《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》19、すべてそこにあって當たり前のもの
‡
アカデミーに戻ったシェイマスは宮廷の図書室に向かった。
「熱心だな、シェイマス」
「まだまだ未なもので」
顔見知りの騎士と、すれ違いざま軽口を叩く。
けれど、目的までは言えなかった。
文の仕事ともアカデミーの課題とも関係ない、まったくの個人的な理由だったからだ。
「よし、誰もいないな」
り口で辺りを見回してそう呟いた。
「うへえ、埃っぽい」
お目當ての本は、書庫のさらに奧にあった。
「オフラハーティ…オフラハーティ…あった」
分厚い『建國史』の本を手にしたシェイマスは、備え付けの椅子に座りページをめくる。
「カハル王國の四大公爵家のひとつ、オフラハーティ家は、王國が立ち上がるときに大いに盡くした家門だ……それだけ?」
このところずっとオフラハーティ家について調べていたシェイマスだが、なかなかむものは見つけられなかった。
だけど、どこかほっとしている自分もじていた。
「これで見られる範囲の本は全部探した」
もしかして自分は、どこにも「それ」が記載されていないことを確認したかっただけなのかもしれない。
「『特別な子供』なんてどこにも載ってないじゃないか」
書庫に本を戻しながら、シェイマスは小さく呟いた。
‡
由緒ある家門のオフラハーティ家は、他の公爵家に比べても所有地が一番広く、王家の信頼も厚かった。
特に大きな災害も遭わず、領民にとっても長い間、名君だった。
代を重ねるごとに、平穏が當たり前になり有り難みが薄れてしまったが、何も起こらなければ問題はない。
領主の顔など知らなくても、領民たちは平凡に過ごすことができればいい。
その領主、クリスティナの父であり、オフラハーティ家の現當主である、オーウィン・ティアニー・オフラハーティは、この家門に生まれたことに、いちども謝したことがなかった。
すべてがそこにあって當たり前のものだったからだ。
同じように自分の命令は誰もが率先して聞くのが當たり前であり、自分がしいものは誰かが喜んで與えるのが當たり前だと思っていた。
オーウィンの父、ウィクリフも、同じ考えの持ち主だった。だから、オーウィンは、何一つ咎められることなく好き放題して生きてきた。
——生まれながらに力があるとはそういうことだ、と。
しかし。
いくら力がある家門でも、現狀維持の努力さえしなければ、徐々に、本當にゆっくりと、傾いてくる。
誰もわからない程度の変化から、ゆっくりと。
オフラハーティ公爵家の名産は、淡水魚の養業だった。
領地を流れる川を利用する。広大な領地があってこそ、出來ることだ。
陸部でも魚が食せるとあって、需要は盡きなかった。
しかし、管理が杜撰なことから、採れ高が以前ほどではなくなってきた。
それでも、まだ生活が一変することはなかった。
だからオーウィンは気にしなかった。
昨日まで大丈夫だったのだから、今日も大丈夫だろう。
そう思っていたのだ。
大、領地だけにかまけていられない。
宮廷でも重要な任務があるのだ。
外もするし、賢人會議にも出席しなくてはならない。
領地など誰かに任せておけばなんとかなるだろう。
そんなふうに思うオーウィンは、に関してもだらしなかった。
金髪で青い瞳のオーウィンは、整った顔立ちをしていた。そこに公爵家の肩書きが付けば、どこにいってもオーウィンの周りに人が集まってくる。
結婚するまではそれなりに火遊びも楽しんだ。
だが二十四歳のときに、オキャラン伯爵家令嬢であるアルバニーナ・ユイト・オキャランと突然婚約した。
もちろん、政略結婚だ。
一族の中に聖職者を出すことの多い、オキャラン家は、堅苦しい家風なのか、口うるさかった。
アルバニーナも例外ではなく、まだ結婚していない、婚約中なだけなのに、遊びを控えるよう申し立ててきた。
自分に命令するなんて生意気だと思ったオーウィンは、わざと、アルバニーナに仕えるメイドに手を出した。
それが、エヴァ、ミュリエルの母だ。エヴァは平民出とは思えない、しい外見をしていた。
貴族ではないところも新鮮だった。
