《【書籍化&コミカライズ】婚約者の浮気現場を見ちゃったので始まりの鐘が鳴りました》32.思考だってお休みしたい
凄かった。
凄かった……とソフィは、大きな椅子にを埋めた。白い生地に桃の花が刺繍された椅子は、見た目が華やかで可らしいだけでなく、ふかふかでとっても座り心地が良い。
背もたれを使うことを知らなかったソフィならば、きっと験できなかった心地良さだ。背もたれの魅力を知った今のソフィは最強だ。もうここからかない。
ふうと息を吐くソフィは、部屋に一人だ。
くぬいぐるみ狀態のアズウェロは、出されたクッキーにハートをキャッチされ、メイドさんのハートをキャッチ。廚房に興味津々な様子を見たメイドさんが、エスコートしてくれている。今頃、廚房で盛り上がっていることだろう。
ヴァイスはリヴィオと二人でモンスターを擔いで消えた。
モンスター?うん、モンスターだ。
抹茶とカタフ。二頭のお馬さんは、馬がいるぜ襲ったれ、と言われたかどうかは知らんが、迫りくるモンスターを返り討ちにし、モンスターの山を築いとった。
馬という生きの定義がわからなくなる瞬間である。
まあ、ほら。主が規格外だと、馬も並じゃやってられんのだろうきっと。努力の賜ってやつだ。努力すれば人の言葉を解しモンスターを倒せる馬になるのか馬の努力とは、ってのはさておいとけ。ソフィは自分の常識の方を疑う事に決めたのだ。いつ決めたって、多分城を出る時だな。
奇跡の塊みたいな人に手を取ってもらってあの場所を逃げ出すなんて、それだけでソフィの常識外だ。だったら今更、馬がモンスターを倒すのはありえない!なんて、言うのはつまらんだろう。あるがままをけれ、あるがまま生きる。良いだろ。ソフィはそういう生き方をしてみたい。
で、だ。
抹茶とカタフが倒したモンスターの中には、デッドリッパーもいた。
デッドリッパー。なんだっけ、ってヴァイスの旅の目的である。
とある町で食べられるというモンスターのを目當てに隣國の夜會に參加し、街道を避け婚約者と二人で旅をしていたという、一國の王とは思えないエピソード。その話を知っているのかいないのか。王の馬カタフと、一緒にお留守番をしていた抹茶の二頭の馬は、デッドリッパーを仕留めていたのだ。
ソフィの背丈くらいある大きな白い熊を見たソフィの想は、「アズウェロみたい…」というものだった。アズウェロみたい、っていうかアズウェロがモンスターの真似をしたわけだけれど、真っ白の熊、イコール、アズウェロという図式がソフィの頭にできてしまったのだ。
そんなソフィが、白い熊みたいなモンスターの解もも見られるわけが無い。
それを察してくれたんだろうな。リヴィオは自分だって解ができるくせに、「プロに解してもらいましょう」とヴァイスに提案した。そういうところが好きだ!もう!
ヴァイスもヴァイスで、なぜとも否とも言わず、「いいな」と笑うので困っちゃうな!
そんなわけで、ヴァイスとリヴィオは一緒に転移したモンスターを背負って移した。城の外にある、モンスター料理を提供している店の店主を呼ぶらしい。
ルネッタは、ソフィと一緒にお風呂にっても、ずっとブツブツと聲に出しながら思考をしていた。
初の転移魔法を使ったルネッタは脳の活が止まないらしく、ソフィには理解できない話を繰り広げていた。
メイドや侍はそんなルネッタに慣れているらしく、絶妙なタイミングで「そうですね」と相槌を打ちつつ、ルネッタをピカピカに磨き上げた。そんで、ソフィに丁寧にお辭儀をし、「夕食までごゆっくりお過ごしください」とルネッタを連れて行ったのだ。研究室に行くのか、自室へ促すのか。ちょっとだけ気になるところである。
そう。
お風呂だ。凄かった。
ソフィは思い出し、ほうとため息をついた。
城のお風呂は、凄かった。
ソフィーリアが育った部屋が3つはりそうな広いお風呂は、口からお湯を出す獅子の像や、お湯の噴水もある豪華さで、これまたひっろい湯舟にはとても良い香りのする花弁まで浮かべられていた。お姫様特典なんだって。ちょっと意味がわかんないすね。
そして、財力と権力を見せつけるかのような、豪奢なお風呂でピッカピカに磨かれたのはルネッタだけではない。
ソフィもまた、城のメイドと侍によってを洗われ髪を洗われ香油を使ってマッサージされ、つやっつやのすっべすべのうっるうるだった。自分のが気持ちよくて、無意味にっちゃう。
「なんてしいおの髪なんでしょう。ペリドットを織り込んだ絹のようですわね」
「おも健康的でおしくていらっしゃるわ。お化粧をするのは勿ないかしら」
「でも、こんなにお可らしいのですもの。もっとお可らしくもっと華やかになるようにお手伝いするのが、わたくしたちの使命ではなくって?!」
「その通りだわ!マダム・ライディアの新作ドレスがきっとお似合いですもの!ドレスにあったメイクをご提案させていただきましょう!」
てな合に、とっても優しくてとっても仕事熱心なメイドさんと侍さんによって、ソフィはキラッキラに磨きあげられた。
いやあ、凄かった。
人前でうっかり眠りこけるという失態を犯すほど、気持ち良くてぽかぽかする素敵時間。
こんなに幸せで良いのか?! と全ての人に問いかけたいくらいに、ほこほこに仕上げられたソフィは、マダム・ライディアの一押しドレスを手にしたメイドさんと侍さんにドレスアップされた。
