《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》15、特別な運命の特別な子供
「誰に向かってそんなことを言っているのかわかっているのか? シェイマス」
お兄様は怯まなかった。
「失禮はお詫びします。しかしーー」
「答えろ! 誰に向かってそんなことを言っているんだ?!」
お兄様は諦めたように、聲を落として答えた。
「……父上です」
「それだけか? 私はお前の父親、それだけの男か? よく考えろ。私の分はなんだ?」
お兄様は平板な聲で答えた。
「……オフラハーティ公爵です」
「そしてお前は?」
「その息子です」
「そう、ただの息子。それだけ。私が家督を譲るまでお前はただのシェイマスだ。よく覚えておけ」
「ーーはい」
「ふん」
父は勝ち誇った顔をして、朝食の続きを食べ始めた。父以外は誰も食事に手を付けなかった。
「ですが」
お兄様が再び何か言おうとしたが、私は首を振ってそれを止めた。
ーーもう十分ですわ、お兄様。
お兄様はそんな私をしばらく見つめていたが、諦めきれないというように口を開いた。
私は思わず目を伏せる。
「父上、最後にこれだけはお答えいただけないでしょうか」
「なんだ?」
「父上はクリスティナにだけ厳しいように思うのですが、なにか理由があるのでしょうか」
こんなシェイマスお兄様は初めてだった。
ミュリエルも同じようにじたらしく、どこか戸ったように座っている。
勘違いしているようだが、と前置きして父が話し出した。
「私は別にクリスティナに厳しくしているわけではない。だが、ミュリエルを優先するあまり、結果的にそうなっていることはあるだろう」
「ミュリエルを優先? なぜですか」
父はしばらく考えていたが、頷いた。
「そうだな、そろそろ、しだけでも話した方がいいかもしれないな」
ーー理由があるの?
私もお兄様もミュリエルも、息もせず父の次の言葉を待った。
父は、ミュリエルだけに優しげな視線を向けた。
「実はミュリエルは、特別な運命の元に生まれた、特別な子供なんだよ」
‡
ドーンフォルト國との國境の村、ブリビートで。
野営の準備をしながらイリルは、村の責任者のところに行ったブライアンを待っていた。
「遅いな」
「何かあったのでしょうか」
デニスとそんな話をするほど、ブライアンの帰りは遅かった。
やがて。
「イリル様、お待たせしました」
ブライアンは息を切らせて、一人で戻ってきた。
「どうだ? 何かわかったか? 村長は?」
察しはついたが、イリルは念のためそう聞いた。
「村長も、亡くなっていました。昨夜だそうです」
「やはり流行り病か?」
ブライアンは肩を落とした。
「それがそうではないのです。何人も死んでいることは確かなのに、原因はみんなバラバラなんです。ある者は川に足をらせ、あるものは食べにあたり、あるものは木から落ちて」
それが本當なら隨分奇妙な話だ。
ブライアンは続ける。
「信じられないんですが、一人一人は本當に事故のようです。村長は落馬して、打ち所が悪かったそうですが、馬にも鞍にも異常はなかったそうです」
「しかし、短期間にまとめて事故が起こるのはおかしいだろう」
「はい。その通りです」
新しい墓は十數個あった。つまりそれだけの人數が、偶然この短い間に事故に遭ったという。
「信じられないな」
ブライアンが、それで、と続ける。
「村一番の年寄りがイリル様にお話したいことがあるとのことなのです。なにぶん足が悪くてけないので、ご足労いただいてよろしいでしょうか?」
考える間もなくイリルは承知した。
‡
「こんなむさ苦しいところで申し訳ありません」
「いいや、こちらこそ突然すまないね」
挨拶もそこそこに、村一番の老婆、リュドミーヤは語り始める。何歳なのか、顔も手も皺だらけだったが、言葉ははっきりしていた。
「何十年、何百年に一度、こんなことがあるんですよ」
イリルとブライアンとデニスは、リュドミーヤを囲むように座って話を聞いた。
「何度もあるのか? こんなことが」
「はい」
「信じられない」
イリルが呟くと、鋭い目で抜かれた。
「殿下は、隣の國がなぜここを攻めてこないか、おわかりですか?」
「この高い山のおかげだろう。山に守られている」
リュドミーヤは殘念そうに答えた。
「半分正解で、半分間違っています」
「どういうことだ?」
