「それで、今日はどこ行くの？」

「遊園地だよ。丁度お母さんから、遊園地のペアチケット貰ったんだよね」

人差し指と中指でチケットを挾み、ひらひら〜と振る。

このタイミングで遊園地のペアチケットか。ありがたいな……今度菓子折り持って挨拶に行こう。んな意味で。

「そういえば、お母さんは元気？」

「うん。最近は私がパイセンの家にり浸ってるの知って、付き合ってるって勘違いしてるよ」

「え」

知ってる……え、知ってるの？　天さんが俺の家にり浸ってるの、知ってるの！？

それヤバいんじゃないか？　天さんのお母さんは確か教師だったはず。不純異友とか思われてるんじゃ……！？

ま、待て待て。まだ慌てるような時間じゃない。知ってるだけで、ハフレってことは知らないだろう。

……なんか途端に申し訳なくなってきた。本當、今度菓子折り持っていこう。

「因みにお母さん、凄く喜んでたよ」

「……喜んでた？」

「吉永海斗君なら安心して任せられるって。どうする？　親公認だよ？」

「か、からかわないでよ」

確かにあの時、「覚えておく」って言われたけど。

気恥ずかしくなり頬を掻いていると、天さんはむーっとした顔をした。

「何？」

「べっつにぃ〜」

急に不機嫌になるじゃん。

心わからん。

再度聞こうとした、次の瞬間。

「うお！？」

「キャッ！」

突然の突風が俺らを襲った。

「あーもう！　髪ボサボサー！」

「すごい風だったね。ビックリ……あれ？　天さん、チケットは？」

「え？」

さっきまで持っていたチケットが手にない。

のんな場所を手でり、鞄の中を漁り、ひっくり返し。

錆び付いたロボットのように俺を見上げる天さん。

「…………」

「…………」

「…………（ぶばっ！）」

泣いた！？

「ちょっ、天さん大丈夫！？」

「にゃい……ちけっと、ない……にゃぃ……ふぇ……」

マジ泣きの大號泣じゃないですか！？

ちょ、ここ駅前！　人目ありすぎ！

「ねえ、あの子泣いてない……？」

「やだ。癡話喧嘩？」

「あんな可い子を泣かせるなんて……」

「顔はいいのに最低な男」

「クソ野郎じゃん……」

ほらぁ！　ほらぁこうなるぅ！

「あ、天さん、とりあえず移しようかっ」

「うぇぇん……びえぇん……」

うずくまって全くかない。こんなに泣いてるの、あの公園の時以來だ。

しょうがない。ちょっと申し訳ないけど……。

「天さん、ごめんっ」

「んにゃっ！？」

天さんを橫抱きで抱えると、人目のない場所まで走っていく。

駅前から走ること五分。近くの公園にやって來て、ベンチに座らせた。

「はぁっ、はぁっ……だ、大丈夫？」

「ぅ……ぅん……」

走ってる間に冷靜になったのか、泣き止んでいた。

でも目元は腫れてるし、顔も真っ赤だ。

近くの自販機でお茶とミルクティーを買い、ミルクティーを天さんに渡す。

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして。こういう時は甘いもん飲んだ方がいいよ」

「うん……ごめんね、せっかく遊園地に行けたのに……」

「気にしないで。……なんて、気にしちゃうよね」

俺の言葉に天さんは小さく頷いた。

さて、ここで俺には三つの選択肢がある。

一つ。黙ってそばにいる。

これでもいいだろうけど、めるという點では解決にならない。

二つ。頭をでる。

ハグをする仲だ。頭をでるのも許してくれるだう。でもこれも違う気がする。

三つ。…………まあ、俺らの関係を考えると、これが一番めになるかなぁ。

天さんをチラ見。

明らかにまだ沈んでる。あんなに楽しみにしてたもんね。

仕方ない。ここは男を見せる時だぞ、俺。

生唾を飲み込んで天さんの肩へ手を回すと、ハグをするようにし強く抱き寄せた。

「ぱ、パイセン……！？」

「……ハフレの俺には、これくらいしか出來ないから」

「んーん……嬉しい。初めて、パイセンからハグされた」

そうだったか？　……そうだったかも。

基本、天さんからハグされてたからな。俺からするのは、なんか恥ずかしくて。

天さんはの力を抜いて、ゆっくり俺にを預ける。

流れで頭をでると、くすぐったそうに笑顔を見せてくれた。

よかった。やっぱり天さんは、笑った顔が一番似合うから。

「ねぇ、パイセン」

「ん？」

「……これからは、海斗君って呼んでもいい？」

「……ああ、いいよ」

「えへへ」

天さんは人懐っこい笑みを浮かべ、しばらくの間ずっと俺に寄り添う。

が、そこに。

「わふっ」

「え？」

「あ、わんこ」

三匹のラブラドールレトリバーが近付いてきた。

でけぇ、かわえぇ、もふもふ。

その中の二匹が俺らの前に出ると、口の中の何かを俺の膝の上に乗せた。

ヨダレがついてるけど、これ……。

「遊園地のチケット？」

「え！？　噓っ、マジ！？」

天さんが顔を輝かせてそれをけ取る。

どうやら、拾って匂いを辿って屆けてくれたらしい。賢すぎか、この子ら。

「うぅ〜！　君たち好きぃ！　してる〜！」

「「「わふぅ！」」」

天さんが三匹に抱き著くと、三匹は嬉しそうに天さんの頬を舐める。

結局置いていかれた飼い主さんが到著するまで、俺らはわんこと戯れて遊んでいたのだった。

遊園地はまた今度、ということで。

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