のめり込んだオーウィンはエヴァとの関係を持ったまま、アルバニーナと結婚した。
オーウィン二十七歳。
エヴァとアルバニーナは、十九歳だった。
さすがに同じ屋敷に暮らすようになってからは、オーウィンも慎んだ。
エヴァにはいつか正妻にしてやるから、今はおとなしくしているように言い聞かせた。
そんなことも知らないアルバニーナは、間もなく長男シェイマスを出産、二年後には長クリスティナを産んだ。
クリスティナが生まれるとき、オーウィンはかに期待した。
オフラハーティ家の特別な加護が、児に現れるときがあると父から聞いていたのだ。
だけど、クリスティナはアルバニーナとそっくりな容姿の、普通の子供だった。
オーウィンはあからさまにがっかりした。
悔しいからアルバニーナを遠ざけ、今まで以上にエヴァにを囁いた。
あまりにあからさまだったため、ついにアルバニーナの知るところになり、エヴァは自らを引いたーーように見せかけた。オキャラン伯爵家の手前。
実際は、エヴァはオーウィンが用意した別宅で暮らした。
そして、クリスティナが生まれた二年後、ミュリエルが生まれる。
ミュリエルは自分によく似た容姿の、「特別な子供」だった。
「やったぞ、エヴァ、でかした」
「……アルバニーナ様にできないことを、しましたか?」
「ああ! もちろんだ!」
エヴァは聖母のように微笑んだ。
オーウィンが覚えている限り、一番しいエヴァの姿だった。
そしてオーウィンのエヴァへの関心も、それが頂點だった。
ミュリエルが産まれた四年後に、アルバニーナが亡くなったが、オーウィンはエヴァを迎えにいかなかった。
その六年後、日ののまま、エヴァも亡くなった。
すると、オーウィンは、いそいそとミュリエルを引き取った。
「特別な子供」であることは隠していたので、とにかく可がるように、シェイマスとクリスティナに言い聞かせた。
その甲斐あって、ミュリエルは日に日にしく、聡明に育った。
はずだった。
‡
「お父様! ずるいですわ! 私も宮廷に行きたいです!」
クリスティナがいなくなってから、ミュリエルのわがままの矛先はオーウィンに向いた。
「駄目だって言っているだろう」
すでに打診したのだが、斷られたのだ。今はクリスティナだけで十分だと。
だが、ミュリエルはそんなことでは納得しない。
「ずるいですわ! お姉様ばっかり! お父様は私を大事にしてくださいませんの?」
改めて観察すると、ミュリエルはまだまだマナーがなっていない。
これでは、とても宮廷には出せないとオーウィンは思う。
こんなに気がなくわがままだとは、エヴァに似たのに違いない。
「お父様! 無視しないで。聞いて! 聞いて! 聞いて!」
クリスティナがいた頃は、ミュリエルのことはクリスティナに任せておけばよかった。
クリスティナがいない今、使用人たちに避けられたミュリエルは、オーウィンのところに來るしかない。
「うるさい! 黙れ!」
オーウィンはミュリエルを怒鳴るしかなかった。
けれど。
「ひどぉい!! お父様! ひどぉい!」
シェイマスやクリスティナなら、それで黙るのに、この末の娘はさらにうるさく言い募るのだ。
オーウィンは頭が痛むのをじた。
【書籍化+コミカライズ】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み
★書籍化&コミカライズします★ 目が覚めると、記憶がありませんでした。 どうやら私は『稀代の聖女』で、かなりの力があったものの、いまは封じられている様子。ですが、そんなことはどうでもよく……。 「……私の旦那さま、格好良すぎるのでは……!?」 一目惚れしてしまった旦那さまが素晴らしすぎて、他の全てが些事なのです!! とはいえ記憶を失くす前の私は、最強聖女の力を悪用し、殘虐なことをして來た悪人の様子。 天才魔術師オズヴァルトさまは、『私を唯一殺せる』お目付け役として、仕方なく結婚して下さったんだとか。 聖女としての神力は使えなくなり、周りは私を憎む人ばかり。何より、新婚の旦那さまには嫌われていますが……。 (悪妻上等。記憶を失くしてしまったことは、隠し通すといたしましょう) 悪逆聖女だった自分の悪行の償いとして、少しでも愛しの旦那さまのお役に立ちたいと思います。 「オズヴァルトさまのお役に立てたら、私とデートして下さいますか!?」 「ふん。本當に出來るものならば、手を繋いでデートでもなんでもしてやる。…………分かったから離れろ、抱きつくな!!」 ……でも、封じられたはずの神力が、なぜか使えてしまう気がするのですが……? ★『推し(夫)が生きてるだけで空気が美味しいワンコ系殘念聖女』と、『悪女の妻に塩対応だが、いつのまにか不可抗力で絆される天才魔術師な夫』の、想いが強すぎる新婚ラブコメです。
