《【書籍化+コミカライズ】悪聖ですが、する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み》22 旦那さまが外出著も格好良いです!
その日の午後、支度を終えたシャーロットは、約束の五分前となった瞬間に自室を飛び出した。
長い廊下を急ぎ、外套とドレスの裾をたくし上げて、吹き抜けになった階段をぱたぱたと駆け降りる。
「オズヴァルトさま!」
「……ああ」
一階のエントランスには、世界で一番しいその人が立っていた。
振り返ったオズヴァルトは、いつもと違う裝いだ。
勤めの前や仕事帰りではない、休日ならではの姿を目にして、シャーロットはへにゃへにゃとしゃがみ込む。
(オズヴァルトさまの、私服姿……っ!!)
「……?」
この日に彼が纏っているのは、上品な灰の外套だった。
その細なシルエットのしさだけ見ても、かなり上等な造りのようだ。
膝下までのロング丈は、長のオズヴァルトによく似合う。きっと彼が歩く度に、その裾が鮮やかに翻るのだろう。
襟には銀糸による細やかな刺繍が、さりげなくも華やかに施されていた。それ以外は至ってシンプルな意匠だが、オズヴァルトの顔立ちのしさを引き立てている。
つまり、今日もオズヴァルトがしい。
見れば、両耳にはカフスのような耳飾りも著けているようだ。裝飾品を付けるという意外まで見せられて、こちらの心臓が保ちそうにもなかった。
「おい、シャーロット」
「~~~~っ!! ――――っ、…………っっ!!」
「待て、何故人の姿を見て泣く……?」
口元を押さえてを震わせ始めたシャーロットに、オズヴァルトが一歩後ずさる。その顔は、完全にシャーロットを見て引いていた。
「うっ、ううっ、ううう……! 得の知れないものをご覧になる眼差しですが、私を認識して下さってありがとうございます……! とはいえ私からしてみれば、この世に存在することが信じられないのは、オズヴァルトさまの尊さの方で……っ!!」
「やめろ。人の存在を不確かなものにするな」
顔を顰めて言い放つと、オズヴァルトの赤い瞳がシャーロットを眺める。
「君は……」
「!!」
シャーロットは、ぴんと來てすぐさま両手を広げた。
この日にシャーロットが選んだのは、とにかく出のない服だ。
紫水晶のをしたドレスは、谷間どころか首までしっかりと覆われている。
その上から著た水の外套は、これ自もドレスのような形をしており、袖口にも襟にもふわふわのファーがついていた。
「ちゃんと、出はなく抑えましたので! どうぞ、いくらでもご覧下さい!」
「……」
これならば暖かい。何よりも、オズヴァルトの好みではない服裝からは外れているはずだ。
きらきらした瞳で見つめるが、彼はすぐさま視線を逸らし、ふいっとそっぽを向いてしまった。
「……もういい」
「はい!」
怒られなかったということは、これで合格點ということだろう。嬉しくて、シャーロットは満面の笑顔で頷く。
オズヴァルトは、何故かしだけ気まずそうな顔をしたあとでこう言った。
「手を出せ」
「? はいっ!!」
すぐさま両手を差し出せば、オズヴァルトがそこに何かを乗せた。
手渡されたのは、細い金の鎖に、水の石がついた裝飾品だ。
予想だにしていなかった品を見て、シャーロットは瞬きを繰り返した。
「こちらは……首飾り、ですか?」
「違う」
「ですが。細い鎖に、寶石のような飾りがついています」
するとオズヴァルトは、涼しい顔でこう告げる。
「これは、『迷子札』だ」
「迷子札!!」
シャーロットはあんぐりと口を開けて、手のひらに乗った裝飾品にじいっと見った。
「萬が一君がはぐれた場合も、俺からはある程度の場所が分かる」
「つ……つまり、に著けているあいだはどれほど離れても、オズヴァルトさまと繋がっていられるということですか!?」
「そうではない、あくまで監視の手段だ。君にやるから持っておけ」
「わああ、ありがとうございます……!! オズヴァルトさまからいただいた迷子札、ひんっ、嬉しいです……!!」
涙にぐすぐすと鼻を鳴らしながら、シャーロットはその『迷子札』を首から提げる。
瞳と同じアクアマリンの石が、しゃらしゃらと繊細な鎖に繋がれて、シャーロットの元で輝き始めた。
「えへへ、ぐすっ、早速著けてみました! いかがですか? オズヴァルトさま!」
「ああ。問題なく神力の反応が確認できる」
「似合っているなら嬉しいです……! とっても、とっても大事にします!!」
微妙に噛み合わない會話をしたあと、オズヴァルトは左手の腕時計を見ながら言う。
「ところでこの領地は、北の國境付近に存在している。他國からの侵略もあれば魔も出るという土地柄、主に賑わう商店といえば、武屋か魔道屋だ。――君はもちろん知っていると思うが」
「はっ、はい! もちろん知っています」
「よってこれから、國の南にある街に飛ぶ。そこは比較的平和で、服飾品の店も充実しているが、俺の領地ではない場所だ。――これも、知っていると思うが」
「はい! もちろん知っています!」
もちろんまったく知らないのだが、『シャーロット』であれば知っていることらしいので、自信満々な顔で頷いてみた。
(オズヴァルトさまが説明しながらお話しして下さるおで、問題なく知っているふりが出來そうです! なんて素敵なお方なのでしょうか。私が記憶喪失であることをご存知ないのに、こんなに懇切丁寧に……)
の大きさをしみじみ噛み締める中、オズヴァルトが続ける。
「君の社嫌いが幸いし、君の顔は神殿に出りしている神か、戦場で関わった兵くらいしか知らないはずだ。俺の顔はそこそこ知られてしまっているが……まあ、他領に俺がいると考える人間はない。目立たなければ問題ないだろう」
「分かりました! つまり、『移先で目立つな』ということですね!」
「本當に分かったのか……?」
疑いのまなざしを向けられる。けれどもオズヴァルトは、「まあいい」と零した。
そうして右手を空に翳すと、足元に魔法陣を展開する。
「わあ」
いつ見ても、素晴らしい魔法陣だ。
蕓品のようにしいのに、その構造は至って実用的なのだから見ってしまう。こうして眺めるだけでも、魔力が極限まで効率化されていて、驚嘆の域に達していた。
(あら? ですが、不思議ですね。オズヴァルトさまはきっと、膨大な魔力をお持ちのはず……。それなのに、どうしてここまでの効率化を?)
シャーロットは思わず首を傾げる。
(……これではまるで、消費魔力を節約なさりたいかのよう……)
「シャーロット。行くぞ」
「はい!」
名前を呼ばれ、思考はすぐさま掻き消した。
そしてシャーロットは、オズヴァルトの視線に促され、彼の描いた魔法陣へと一歩を踏み出す。
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