゃない。あっはっはっは』
「あの、笑い聲が棒読みなんですけど?」
『細かいことは気にしないで、早く司令部に戻って來て。次の作戦に移りたいの』
「了解。どうにかしてそっちに向かうよ。ところでツヴァイちゃんも來ちゃったんだけど、どうしたらいい?」
『……こっちで預かるわ。小さい子に人殺しの現場を見せ続けるのは、嫌でしょう?』
「それに関しては同意だよ。じゃ、またあとで」
そう言って、僕はミアとの信を終えようとした。
のだけれど。
『――――ッ!?』
「あれ、ミア、どうかした? 何かあった?」
ミアの迫したを、僕は信魔法越しにダイレクトにじた。
『……大丈夫。えーくんの気にすることじゃないわ。これも予想されていたことの一つだから』
「何かあったのは間違いないらしいね。本當に大丈夫なの?」
『今は気にしないで。とにかく、えーくんは私たちのところへ戻って來て』
そこで、信は一方的に切られてしまった。
何があったんだろう?
「お話は無事に終わったの、お兄様?」
退屈そうな顔をしながらツヴァイちゃんが言う。
「ああ、まあ、それなりにね。だけど向こうで何か起こったみたい」
「ふーん。もしかしたら、壁がなくなったことと何か関係があるかもしれないんだよ」
「あり得ない話じゃないね。とにかく、今は急いで戻ろう」
※※※
拠點へ戻ると、辺りは負傷者でいっぱいだった。
軍部との戦闘で傷ついた人たちなのか、それとも戦闘に巻き込まれた一般人が集まっているのかは分からないが……。
「なんか大変なことになってるね、お兄様」
「だね。僕、人が怪我してるところを見るのって苦手なんだよ」
「そう? その割にお兄様は人のを切り取ったりだらけにしたりするんだよ」
「実はその度に心を痛めてるんだ」
「それはぜっっったいに噓なんだよ」
「あ、バレた?」
僕を殺そうとしている相手に対し、余計な気遣いをしている余裕はない。
だから遠慮なく傷つけることが出來る。
というか、できなければ今頃僕は神がどこかおかしくなっているだろう。
いや、既におかしくなっているのか?
それは分からないな。
僕の周りにも、自信をもってまともだと言えるような人がいないし。
集會所のドアを開けると、中では怒號が飛びっていた。
どうやら発令所のようになっていて、何人もの人が文書やよく分からない機械を持って行ったり來たりしている。ちょっとしたパニック狀態だ。
中央には大きな地図が用意されていて、それを取り囲むように數人の――エーデルやアミス、『瓶の中の小人(ホムンクルス)』のモモさんのような、僕の良く知っている人たちが難しい顔で立っていた。
その中心に、ミアはいた。
僕らに気が付いたのか、ミアはこちらの方へ顔を向けて、
「あら、帰ったのね。待っていたわ」
「何があったの? この騒ぎはどういうこと?」
「敵の伏兵がいたのよ。それで、ちょっとこっちが押し込まれてるのよ」
ミアの代わりに答えてくれたのはエーデルだった。
彼の目の下には隈が出來ていて、なんとなくげっそりしているように見えた。
「伏兵だって?」
「壁が取り除かれたことがきっかけで、中から出て來たんだよ。まったく、軍部の連中も手の込んだ真似をしてくれるものだ」
アミスがうんざりしたように言う。
「そんなに強い敵なんですか?」
「ああ。前線の奴らが言うには不死(・・・)らしい」
「不死……!?」
僕の頭の奧に何かが引っかかっているような気がする。
シュルルツを守る壁。
その制をしていたラフィさん。
そして、不死……。
「お兄様、それって」
気づけば、ツヴァイちゃんが不安そうに僕を見上げていた。
「君は何も気にしなくていいよ、ツヴァイちゃん。大丈夫だから……あの、誰かこの子をお願いしてもいいですか」
「私が面倒を見てあげるのよ。私さ、技的なことは分かっても戦的なことはさっぱりだから、この人たちの話に気後れしてたところなのよ。ほら、行こう」
エーデルがツヴァイちゃんの手を引いて集會所を出ていくのを見屆けてから、僕は話を続けた。
「まさか、ツヴァイちゃんのクローン?」
ミアが頷く。
「見てもらった方が早いかもしれないわね」
「見るって?」
「私のスキルを忘れた? 【開示(ヴィジュアライズ)】」
ミアの、というか僕らの目の前に風景が映し出される。
なんとなく見覚えがあると思ったら、シュルルツ周辺の景だった。
「これは何?」
「現在のシュルルツ近郊の映像よ」
突然、映像に小さな人影が映った。
……いや違う。人影は最初から映っていた。
ただ、それを僕が認めたくなかっただけだ。
「まさか、これって」
「そう。そのまさかよ」
まさか、と言ったが、心のどこかではこういう事態を予測していた。
だからこそツヴァイちゃんをこの集會所の外へやったようなものだ。
映像に映っていたのは、表のない顔で一列に並び行軍する、全く同じ顔をした集団――ツヴァイちゃんの軍団だった。
いや、正確にはツヴァイちゃんを模して造られたの軍団、というべきかもしれない。
「……ロリコン大喜びだね」
「彼らのおかげでこちらの負傷者は倍増じゃ済まないのよ。笑えない冗談はやめてしいわ」
「ご、ごめん」
不機嫌そうに眼を細めるミアを見て、僕はこれ以上場を茶化すようなことを言うのをやめた。
「本來のツヴァイちゃんほど不死ではないけれど、それでも元をたどればえーくんと同等の力を持った存在よ。普通の人間じゃまず敵わないわ。壁が崩壊した直後から、まるでそのタイミングを待っていたようにこの集団が現れたの。戦線は一気に壊滅。今は殘存兵力を撤退させているところよ。イチゴさんやミジャさんを中心にね」
「撤退って……大丈夫なの?」
「戦力を整えて、シュルルツ突作戦へ備えるわ」
「だけど、シュルルツはツヴァイちゃんのそっくりさんで固められてるんだろ? 下手したら壁より厄介じゃないか」
「えーくん、黙って。あまりそういうことを言われると士気が下がるわ」
ミアが僕の口に手を當てた。
い、意外とらか――じゃない、こんなことをしてる場合かよ。
僕は顔を背け、ミアの手から口を離した。
「策はあるの?」
「もちろんあるわ。何のためにグルツおじさんを外國へ向かわせたと思ってるの?」
「……どういうこと?」
「いずれ分かるわ。それよりも、あなたにはシュルルツへ向かう準備をしてもらわなきゃ」
「だけど、ミアは大丈夫なの? ここにいて敵が攻めてきたら……」
「はっきり言って、その可能はもちろんあるわ」
「だったら、僕もここにいた方が」
「だからこそ、あなたがニヒトを倒すのよ。私たちが――私が、殺される前にね」
「で、でも」
言いかけて、僕の口はらかいもので塞がれた。
ミアのだった。
それは、すぐに僕から離れて行った。
「初めてのキス、えーくんにあげちゃった」
し顔を赤くしながら、ミアが呟く。
「……このタイミングでそんなこと言う!?」
っていうか、こんなところでこんなことする!?
公衆の面前ですけど!?
とんだ恥プレイじゃないか!
があったらりたいどころか、頭から飛び込んで即死したいッッ!
殺してしい!
というか、殺してくれ!
「連絡事項は伝えたわ。あとはあなたに任せる。ツヴァイちゃんの複製への対処は私に任せておいて」
「ぅわ、分かった」
混して訳も分からなくなった僕は、とにかく頷くしかなかった。
※※※
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