《【書籍化+コミカライズ】悪聖ですが、する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み》18 大きな反省點です!
オズヴァルトが褒め言葉を口にしてくれた。それを噛み締め、背筋がしびびびっと痺れるのをじる。
(どうして音は、閉じ込めて保管できないのでしょう……!! ああっ、記憶が新鮮な今のうちに反芻しておかねば! 『エラカッタナ、エラカッタナ、エラカッタナ』……)
「……それで、シャーロット」
「はい!」
オズヴァルトに名前を呼ばれ、床から彼を見上げる。するとオズヴァルトは、眉を寄せたままで言った。
「廊下に出ていた配膳臺はなんだ?」
「あっ」
それはもちろん、シャーロットの夕食である。
ハイデマリーの屋敷から戻ったあと、昨日同様に、食事が廊下へ置かれていた。
シャーロットはそれを味しく平らげたあと、食を片付けて、そっと廊下に戻したのだ。恐らくは、それをオズヴァルトに見られてしまったのだろう。
「主人が食事を取ったあと、その配膳臺を片付けないまま立ち去るのは有り得ない」
彼は眉間の皺を深くして、シャーロットを見下ろした。
「――屋敷のメイドは、君の側仕えを放棄しているのか?」
「いえ、まさか! そんなはずもありません、メイドさんたちには至れり盡くせりのお世話をしていただいています!」
「放棄しているんだな」
(いっ、息をするように見破られました!!)
オズヴァルトは額を押さえ、溜め息をつく。
「執事を通し、厳重に注意しておく。……処罰についても検討しよう」
「あの、いえ、オズヴァルトさま! 実は、私からメイドの皆さんにお願いしたのです。夕食を運んでいただいたら、すぐに下がって休んで下さいね、と」
「ほう? 何故そんなことを」
「そ、それは……」
疑いのまなざしを向けられ、床にちょんと座り直した。
(このままでは、メイドさんたちが叱られてしまいます! 悪いのは、あれほど真っ青な顔になるまで怯えさせてしまう私の方ですのに。ここはどうにか誤魔化さなくては!)
視線を右に彷徨わせる。
「ええと……」
そのあとで、左に戻す。
だが、生憎シャーロットの頭には、オズヴァルトのことしか記憶されていない。
「オズヴァルトさまが、お帰りになるので……?」
「何故、俺の帰宅に合わせてメイドを下がらせるんだ」
「え!? そっ、それは、だって!!」
そのとき咄嗟に閃いたのは、オズヴァルトと自分の関係だ。
「――私たち!! これでもっ、新婚夫婦ですし……!?」
「………………」
その瞬間、オズヴァルトがぴしりと固まった。
(ああっ、我ながらまったく訳の分からないことを理由にしてしまいました!!)
新婚だから何だというのだろう。そう突っ込まれては、返す言葉もないのだ。
(……あら? でも、オズヴァルトさまが若干たじろいでいらっしゃるような……?)
「………………」
彼は、どうしてかそこから一歩下がると、ものすごく低い聲で言葉を紡ぐ。
「………………昨日から、君に、尋ねておきたかったことがあるんだが」
「はいっ、なんでしょう?」
なんとなく、話の矛先が変わったような気がした。
それに期待していると、オズヴァルトは渋面のままで言うのだ。
「どうして毎夜、そんなに薄手のナイトドレスを著ている?」
「え? 私がですか?」
「自覚が無いのなら、自分でちゃんと確認してみろ」
「……」
そう言われ、改めて自の姿を見下ろした。
今夜著ているのは、パステル・ブルーのナイトドレスだ。
シャーロットの髪は淡い金で、瞳のも水なため、全的に調和が取れた合いになっている。
これは、裝部屋のクローゼットから見付けたものだった。昨日著ていたピンクのナイトドレス同様、とても気にっているのだが、オズヴァルトの言う通りかもしれない。
「確かにこのナイトドレス、裾や鎖骨の辺りがけていますものね。よく見ると、うっすらとですが」
「……よく見ていないから知らない」
「ノースリーブのドレスですし、襟ぐりも大きくおまで開いています。なのでこちらもよく見ると、出が多いと言えるかもしれません」
「よく見ていないから知らない」
二度ほど繰り返して言われたところで、シャーロットははっとする。
「――ごめんなさい!! ひょっとして、お見苦しい姿でしたか!?」
「だから、よく見ていないから知らないと言っている!!」
けれどもこれは一大事だ。オズヴァルトにとって、こういった服は好ましくないものらしい。
「申し訳ございませんオズヴァルトさま!」
シャーロットは慌てて立ち上がると、ひとまずナイトドレスの裾を引っ摑んだ。
「私ったら配慮が足らず……! このドレスはいますぐ迅速に、それはもう早急に著替えますので!!」
「待て、何故この狀況でここで著替えるんだ!? やめろ、絶対にやめろ!!」
「あわわわわわ……じゃあぎます、とりあえずぎます!!」
「そういう問題じゃない!!」
大混の中、オズヴァルトに背を向けて、摑んだナイトドレスの裾を上にあげようとする。
(一刻も早く、オズヴァルトさまのお嫌いな服はぎ捨てませんと……!)
「待……っ」
その瞬間、信じられない出來事が起こった。
「くそ……!」
オズヴァルトが、シャーロットのことを、後ろからぎゅうっと抱き込んで來たのだ。
「――――――……!?」
シャーロットは、すべての思考を停止させて直した。
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