「畏怖すべきもの、それが山です。もちろん、山だけではありません。空も、雲も、水もすべて尊く、すべて恐ろしい。隣國はこの山そのものを恐れているから、なかなか手を出さないんですよ」
「山そのもの? どういう意味だ?」
リュドミーヤはそれには答えなかった。代わりにイリルに質問する。
「殿下はここに來る前に、墓を見てきましたよね」
「ああ」
イリルが頷くと、リュドミーヤは満足そうに続けた。
「我々は死んだら、あのように山で眠ります。山は、我々の先祖たちの帰る場所です。それは隣國も同じ。この山の向こう側では、彼らの先祖が眠っているのです。だから彼らはここを攻めない」
「なるほど……」
イリルは、ついさっきまで見ていた墓石を思い出した。
「安らかに眠っていただくために、我々は様々な祀りを行います」
村で行われる年中行事のことだろう。見たことはないが、話には聞いている。
「それでも、人間のすることです。不備がある」
リュドミーヤはため息をついた。
「土壁が、小さなひびから崩れるように、我々の隙を突いて、『魔』がはびこる。そんなとき、あれが起こるのです」
デニスは首をひねりながら、ブライアンはまばたきを繰り返しながら、なんとか話を理解しようとしていた。
しかし、リュドミーヤに質問するのはイリルだけだった。
「リュドミーヤ殿。その魔とはなんだ?」
「魔は、魔です」
リュドミーヤはきっぱりと答える。
「もうし詳しく教えてもらえないか」
「善の邪魔をし、聖を葬ろうとする。聖なる者を邪魔するのが、魔です」
「つまり、それが現れたから村人は事故にあったと?」
「はい。これから我らは村中で魔除けの祈りをせねばなりません。そんなとき、殿下のような顔の広いお人が來てくれた。殿下、お願いがあります」
リュドミーヤはイリルが引きけるのは當然といった調子で続けた。
「聖なる者を探してください。魔はその方にしか防げません。そして魔が広まると、隣國も山を敬うのを忘れ、攻めてくる。過去の戦爭はそのように始まりました」
どこまでが本當かわからないが、リュドミーヤが噓をついていないのはわかった。
イリルとて隣國の侵略は防ぎたい。
協力してやたい気持ちはある。
だが。
「その者がその者であると、どうやったらわかるんだ?」
リュドミーヤは大丈夫、というように初めて微笑んだ。
「天は我らを決して見放しません。守り石を握りしめて生まれてきたの赤ちゃん。その者を探してください。それが聖なる者です」
「守り石」
「はい。すでに長して我らを救うために待っているはずです」
‡
「ミュリエルが特別な運命に生まれた、特別な子供とはどういうことですか?」
誰もが疑問に思ったことをお兄様が聞く。
父は殘念そうに答えた。
「まだ話せない」
「そんな」
父は私を見て、吐き捨てるように言った。
「私だって生まれるまでは、クリスティナに期待していたんだ。お前こそが特別な運命に生まれた特別な子供だろうと」
なんのことかわからないが、私は父の期待に応えられなかった子供であることだけはじ取った。
父は私の反応など気にもせず話す。
「だが私の期待は裏切られた。その代わり、後から生まれたミュリエルが、見事期待に応えてくれた。そういうことだ」
お兄様は、まだ納得できないようだ。
「まだ話せないとおっしゃいますが、では、いつなら話してくださいますか?」
「ミュリエルが十六歳になるときだ。そのとき話そう」
あと、三年。
奇妙な符號に思えたが、私は何も言わなかった。
「……失禮します」
「クリスティナ!」
もはや食などなくなり、私は挨拶もそこそこに部屋を出た。
廊下を駆け出したくなるのを必死に抑える。
ーーイリルに會いたい。
そんなのはダメだ。
自分の寂しい気持ちをイリルで誤魔化そうとしている、と涙を堪えた。
だが、ついに我慢しきれず、寢室にった瞬間、私は泣き崩れた。
私の二度目の十五歳は、そのようにして始まった。
【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】
スキルと呼ばれる特殊能力が発現する世界で、老人であるディルはある日突然力を得た。ただ殘念なことに、それは老體では扱いに困るような戦闘に特化した能力だった。「わし、もういい年なんじゃけどなぁ……」 齢六十を超えた老人による遅すぎるセカンドライフが今、始まる。 ※書籍化&コミカライズ決定しました! 書籍の発売日は5/2、レーベルはドラゴンノベルス様、イラストレーターは吉武さんです!