マダム・ライディアとは、この國で今一番人気のデザイナーらしい。
高価なドレスなど、と恐するソフィに「ヴァイス様に叱られてしまいます」と、嫌味なく、かつ半ば無理やりに、メイドさんと侍さんは綺麗なドレスをソフィに著せてしまった。
浴中に手配したというのだから恐ろしいほどの手際の良さだ。
薄い水のドレスは、大きくも小さくも無く、ソフィの地味な顔に不似合いなリボンも大げさな寶石も無い。ソフィが心から「可い」とが高鳴るデザインだった。
厚意と好意でできた、上品で可いドレスと部屋。そんな優しいものに囲まれて、ソフィは目を閉じた。
ほどよい倦怠が、眠気をう。
目を閉じる前のソフィの視線の先では、すでに日が暮れ、窓から星の輝きが見えていた。
新鮮な野菜がとても味しいサンドイッチと、アズウェロも夢中になるクッキーも、そろそろソフィの胃袋から姿を消している。
お腹が減ってきたなあ、とソフィは目を開けた。
國が違えば、食事も変わる。
食への興味に目覚めたソフィのお腹が、くう、と鳴った。ううん、って正直だ。
コンコン。
はて、今までこんなにまったりと無為な時間を過ごしたことがあっただろうか、とぼんやりしていたソフィは、ふいに響いたノックに慌ててを起こした。
「はい。どうぞ」
聲を掛けると、ガチャ、と控えめにドアが開いて、そんでソフィは停止した。
橫に流した夜のような髪に、野外を知らないのではと思わされる真っ白の、艶めくアメジストを縁取る、空を切るような長い睫。リップを塗っていらっしゃいますかと問いかけたくなるようなのある。
長い手足で著こなす、國寶級の貌を引き立てる白いジャケットにパンツを引き締める黒いシャツが、彼が地上の人であることを知らしめるようで。ジャケットに付けた薄緑の寶石は、ソフィが天使を地上に留めているかのような背徳さえじる。
つまり、ソフィと同じく磨きあげられたリヴィオの姿に、ソフィは気を失う寸前だった。
え、かっこよすぎしすぎ素敵すぎ。
しっかりと目が合ったリヴィオは、はっとしたように扉を閉めると、頬を染めた。
「ソフィ様、今日は一層おしくていらっしゃいますね」
こっちの臺詞じゃーい!って話だ。
しいって言葉が実化したんじゃないか。しいという言葉が「僕にしいという言葉は荷が重いです彼に譲渡します!」と宣言するんじゃないか。
そんな人に褒められたってお前、嬉しくない。わけがない。は? 普通に好き。普通に幸せ。
勘違いしてほしくないのが、ソフィだって、イケメンに褒められただけで嬉しい、と有頂天になるほどお手軽脳みそ君ではないぞ、ってとこだ。
大好きなリヴィオが、きっと本気でソフィを褒めてくれている、そう思うからこそ、浮かれ脳みそ君が、鈴を片手に頭を転がり飛び出して行くのだ。シャンシャンシャン、と頭の外を駆けまわっている。帰って來い。
「リヴィオも、一段とカッコいいです」
「うっ」
だからソフィは、立ち上がって、凜々しい裝いのリヴィオに微笑む。
リヴィオは、を押さえて天を仰いだ。
「そんなに可くて僕をどうするおつもりですか…!」
迷っとるな。
そんなことを言うのは、世界でただ一人リヴィオだけだろう。
リヴィオの趣味がおかしくて良かった、とソフィはリヴィオの手を引いた。
背の高いリヴィオを見上げ、首を傾げる。
「ルネッタの侍の方が、いつでもお茶が飲めるようにセットしてくださっているの。座りませんか?」
「今日は僕の命日ですか?」
「怖い事を言わないで」
「かっわ」
リヴィオは目を閉じてプルプル震えた。
だから可いのはそちらでは。
ソフィが座っていた椅子の向かいにリヴィオを座らせ、ソフィはポットを手に取る。
ルネッタ考案の魔法石を底に埋め込んでいるというポットのお湯は、未だ溫かい。茶葉をれてくれているティーポットにそのお湯を注ぎ、蒸らす。茶葉が広がるのと同時に鼻をくすぐる良い香りに目を細めながら、ソフィはさて、と考えた。
言うか。否か。
これを言うのは、ソフィの自滅を意味する。
ソフィだって恥ずかしいのだ。けれど、嬉しくもあるわけで。
覚悟を決めたソフィは、顔を上げる。
「一つ聞いても良いでしょうか」
「は、はいっ」
顔を上げると、リヴィオとバチッと目が合った。
え、ずっと見てたのか? うん、見てたんだろうなあ。
ソフィだってリヴィオを見ていたい。ずるいな、とソフィは視線を下ろし、カップにお茶を注いだ。
「……ねぇ、リヴィオ」
「なんでしょう」
なんでしょう、だって。
綺麗な顔ですましちゃってさ。かっこいいんだから、もう、とソフィは心、浮かれ脳みそ君と転げまわりながら、靜かにカップをリヴィオの前に置いた。
リヴィオが、カップを持ち上げる。
細くて長い、でも男らしいごつごつとした指が、ハンドルを用に摑んで、流れるように口に運ぶ。
まさしく天地創造の神による最高傑作。
ほう、と見惚れながら、ソフィはそれを口にした。
「もうソフィと呼んでくださらないの?」
一生見ていても飽きないんじゃなかろうか、というしき騎士は、盛大にむせた。
予防接種3回目行ってきました。5日間調が戻らず、またストック切れ起こしました。
明日も更新が遅くなるかと思いますが…頑張ります。
接種されるみなさまも、副反応頑張って乗り越えてくださいね…!
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