8 96【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社交界の幻の花でした
舊タイトル【兇悪騎士団長と言われている厳つい顔の公爵様に婚活終了のお知らせ〜お相手は社交界の幻の花〜】 王の側近であり、騎士団長にして公爵家當主のヴァレリオは、傷痕のあるその厳つい顔から兇悪騎士団長と呼ばれ、高い地位とは裏腹に嫁探しに難航していた。 打診をしては斷られ、顔合わせにさえ進むことのないある日、執事のフィリオが発した悪気のない一言に、ついにヴァレリオの心が折れる。 これ以上、自分で選んだ相手に斷られて傷つきたくない……という理由で、フィリオに候補選びを一任すると、すぐに次の顔合わせ相手が決まった。 その相手は社交界で幻の花と呼ばれているご令嬢。美しく引く手數多のはずのご令嬢は嫁ぎ遅れに差し掛かった22歳なのにまだ婚約者もいない。 それには、何か秘密があるようで……。 なろう版と書籍の內容は同じではありません。
8 81【書籍化】絶滅したはずの希少種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】
【書籍化&コミカライズが決定しました】 10年前、帝都の魔法學校を首席で卒業した【帝都で最も優れた魔法使い】ヴァイス・フレンベルグは卒業と同時に帝都を飛び出し、消息を絶った。 ヴァイスはある日、悪人しか住んでいないという【悪人の街ゼニス】で絶滅したはずの希少種【ハイエルフ】の少女が奴隷として売られているのを目撃する。 ヴァイスはその少女にリリィと名付け、娘にすることにした。 リリィを育てていくうちに、ヴァイスはリリィ大好き無自覚バカ親になっていた。 こうして自分を悪人だと思い込んでいるヴァイスの溺愛育児生活が始まった。 ■カクヨムで総合日間1位、週間1位になりました!■
8 63極限まで進化した頂點者の異世界生活
主人公の黒羽海斗は他の人間とは違うものを持っていた。完全記憶能力、そして、絶対なる力・・・破壊と創造の力を・・・ これは人間が進化をした先にもつ頂點の能力だった・・・ 力を使い、大切な物を守り抜く。 これはそんな主人公の異世界生活の物語。 注意無雙はしません。 応援お願いします。 更新は進みしだい更新します。 不定期の更新だと思います。
8 174デフォが棒読み・無表情の少年は何故旅に出るのか【凍結】
特に希望も絶望も失望もなく 夢も現実も気にすることなく 唯一望みと呼べるようなもの それは “ただただ平々凡々に平和に平穏にこの凡才を活かして生きていきたい” タイトルへの答え:特に理由無し 〜*〜*〜*〜*〜*〜 誤字脫字のご指摘、この文はこうしたらいいというご意見 お待ちしていますm(_ _)m Twitterで更新をお知らせしています よろしければこちらで確認してください @Beater20020914
8 60デザイア・オーダー ―生存率1%の戦場―
「キミたちに與える指示は一つだけ。――ボクに従え」機械都市。誰かが初めにそう呼んだ。世界中に突如出現した機械生物【ドレッドメタル】は人類の主要都市を奪い、鋼鉄で構成された巨大建造物『機械都市』へと変貌させた。脅威的な機械生物と戦うために編成された、機械都市攻撃派遣部隊に所屬する小隊指揮長「亜崎陽一」は、特殊な能力を持つ『覚醒者』の少女「緋神ユズハ」と出會い、機械都市東京の奪還を目指していく。超大規模なエネルギー兵器群、超常的な力を行使する覚醒者たち、最先端の裝備を駆使して戦う一般兵。ーーようこそ、絶望に染まった戦場へ
8 123