8 161【書籍化決定!】最強スキル持ちは、薬草採取しかできない
【早くも書籍化決定しました! 詳細は後日発表!!】 主人公『エピク』は冒険者。 『どんなモノでも消滅させることのできる』という最強のスキルを持ちながら評価されず、最低のF級冒険者のままだった。 ある日ついに実力不足を理由にギルドを解雇されてしまう。 職を失った『エピク』は偶然薬草摘みの少女と出會い、彼女の仕事を手伝うことに……。
8 99ドラゴンガール!〜現代社會に竜娘!?〜
この時代において不思議な生き物や魔法、神話や伝承などに出てくる神、そんなファンタジーは完全に否定された………… はずなんだけどなぁ………… ファンタジーが完全否定された現代社會で突然翼と尻尾を持つ龍の女の子になってしまった色々と規格外な主人公が送る、笑いあり苦労ありの多難な日常を描いた物語。 可愛らしくも苦難や困難に立ち向かうその姿、良ければ見ていきませんか? 日間ローファンタジー最高20位を獲得! ※TS物です ※學校編は2章からです この作品はカクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。
8 104虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした
高校二年の桜木 優希はクラス中で虐められていた。 誰の助けも得られず、ひたすら耐える日々を送っていた。 そんなとき、突然現れた神エンスベルによって、クラスごと異世界に転生されてしまった。 他の生徒に比べて地味な恩恵を授かってしまった優希は、クラスメイトに見捨てられ命の危機にさらされる。気が付くと広がる純白の世界。そこで出會ったのはパンドラと言われる元女神だった。元の世界へ帰るため、彼女と契約を結ぶ。 「元の世界に帰るのは僕だけで十分だ!」 感情や感覚の一部を代償に、最強の力を手に入れた優希は、虐めてきたクラスメイトに復讐を決意するのだった。 *この物語の主人公は正義の味方のような善人ではありません。 クズで最低でサイコパスな主人公を書くつもりです。 小説家になろう、アルファポリスでも連載しています。
8 134能力しかないこの世界で
舞臺は現代日本に近い平和な國ショパン。その國では2種類の人間がいた。1つはある特殊能力を持つごく1部の人間、もう1つはその特殊能力を持たない多數の人間。特殊能力を持たない人間達(以後無能力者と言う)は特殊能力を持つ人間(以後有能力者と言う)を妬み迫害していた。そんな世界を変えるために主人公、柊和斗とその仲間達が戦う物語です。 ※初投稿になります。未熟な部分が多數ありますが、是非是非コメントでご指摘や感想などをしてくれるとありがたいです。一定の部分までは書いてあるのですぐ進むかも知れませんが、その先は不定期更新になってしまうことをお許しください。
8 152量産型ヤンデレが量産されました
朝起きたら妹の様子が超変だった。 不審に思いつつ學校に行ったらクラスメイトの様子が少し変だった。 そのクラスメイトから告白されて頼み事された。 俺は逃げた。 現在1-13話を改稿しようとしてます 文章のノリは14話以降が標準になるのでブクマ登録するかの判斷は14話以降を參考にしていただけるとありがたいです。 現在1-3話を改稿しました
8 176